作曲のいきさつ

2023年の1月下旬、私は生涯学習や社会教育などに関わる仕事に携わっているご縁で、福島県の新地町の生涯学習フェスティバルにお邪魔する機会があり、そこで弾き語りの演奏をしました。

私の地元である東京の西東京市地域から同行したメンバーに、旭製菓さんがいました。西東京市内に本社をもつ、名前のとおり製菓業者さんです。その看板商品がかりんとう。西東京市域に古くから住んでいる、特に旧保谷市地域に在住歴の長い市民のあいだでは、かりんとう=地元の名物と定着していると私は思います。

新地町のフェスティバルで、かりんとうの出張販売をおこなった旭製菓メンバーの中に音楽好きな方がおられ、私がそこで演奏を披露したことがきっかけでお話するなか、旭製菓さんがちかく創業100周年となる旨をお聞きしました。旭製菓Webサイトをみるに、1924年創業でいらっしゃるようです。旭製菓のヒストリーに覚えた感慨や、自分もいち地元に住むメンバーとしての愛着心から私(bandshijin)が作った楽曲が『かりんとう』です。

作詞意図 かりんとう

うちで食べたかりんとう 買っておいたかりんとう 母がくれたかりんとう かりんぽりんありがとうbandshijin『かりんとう』より、作詞:青沼詩郎)

私の実話。子供の頃、野菜を原材料に含めたかりんとうを買ってもらい、食べた記憶があります。うろ覚えですが、「やさい大学」という名前の商品だった気がします。野菜を原材料に含んだかりんとうを食べることで、実際どれくらい野菜の栄養素を摂ることができるのかはわかりませんが、子供の私に、とても体に良いお菓子なのだろうという印象を与えたのは事実です。風味豊かで、個性に富んだ大変美味しいものでした。通常、かりんとうに必ずしもついてまわらない副次的な原料を積極的に取り入れた商品づくりは、私の思う旭製菓さんの製菓業者としてのユニークな特長です。

知恵をこめたかりんとう 手塩にかけたかりんとう 父がくれたかりんとう かりんぽりんありがとうbandshijin『かりんとう』より、作詞:青沼詩郎)

旭製菓さんが新地町で配布したパンフレットを見るに、かりんとうを製造するためのいくつものプロセスがうかがえます。そこに、職人のノウハウを感じます。また、旭製菓の社長さんが、先代のお父上から、現在の娘さんに代替わりした近年についてのお話を耳にする機会がありました。社員さんや従事者の方々のあいだで受け継ぐものも、私の想像を超えて種々あることでしょう。「かりんとう」のバトンを託しあう、現在進行形のストーリー性を、私の拙く抽象的なソングライティングではありますが、表現したつもりのラインです。

どうしようもなく 君に会いたくて おみやげをもって 花がらのバスに乗るよ 小さくなった 背中が遠くなる 待ちわびた明日の午後は 大好きなお茶を淹れて話そうbandshijin『かりんとう』より、作詞:青沼詩郎)

西東京市の公共事業のひとつに、「はなバス」という市バスがあります。実際に花柄のラッピングをしているわけではないので、“花がらのバス”の歌詞はちょっと嘘ですが、私の観念の表現です。西東京市内をほっつき歩くと、樹木の植えられた通りや花壇、それらを含む公園に出くわすことも少なくなく、この地域と「花」を結びつけるイメージはそれほど見当違いではないはずです。ちなみに、西東京市内の旭製菓本社直売所に近くて便利なはなバス停留所が存在するのも事実です(第2ルートの停留所、「三軒家」が便利でしょうか)。

旭製菓のかりんとうは比較的安価に手に入る商品もあるうえ、定番のものから個性的な商品、食べ応えのあるリッチな商品まで取り揃え豊かです。地元を象徴し、親しい人から貴重なゲストまで、相手を選ばずに贈り合えるおみやげの優等生なのです。

ここのみちでどこへ行こう 明日をどう生きて行こう おなか減った何にしよう おやつ食べて考えようbandshijin『かりんとう』より、作詞:青沼詩郎)

旭製菓の初代の守下吉太郎が横浜に興したのは雑貨屋だといいますが、かりんとうを造って販売するようになったのもこの初代の頃のようです。二代目の守下重雄が1945年に工場を造ったのは荻窪とのこと。1965年に西東京市(旧保谷市)に工場を移し、その後から現在に至る道のりを想像するに、果てしないディティールがあることを思います。(歴代の)先代の背中をはじめ、さまざまなものが“遠くなる”なか、明日を思いながら今日を更新して行く姿に勝手ながら感動を覚えます。それは地元の事業者であり、そこで共に生きる市民である私自身の物語であるようにも思います。

作曲、演奏、収録

ほとんどの私の作品に共通することですが、宅録・生演奏の一人多重録音です。アコギのフィンガーピックの弾き語りに、ドラムス、ベース、ピアノを重ねています。ホワンとしたサウンドのシンセサイザー(Reface CS)のキーボード演奏は自分の中ではビブラフォンの代替のようなイメージでピアノの音にお化粧をほどこす程度の役割です。バックグラウンドボーカルで、サビや後半のコーラスやエンディングにハーモニーやオブリを軽くいれてあります。ごくシンプルです。

コード進行はベースの経過に沿って副次調Ⅴの根音省略や、トニックやサブドミマイナーの転回形を好んで用いています。私の作品の「はんこ」みたいなものかもしれません。王道のベース下降パターンをメロの基調に、サビではⅡm上のクリシェをはさむなどベースを動かしたり止めたりの緩急や対比を意識して演出したつもりです。

かりんとうブギ

ブギの名をかむったロックンロール調の楽曲は数多あると思います。また、語頭の発音を数度反復してリズムをつくりだす手法は至極当然ながら特に目新しいものでもなんでもなく、私の好きなアーティストの好きな作品の随所にみられます。

大滝詠一『びんぼう』。「びん・びん・びんぼう!」を筆頭に、細部の発音を反復するフェイクが気持ちが良いです。リズムの気持ちよさと、「びんぼう」という楽曲のちょっと残念な感じの主題の対比が冴えます。

目新しさではなく、文脈としてよくある音楽的なフォーマットの典型を利用することで、かりんとうの製造工程を表現する「説明くささ」の払拭を試みました。音楽上の基礎が非常にシンプルだと、ことばを自由に詰め込みやすくなるからです。

乱暴で粗雑なのを承知でいえば、Ⅰ、Ⅳ、Ⅴのみを用いたロックンロール調の楽曲はほとんど似たようなものになりがちです。むしろ似たようなものになりがちなのを利用して、そこに乗っかって自分の表現したいソースを流し込むやりやすさと来たらピカイチです。

先に述べた旭製菓のパンフレットに掲載されている、かりんとうの製造工程を説明したページを参考に「かりんとうのつくりかたを語る曲にしよう」とのざっくりした意図で、製造工程をザクザクっとかみ砕き、ガチャガチャっと歌ってハイ上がり、という感じで作ったものです。ノリ・勢い・にぎやかし、「かりんとう」をドレスコードに用いた遊び100%の権化というのが私の自己評価です。

私が『かりんとうブギ』をさっと歌って作ったのが2023年3月初旬だったのですが、その近い時期に私が触れた楽曲をふりかえってみた中に、非常に似た要素をもつ楽曲をみつけました。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『カッコマン・ブギ』。“カッカッカッ カッコマン”とそっくりです。こちらを具体的に参考にしたり真似したりして作った意識はゼロなのですが、記憶にプリンティングされたのかもしれません。

ダウン・タウン・ブギウギ・バンドはブギの王様とお呼びしたいくらいで、『カッコマン・ブギ』『スモーキン・ブギ』『トラック・ドライヴィング・ブギ』『賣物ブギ』『ブギウギ・ブギ』と、『35周年ベスト』に収録されているものだけでも“○○ブギ”を冠しているものが多数あります。なんでもブギになるでしょう。

最新の後日談なのですが、つい先日(2023年の7月中旬頃)、サディスティック・ミカ・バンドの『サイクリング・ブギ』という楽曲を知りました。こちらも“サササ サイクリング・ブギ”(作詞:つのだ☆ひろ、作曲:加藤和彦)と拙作『かりんとうブギ』とクリソツな面相をしています。あくまで偶然なのですが、加藤和彦さんの関わる作品は私の好きなものが非常に多く、かつてから私が深く敬愛する作家さんでもあるので、加藤さんと私では何もかもが段違いの格違いで恐れ多いのはさておき、勝手ながら共感を深めてしまいます。

ちなみにダウン・タウン・ブギウギ・バンドのグループ名はサディスティック・ミカ・バンドを意識して命名したといいます。ギョーカイ人のあいだにおいても、私のような業界の端にも乗らない一介の音楽好きにまでも影響を及ぼす加藤和彦さんや彼の関わるグループはまさしく“黒船”。

拙作『かりんとうブギ』は例によってギターの弾き語り+ハーモニカの一発録りスタイルに一人多重録音を加え、要所に用いたセカンダリー・ドミナント(副次調Ⅴ)などが私なりの「はんこ」のつもりです。フォーマット、すなわち音楽的な構造やスタイルがある程度定まっているぶん、作詞作曲やアレンジ決めの負担が最上級に軽く、楽しんで・遊んで演奏を録るのにエネルギーがまわりました。(いい意味で)「バカだね~これ」などと独り言をつぶやきながら楽しく録音を進めた記憶があります。最近の自作の録りでも最もサクっとしていました。かりんとうだけに……。

青沼詩郎

かりんとうの旭製菓 Webサイトへのリンク

参考Wikipedia>ダウン・タウン・ブギウギ・バンド

『びんぼう』を収録した『大瀧詠一』(1972)をもとにしたリイシュー盤『大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition』(2022)

『カッコマン・ブギ』『スモーキン・ブギ』『トラック・ドライヴィング・ブギ』『賣物ブギ』『ブギウギ・ブギ』ほかを収録したダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『35周年ベスト』(2007)

『サイクリング・ブギ』を収録した『SADISTIC MIKA BAND』(1973)

bandshijin『かりんとう・かりんとうブギ』(2023)