UNICORN『ヒゲとボイン』

UNICORNヒゲとボイン』。1991年のアルバムで、表題曲はアルバムリリース後にシングルカットされた。

2009年の再結成以前のキャリアでは後期、再結成後も含めると中期の作品か。

会社に勤めている男性?の主人公と、若いくせに?ヒゲを生やしている社長と、やせてるくせにボインで主人公の隣席の同僚?の女性の3人が登場する歌。つくり話だとしてもなんだかありそうに思える3人の関係。

この国のいち会社、局所的な箱の中で起こりうる人間関係をミュージシャンの奥田民生らがどうしてこうも能動的に描けるのかと言いたくなる(かくいう私こそ世間を知らないが)。こういう描写ができることと、実体験を本人を有するかどうかは必ずしも結びつくことではない。実体験があっても表現できるとは限らないし、なくてもそれができる。

漫画『ヒゲとボイン』

ヒゲとボイン』は小島功漫画のタイトル。これがUNICORNの『ヒゲとボイン』のタイトルの由来になっている。漫画は艶話というのかなんというのか、平凡な勤め人とその生活の延長上にあるエロ周辺の事情・情事を軽みある筆と構成・はこびでおかしみとともに描いている。

人間の性欲やいやらしさを主たる題材にしてもいるのに、好感が持てるさらりとした感触。描線が流麗で、女性の絵は美しくて色気がある。それでいて、この人の絵だとはっきりわかる画風を持っている。奥田民生やUNICORNの面子が影響を受けるのも納得の傑出した作家。未読の作品をじっくり読んでみたい。

ボコーダー

最近PUFFYの『アジアの純真』を聴いていたら『ヒゲとボイン』が聴きたくなった。ボコーダーといって、人間がマイクにむかってしゃべるとその声をシンセボイスにしてくれるメカがあって、それが『アジアの純真』にはふんだんに使われているのだけれど、『ヒゲとボイン』にも使われている。ほかでもない『アジアの純真』の作曲者は奥田民生。

UNICORN『ヒゲとボイン』は先に述べたように、いち会社の箱の中での小さな人間関係における出来事を発端にしつつ、世界の夜空まで突き抜けるような尺度と構想を持っている。ボコーダーの人工的なトーンには先鋭と同時に先人の築いたロックサウンド(たとえばE.L.O.?)へのリスペクトを感じる。エレクトリック・ギターやシンセサイザーの刻みがエンパワーメントする。

最後のサビの直前の約5小節の「間」にボコーダーのしゃべりが登場するが、何か言っている。よくよく聴くと、

“ヒゲとボイン 僕はボインの方が好きです はい”

歌詞の表記外のせりふ。奥田民生が考えたのか、キーボード・阿部義晴の案か。

歌詞と妄想

“ああ 僕は今世界一の悩める人さ ああ 男にはつらくて長い二つの道が ああ 永遠に僕を迷わすヒゲとボインが夜空に浮かぶ”(UNICORN『ヒゲとボイン』より、作詞・作曲:奥田民生)

“男にはつらくて長い二つの道が”とあるが、つらくて長い二つの道ってどんなものだろう。

ここで大胆に妄想を暴走させてみる。

二つの道は、「男性を愛する道」と「女性を愛する道」だととらえてみる。

妄想設定を挿入。「僕」も「社長」もふたりとも、男性も女性もどちらも愛せるバイセクシャルだとする。

それで歌詞を読んでみてほしい。

この曲を聴いたとき、初めに私は、女性(ボイン)に好意を抱いている主人公(僕)と、その女性にちょっかいを出す社長(ヒゲ)へ向けられた「僕」の敵対心を思った。

でもそれだと、「二つの道」ってなんだろう(「仕事」と「恋愛」とか?)。

2番で

“社長は社長のくせに 仕事もしないで遊ぶ いやな予感は的中 狙いは彼女 僕も連れてけと言ったら あなたはどうせ仕事でしょ”(UNICORN『ヒゲとボイン』より、作詞・作曲:奥田民生)

…ん? 「行くな」じゃなくて「僕も連れてけ」なの?

社長も僕もバイセクシャルで、女性を含めてどっちつかずで複雑な三角関係があったとしたら、女性への社長のちょっかい出しは「僕」のジェラシーを煽る行為にも思える。「僕」が社長に向けらる、「彼女じゃなくて僕を見ろよ」という嫉妬心である。

「なんだそのえらそうなヒゲ」という主人公(僕)のせりふらしいラインも、自分以外に女性(ボイン)にも気があるふうを見せる社長への批難(女性じゃなくて僕だけを見ろよ)に思えてくる。

でも、「僕」はバイセクシャルであって、女性(ボイン)に対しても好意を持っているのだ。ああ、悩ましい。「僕」という男には二つの道がある。社長(男性)を愛する道と、ボイン(女性)を愛する道の二つだ。

…などというのは妄想を暴走させ過ぎだろうか。

真実など私には不要で、この歌がどんな歌だろうとかまわない。作詞・作曲者の奥田民生や、この記事をいま読んでくれているあなたが「それは違う」と思おうがなんでもいい。誰が何を許さなくても、UNICORNの楽曲『ヒゲとボイン』は私に妄想を許すし、楽しませる。

むすびに

歌詞の解釈なんてともかく、ベーシックリズムがビートと粘りを押し出しシンセが空中をひらく音楽の世界がカッコいい。奥田民生ボーカルは勇ましく、まるで「向かうところ敵なし」。この力強さと「ひとりの男の煩悩」という題材の矮小さ(あるいは深遠さ)の対比が、この曲の際立ったオリジナリティでもある。

青沼詩郎

映像 ライブやMV

ガンマン、洋装の女性。侍に扮したUNICORNメンバーはカットで刀と楽器が入れ替わる。異質なものがチャンポンしたありえない映像世界はナンセンス詩のよう。

原曲ではフェード・アウトだけどライブではⅠ—Ⅴを反復して終わる。この終結尾はPUFFY『アジアの純真』ソックリ。

『ヒゲとボイン』『アジアの純真』を横断してひとつのパフォーマンスに。

同名のシングル曲を収録したUNICORNのアルバム『ヒゲとボイン』(1991)
UNICORN『ヒゲとボイン』のタイトル元になった小島功の漫画のリマスター版『ヒゲとボイン Forever』(2015)

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより
“UNICORNのアルバム『ヒゲとボイン』(1991)収録の表題曲。アルバム発売の翌月、シングルカット。
PUFFYの『アジアの純真』を聴いてボコーダーに注意していたらこちらも聴きたくなった。
最後のサビ前でボコーダーがなんか言ってる。
ずっと聴き流してしまっていたけど、よく聴くと「ヒゲとボイン 僕はボインの方が好きです はい」と言っていると気づき、愉快。
レコーディングではドラムスが川西(西川)幸一と奥田民生のツイン。けっこう細かいリズム形も含む(サビとか)ので意外だったけどたしかにドカドカとした太い音はツインのそれ。
ありそうでなさそうな勤め人目線の歌詞。
インパクトあるタイトルは小島功の同名漫画に由来すると知った。黄桜のCMのカッパの絵の作者。
いろいろ「へぇ」があったがとにかく音楽と歌カッケー。
ハコ(会社)のちっちぇ〜人間関係から世界の夜空まで突き抜け宇宙に届きそうなサウンドはいつまで経っても新しい。”