作詞:Bert Kalmar、作曲:Harry Ruby、Herbert Stothart。ミュージカル『Good Boy』(1928)のための書き下ろし。ヘレン・ケインが歌唱。映画『お熱いのがお好き(Some Like It Hot)』(1959)でマリリン・モンローが歌唱。

「吐息だけで歌っているのじゃないか」みたいなイメージは、案外、古今東西で半世紀以上もモノマネの対象にされデフォルメされ御本家崩壊され伝播され続けてきたことで私に植え付けられたイメージだったのではないか。そう思わせる、息と声の芯のふくよかな響きの織りなす器の大きさを感じさせる非常に快いマリリン・モンローの歌唱です。

ブレイクしてバシっ!と決めるシンバル。エンディングでは同じブレイク後のバシっ!をトランペットがキメます。

サウンドが非常に良いです。絢爛な演奏がムンムン伝わってくる。ナイロン弦のギターなのか、「ハープが入っている?!」と勘繰らせる。ピアノも粋ですしストリングス、ホーン、ミューテッドのトランペットに木管のひょろひょろブヒーと暖かい響き。全部入りの鑑です。1950年代の録音でしょうか、ハイの落ちたレコードらしい「ボっ」と音の塊が正面からハグしてくるサウンドは現代にコンバートされたサブスクのサウンドからでも十分に伺えます。

ヘッドホンで聴くと「ぷぷっぷどぅ」的スキャットも「ぷぷっぴ」だけでなく舌を細かく巻くようなニュアンスであったりしてディティールに富んでいます。息が耳にかかる錯覚がするほどに「近い」印象を与えますが、至極「ちゃんと録れている」のでしょう。素晴らしい演奏と録音だと思いました。

16小節数えて、さらに16小節数えて、さらにあと11小節数えて唐突に非情に夢が覚めるみたいな長い間奏。この時間に、さまざまな映像が経過する想像をします。演奏はずっとブラボー。

御本家はヘレン・ケインですね。変声加工がなされているかと一瞬見紛う少女然とした声に思えます。回転数のブレといいますか、録音技術的な面で実際の生演奏はもうちょっと低く感じるものがプロセスを経てこういう声に聴こえるのかどうかもはやわかりません。1920年代くらいも時間旅行で覗いてみたい時代のひとつです。

楽曲のイメージはマリリン・モンロー版で築かれた私の認知のものと相当違います。フェザーのように軽い。飛んでいきそうなわたあめみたいな歌唱です。マリリン・モンローはガトー・ショコラでしょうかね。腹減ってきました。

青沼詩郎

歌詞の参考 世界の民謡・童謡>I Wanna Be Loved by You 歌詞の意味

スキャットの考察の参考 世界の民謡・童謡>ププッピドゥ Boop-Oop-a-Doop 意味・由来は? ヘレン・ケイン、サッチモまでスキャットの波及・伝播を辿り、スキャットの意味、「ププッピドゥ」が色気を帯びる理由などまで考察した興味深い記事。

参考Wikipedia>アイ・ウォナ・ビー・ラヴド・バイ・ユー

Marilyn Monroe『I wanna be loved by you & more great hits』(1990)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Wanna Be Loved By You(”お熱いのがお好き”)ウクレレ弾き語り』)