破天荒漫画? こち亀

警官とのやりとりを描いた泉谷しげるさんの『黒いカバン』という楽曲があります。ちょっと警官がヤな奴っぽく描かれており、コミカルの一言では片付けがたい妙味がある楽曲です。また、登場する警官がちょっと偉そうで、職業とか肩書きによって人に格差がさもあるような時代の感覚も、『黒いカバン』が描かれた当時とだいぶ変わってきているかもしれません。もちろん、現代であっても職業や肩書きによる視線の温度差などは依然として存在するでしょうけれど……。

破天荒な警察官を描いた有名な漫画が“こち亀”こと『こちら葛飾区亀有公園前派出所』でしょう。主人公の両さんの非現実的なめちゃくちゃぶり、突き抜け感、猪突猛進ぶりとか我欲への正直さが、娯楽作品として鑑賞する人の心底の欲求を代わりに遂行してくれるような趣のある、キワドイ漫画でもあると思います。私が小学生低学年の頃にも連載していた作品ですので、おこちゃまの私にとって刺激のつよい作品でもありました。

アニメにもなり、アニメ映画も制作され、主題歌になったのが吉田拓郎さんの『気持ちだよ』。この歌は最近になって初めて知りました。

気持ちだよ 吉田拓郎 曲の名義、発表の概要

作詞:康珍化、作曲:吉田拓郎、編曲:瀬尾一三。吉田拓郎のシングル(1999)。『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE』(1999)主題歌。

吉田拓郎 気持ちだよを聴く

おおまたぎでおおらかな前奏・間奏・後奏モチーフをストリングスとエレキギターののびやかなトーンが奏でます。思い出に浸る時間をリスナーにくれます。情報量がやわらかい。近年のジャパニーズ・ポップスのせせこましさの対極を思わせます。

図:吉田拓郎『気持ちだよ』ストリングスのモチーフの採譜例。エンディング前に半音転調して上がります。

吉田拓郎さんの歌があたたかい。曲もあたたかい。人情を描いているように思えるのは「こち亀」の先入観を私が持っているから? でも先に述べたように、こち亀は破天荒漫画です(失礼?)。映画になるといイイ話っぽくなるのでしょうか(未鑑賞なので言及する資格に不足する私です)。ドラえもんなんかも、映画になるとジャイアンがいいやつになるとかならないとか……まぁいいか。

ドラムスのキックとスネアが近くてまんなか、奥の方で解像度の高いタムが定位を振られて鳴ります。イイ音。

右と左に、それぞれ、フェンダー系の楽器みたいな繊細な音でこまかく刻んでニュアンスを添えるエレキギターがいます。左右で対になっていてキレイな配置とバランスです。

欲をいえば、このおおらかな音形でリスナーに空想の時間をくれるストリングスが、もっと肉体性とゆらぎ度の高いものだったらよかったなと思います。キーボード・シンセの類で鳴らしている音でしょうか。スタジオ・ミュージシャンの集合音ではなさそうに思えます。生意気言ったかもしれません……。

ボーカルの表現と歌詞の肌、体温が伝わってきます。これはこの時点での正統でしょう。こち亀ザムービーから15年ほどを超えて、アルバム『AGAIN』で「あれから」の答えが述べられているようで、吉田拓郎さんもこの楽曲を大切に扱っているのを感じもします。味付けを選ばない良い曲です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>気持ちだよ

参考歌詞サイト 歌ネット>気持ちだよ

吉田拓郎 エイベックス・オフィシャルサイトへのリンク

吉田拓郎のシングル『気持ちだよ』(1999)

『気持ちだよ(film version)』を収録した『「こちら葛飾区亀有公園前派出所」THE MOVIE オリジナル・サウンドトラック』(1999)。フィルムバージョンの『気持ちだよ』はサビはじまりでアレンジが異なります。『気持ちだよ』をインストゥルメンタルにしたトラックも収録。音楽担当は佐橋俊彦さんで、絵本で有名な『スイミー』を音楽劇化した『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』の作曲も担当されているのが私の記憶のなかでリンクします。

『気持ちだよ』の異バージョン(セルフカバー)を収録した吉田拓郎のアルバム『AGAIN』(2014)。こちらのバージョンは武部聡志さんが編曲。地球の自然を祝福するみたいな悠久な曲想です。人情物語を思わせるシングルバージョンのアレンジと好対照になっています。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『気持ちだよ(吉田拓郎の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)