作詞:松本隆、作曲・編曲:山下達郎。近藤真彦のシングル(1982)。
ギターがすごいです。検索するに矢島賢さんだそうです。アームで揺らすニュアンスづけ。どこまでチョークやハンド・ビブラートなのかわかりません。激しく歪み、コシと太さがあり、永遠にサスティンしそうに思えます。メタルやハードロックを弾くギタリストが好んで使うような、ちょっと複雑な機構を備えたギターを想像させますが実際はなんの楽器を使用したのでしょうか。
グイグイいくベース、ドラムスで終止、寸暇を与えません。走り抜けます。マッチ(あえて愛称で失礼)のボーカルのポジションも曲中、たゆむことなく、あどけなさと青さが刺さる響きをキープして、ツッパリきります。ボーカルの響きを安定して聴かせきりやすい、ライブ映えしそうな曲に思えます。バンドに埋もれずに歌いきれそう……といったボーカル的な意味でのライブ映えですが、当然リードギター、駆け抜けるベース・ドラムスのベーシックともに、どこをとってもライブ映えしそうです。コーラス(バックグラウンドボーカル)、ブラスを率いており大所帯でも活きる曲に思えます。ブラスの細部のキレ、抑揚が光ります。カッコイイ。
“お前が望むなら ツッパリも止めていいぜ 俺はこわいもの知らず ケンカなら負けないけど この愛を失くすことだけ こわいのさ”(『ハイティーン・ブギ』より、作詞:松本隆)
松本隆さんなんだけど松本隆さんっぽくない新しさもどこかに感じるといいますか、作詞の幅広さに驚嘆します。書き分けがすごい。マッチを世に届けるための、主人公像に対するリテラシー能力のおぞましい程の高さを感じます。作品にとってしかるべき質感・ディティールを分かって書いているのでは、と。
ヤンチャ少年の主人公ですが、「お前」のことは尊重しているのですね。今の自分の生き方・スタイルを変えることを、愛のために厭わない意思が汲み取れます。
愛の主体がぼかされて書かれているところが読み味です。主人公からお前に対する愛なのか、お前が俺に寄せてくれる愛なのか、あるいはそのふたつ(あるいはそのふたつ以上)の愛をひっくるめた、二人とその周囲の環境や条件や関係に起因するすべてをひっくるめて「この愛」といっているのか。そこまで想像を及ばせるところが、大衆に向けられた商業歌なのですけど、奥深さへの門がそっと開かれている。ぞっとする世界です。
“若さはいつでも One Way Road
誰も引き返せないさ
昨日とは違う生き方
見せてやる
ハイティーン・ブギ 風を切って走れ
ハイティーン・ブギ 自分の人生は
自分で決めてやる
それがサイコー”(『ハイティーン・ブギ』より、作詞:松本隆)
主体性が頼もしい。現実をしっかり見ています。その上で、変化を厭わず、おのれの意思・決定で選びとった道を、スピード感とともに突き抜ける、エネルギッシュな理知をおもわせます。
楽曲の外のことでいいますと、近藤真彦さんはレーサーでもあるそうで、「皮のツナギ」など、近藤さんの実際の人生との重なりを多く思わせる楽曲です。ご自身や近しい人も、そのようにこの楽曲を解釈している向きもあるのでは? と思わせるほどで、やはりぞっとしますね。
楽曲をただの「ネタの小間使い」みたくしてしまわない。一個の世界の一個の個性にも、命を注いでできる娯楽の極みをおもわせる、鋭利な曲だと思います。そこに、若い近藤さんの青さを感じさせる歌唱がかけあわさって、振れ幅や飛躍が生まれているところに、熱狂した人が古今東西に多くいるのではないかと。
青沼詩郎
『ハイティーン・ブギ』を収録した『マッチ★ベスト』(『MATCHY★BEST ~The Best of Masahiko Kondo~』)(2006)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ハイティーン・ブギ(近藤真彦の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)