自分にほうびをやる?

初任給で買ったものって覚えているでしょうか。「任用」、つまり就職みたいなことで対価を手にすればお給料といえましょう。自由業者であれば、初めてのギャラ、みたいな表現がしっくりきます。世の中のマジョリティはどっちかといえば、どこかに就職して「お給料」を手にする人のほうが数としては多いかな? という気がします。

初めての仕事で得た対価で何を買ったかなんて、話題をふっておいて申し訳ないですが私は覚えていません。世に送り出すまで育ててくれた親へギフトを買った、なんて美談もしばしば聞きます。水のごとく流れ、あぶくのように消えてしまうのもお金の命運なのかもしれません。

はじめてのお仕事の対価ではなかなか豪勢なものは買えないのじゃないかと思います。ましてやお高そうなクルマを買うとかは、評価が定まるとか世に爆発的に認知されるような大アタリをするでもしなければ夢のまた夢でしょう。ふつう、貯蓄してやっと手に入れるようなものがお高そうなクルマ、でしょうか。

クルマのことに私は無知です。実家が所有しているクルマなら運転したことがある、という程度。車を趣味とするにはお金がかかるだろうな……と思います。音楽や楽器のほうがまだ安い? それも果たしてどうかわかりませんが……ヴィンテージギターとか、レコーディング機材だとかはじまると車か音楽かどっちがお金がかかるかなんて甲乙つけがたい世界な気もします。車ならまだしも、ジェット機とかなると一段とぶっ飛んだ趣味でしょうか。『Take Me Home, Country Roads』で高名なジョン・デンバーは私用飛行機を所有し、自身の操縦で命を落とされたとか……話がだいぶ飛んでしまいました(飛行機だけに……)。日本の市井の民の趣味・娯楽としては飛行機の私有はちょっと考えづらい気もします。

松任谷(荒井)由実さんの書く歌は映画の題名を引用しているものがしばしばあるようで、ばんばんが歌った『いちご白書をもう一度』を思い出します。最近『黄色いロールスロイス』というハジけたかっこいい楽曲を知ったのですが、これも同名のタイトルの映画が存在することに気づきました。

車も映画も知識が浅い私なので、奥深い興味と趣の世界を感じます。楽曲『黄色いロールスロイス』でユーミンとコラボした加藤和彦さんは風聞としては豪勢な人物というイメージがあり、高級外車がいかにも似合いそうな「飛んでる」シンボリックなミュージック・レジェンドです。

黄色いロールスロイス 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:松任谷由実、編曲:加藤和彦。松任谷由実のアルバム『そしてもう一度夢見るだろう』(2009)に収録。

黄色いロールスロイスを聴く

松任谷正隆さんが書いた『僕の音楽キャリア全部話します―1971/Takuro Yoshida-2016/Yumi Matsutoya―』(2016年、新潮社)という本をぱらぱらと読んでいて、この曲についてのエピソードを見つけてこの曲を知りました。

ユーミンのアルバム『そしてもう一度夢見るだろう』は”35th Original Album”。ウェ、気が遠くなるほど背筋が伸びる思いです。ミュージシャンの中のミュージシャン、ソングライターの中のソングライターのみが至れる境地ではないでしょうか。

サウンドがスカっとします。サディスティック・ミカ・バンドのようなサウンドを意識しての加藤和彦さんへのオーダーだというようなことですが、ストーンズっぽくもある……というようなことが松任谷正隆さんの本に書いてありました。

サディスティック・ミカ・バンドならやはり『タイムマシンにおねがい』でしょう。あの曲のサウンドの系譜を思います。ストーンズっぽさもわかります。掛留音で引っかけたギターリフは世界中が真似し、今後も真似しつづけるでしょう。真似のつもりでなくとも引き合いに出されるでしょう。ロック英雄も暇じゃないね。

左右に定位を振り分けたエレキギターがズクズクと鳴ります。ななめ前あたりからはオルタネイトで楽器を振っている感じの、フープのみのタンバリンがチャリっとハイハットに近い帯域の華やかさを増大させます。サビあたりの熱量がおいしいところで左ななめ前あたりからシェーカーの音を感じます。粒のざらっとした、かなり粗々しいサウンドのシェーカーがロックの態度を思わせます。

キーボードやシンセなどの類はなく、ロックに好相性なオルガンさえないようで、空間がすっきりしており、ユーミンと加藤和彦さんのボーカルのかけあわせを風通しよく轟かせます。残響感がオールドなロックへの憧憬の表現に思えますね。気持ち良いサウンドです。

間奏でモノモノしい雰囲気に。厚みのあって象がうなるみたいなエレキギターの降臨したような臨場感がリスナーを圧迫してきます。このサウンドもなんかミカバンドを感じるところです。トガっていて良い。

端正な物語のようなソングライティングも自在なユーミンだからこそ、アルバムにこういう単純明朗で突き抜けたキャラが入るのが最高にスパイシーです。エンジン音が気持ちいい外国車でぶっとばしてみたいですね。維持費が大変そうとか思ってしまう私の小物さよ。でも楽曲『黄色いロールスロイス』ではタンバリンやシェーカーの打楽器小物が雄弁である点を強調しておきましょう。小物も負けないぞ(なんの張り合い)。

青沼詩郎

参考Wikipedia>そしてもう一度夢見るだろう

参考歌詞サイト 歌ネット>黄色いロールスロイス

松任谷由実 公式サイトへのリンク

『黄色いロールスロイス』を収録した松任谷由実のアルバム『そしてもう一度夢見るだろう』(2009)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『黄色いロールスロイス(松任谷由実&加藤和彦の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)