冒頭30〜40秒が経過したところで歌謡かフォークのようなしんみりした暗雲にニューウェーブパンクのロケットをぶちこんだみたいな展開で、鬱憤が浄化されるような効果音とともにアッパーチューンに変わる衝撃です。
たったひとつ、何かの武器を与えられるなら松山千春さんの歌唱を、その魂をくださいとでも請いたくなる、無敵の歌手然としたハイパフォーマンス。こういった無敵感ただようボーカルでは、尾崎紀世彦さんを思い出しもします。もちろん、松山さんと尾崎さんで全然違うのですけれど。
サビのめーーーぐーるーー……声の武器を遺憾無く発揮するのにおあつらえむきのロングトーンメロディではないでしょうか。折り返し、あーーーなーたはー……のラインで似たメロディを再現します。ロングトーンが映えやすい曲といえば、ゆったりとしたバラードを想像しやすいかもしれませんが、『季節の中で』は、1巡、2巡……自分に誠実に生きてきたつもりなんだが気付けばもう50年も60年も経っちまった……というような儚いスピード感をいっぱいに感じます。
この堂々たる貫禄といいますか無敵ボーカル感の松山千春さんですが、『季節の中で』シングルを発売した1978年8月当時は22歳だと思います。年齢不詳といいますか、早熟といっていいかもわからないのですが感服するばかりです。近年の松山千春さんの歌は、よりあたたかく、懐の深みがあり、歌声のゆらめき(狭い意味でいえば、ビブラート)が幅広で確かなものになった……といった印象を受けます。
『季節の中で』の話に戻ります。トゥントゥンとハイピッチで印象的なタムのトーンは有名な電子ドラム、シモンズ(リズム&ドラムマガジンサイトを参考にリンクします)を思い出させるトーンです。実際にシモンズかどうかは知りません。颯爽としたストリングスがスピード感、風の流れのようなものを演出して思えます。突っ立ったままの自分を置いて、季節がどんどんいってしまうような……止まらない電車の中で流れる外の車窓……いえ、まわりはどんどん先へ行くのに、自分の立っているところばかりが変わらず動かないまま……そんな、憧れの背中に手を伸ばしたくなるようなおのれの至らなさをつきつける、残酷非情でキレの良い楽曲にも思えます。
“海の青さにとまどう様に とびかう鳥の様に はばたけ高くはばたけ強く 小さなつばさひろげ めぐるめぐる季節の中で 貴方は何を見つけるだろう”
(『季節の中で』より、作詞:松山千春)
自分の性格というのはものを見るときに多分に影響を与え、嗅ぎ取る情報をねじまげてしまう。偏見というものですね。自分のそれを自覚します。非情でキレがよい楽曲……と勝手に思いましたが、歌詞をなるべく真っ直ぐにみようと心がけますと、やはり松山千春さん像のそれと符号するように、メチャクチャ応援してくれているのを感じます。世のつらみ、厳しさ、おのれの小ささはもちろん認めたうえで、激励をくれている、それも風流な描写で理性的にそれをやってくれている感じ。
リスナーへ、この歌をきく誰かへ向けているものでもあるでしょうし、主人公が思い浮かべる特定の「貴方」がいるのかもしれませんし、あるいは、主人公自身が、己に向けて歌っているのかもしれません。「主人公」がいるという感じでもなく、僕や私も『季節の中で』には登場しません。神から目線、あるいはナレーター・ストーリーテラーのようなポジションから声を降臨させている。そんな感じが神々しい。聴くほう(リスナー)の方がエイジングされて、この楽曲を聴く味わいの変化を見出すかもしれませんが、楽曲のほうは色褪せずにずっと光を放っているのです。
青沼詩郎
『季節の中で』を収録した松山千春のベストアルバム(シングル集)『起承転結』(1979)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『季節の中で(松山千春の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)