曲についての概要など

作詞:池田謙吉、作曲:池田謙吉・前田伸夫。ソルティー・シュガーのシングル、アルバム『走れコウタロー/ソルティーシュガー茶歌集』(1970)に収録。

走れコウタローを聴く

演奏が良い、ハーモニーが素晴らしいです。そのうえ、間奏の圧巻の競馬実況パフォーマンス。すごい。楽曲ひとつでこの高みに至っているものが世の中にいったいどれだけあるでしょう。

これだけのクオリティのものを発表して大当たりさせようものなら、一発屋とののしられようとも痛くも痒くもないのでは。それくらいに、音楽作品、録音物として独創性が高いと思います。

スタイル的な話をすれば、わかりやすいフォークミュージックかもしれませんが、その様式・文脈をつかって、自分たちの世界を確立しています。

もともと、遅刻癖(傾向)があるバンド内のメンバーをちゃかす趣が土台になって生まれた歌だ、というような風聞もあります。なるほど、この独創性の高さは、仲間うちのノリや一種の連帯感のうえに成り立っているのかもしれません。

仲間だけで通じるノリやあるあるは、ふつうは、サークルの外の人を排除してしまいます。仲間内では楽しいかもしれないけれど、俺にはなんだかわからないね……という、のけものを作ってしまう。その線が境界でもあります。

外からみればサークルはせまいのです。むしろ、自分たちだけで盛り上がっている少数の人こそが、社会(マス)から見れば浮く存在なのかもしれません。

……妄想が勝ってしまいました。『走れコウタロー』の話をば。

圧巻の競馬実況がスタートを切る前に、極めてノホホンとした、緊張感のないしゃべりが入ります。これはなんなのでしょう。公営ギャンブルについて話す議会での政治家の様子なのか、記者会見かなにかのつもりなのか。

するどいもの言いを、歯に衣着せぬなどと表現しますが、まるで歯に衣着せた切れの悪い口調です。もごもごとしてはっきりしない。テンポを引きずられる気持ち悪さです。

このもごもごのしゃべりが前面をじゃま(?)しますが、うしろでは猛烈に達者な撥弦楽器のリード、即興ソロ的な描きこみです。この楽器はなんでしょう、マンドリンあたりでしょうか。とにかく巧い。こんなに指が動くものなのか、ヒトって。疾風のごとく駆ける勇猛熾烈な競走馬の描写にちがいありません。あるいは、それを離れて遠くからみる滑稽さを感じさせる、小ぶりな楽器のかろやかでコミカルでせせこましい動きです。テープを早回しで観ているような。The Beatles『In My Life』の間奏のピアノはテープスピードをいじった手法が有名ですが、ソルティー・シュガー『走れコウタロー』の演奏は実寸大の時間の流れでコミカルでせせこましい、小動物を見ているような趣を提示します。

ノホホンとしたしゃべりが終わると、サァ、有名な競馬実況がはじまります。楽曲のパターンとしてはサビの再現のようになっていて、実況のうしろでは“走れ走れコウタロー”をボーカルが唱えます。本来は前面に来る「サビ」を背景に用いて、猛烈な滑舌を披露しています。

『走れマキバオー』としてこの楽曲を認知したのが私(1986年生)です。というか、その時はマキバオーの方がオリジナルだと思い込むのですね。「コウタロー」がオリジナルだと知るのは後年の話です。

走れマキバオー 曲の概要などについて

アニメ『みどりのマキバオー』(1996-1997)オープニングテーマ。フジテレビのアナウンサー:福井謙二、三宅正治、青嶋達也によるユニット「F・MAP」が歌唱。編曲:石川鷹彦。替え歌は大田一水によるとのこと。

F・MAP 走れマキバオーを聴く

マキバオーの歌は憶えていても、歌手が誰か記憶していませんでしたが……F・MAP……?エフ・マップ?いいえ、「フマップ」。スマップ(SMAP)にかけた駄洒落だそう。言われないとわからない。

しかもこれ、アナウンサーのユニットです。歌手を生業にする人じゃない。恐るべし、声を生業にするプロ。歌えますし、声の表情が逐一素晴らしい。アナウンサーって、歌手の活動をしていなくても、歌手なみ、いえ、歌手のアベレージを凌駕するほど「歌える」人が多いのじゃないかと邪推します。声優が歌手活動をするのはもう当たりまえすぎてなんの驚きもありませんが、アナウンサーはちょっと私の思う盲点でした。もちろん、アナウンサーがテレビのバラエティ番組とのタイアップなどで歌手とコラボして歌うとかあるいはソロで歌うとかいうことは例があることだとは思います。

注目すべきは競馬実況のところですね。前半の、歯に衣着せまくりのだらだらとした部分は、原曲を越えてさらにだらだらズルズルと歯切れの悪い印象のペダルを踏みまくっています。二人がかけあって「知事!」と問答しているのはオリジナルを逸脱するアレンジです。

後半の競馬実況は現役アナウンサーが本気出しているのを感じます。舌のまわりっぷりはさすがですね。競馬を愛し、趣味としてたしなむ、そのことが当たり前となっているがためにどこか平然とした印象を与える原曲のパフォーマンス(私の思い込みを含みます)と比べると、あくまで職業アナウンサーとして競馬を至高のナレーション技術で実況しているような印象をうけます。盛大に私の思い込みかもしれませんので、雑音として聞き流してください。

フィドルのようなバイオリンのような擦弦楽器が高らかでリッチな音像を提示します。とにかく、ボーカルの声の艶やかさ、これが歌手でなくアナウンサーだという驚嘆と感心が大きいです。その意味では、インパクトあるカバーだと思います。

F・MAPのカバーに水をさすようなことをあえていえば、競馬実況パートのところは、もっと熱量を抑えたほうが、かえって競馬の存在が日常と一体化した「変態性」「その道の仙人感」が出ると思います。

ヘンなたとえ話ですが、本当に格があってコワいマフィアやらやくざさんやらは、人に圧をかけるとき、大声でぎゃんぎゃん騒ぎ立てるのでなく、低く、落ち着いたトーンで、選り抜いた言葉を額縁で切り抜いたように対象者に嘆き、突きつけるはずです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>走れコウタロー

参考歌詞サイト 歌ネット>走れコウタロー

参考歌詞サイト 歌ネット>走れマキバオー

ソルティー・シュガーのアルバム『走れコウタロー/ソルティーシュガー茶歌集』(1970)

F・MAPのシングル『走れマキバオー』(1996)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『走れコウタロー(ソルティー・シュガーの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)