渋谷は中高年の街
渋谷がおじさんの街化しているという記事を去年(2023年)読んだ記憶があります。渋谷には「若者の街」という前提イメージがまずあったはずなのに……それを覆す実態を伝える意図を含んだ記事でした。
いつ行ってもどこかを工事している渋谷の街、主に駅周辺。でっかいビルができると、そこは働く人のためのオフィス。それ以外は、そこで働く人が快適に打ち合わせたり仕事したり飲食したりリフレッシュしたりといったことがしやすいような環境がつくられます。ますますビジネスパーソンのための街のようになっているのが、渋谷のこの頃(この記事の執筆時、2024年あたりまで)の実態のように思えます。

個人的には、タワーレコードのでっかい店舗があるのが私が渋谷の好きなところです。ビルまるまるタワレコ。私が長年好きで、かつアクセスが良い吉祥寺のヨドバシカメラ内にあったタワレコがいつのまにか閉店してしまったので今(この記事の執筆時:2024年頃)はなお私にとって「タワレコのある街」という意義をもつ街がシブヤ(渋谷)です。
シブヤにはロックオンカンパニーという、ガチの録音変態(ほめてます)のためだけにあるようなトガり切った(ほめてます)録音機材屋さんがあります。本物の変態だけが選ぶようなモニタスピーカーやマイクなどの実機を聴き比べたりできる環境のある貴重なお店(ほめてます)で、渋谷にあるので近年(2024年あたり)の私にとって録音カンパニーがある街というのが渋谷に覚える意義です。ロックオンカンパニーに行ったらその足でタワレコビルをはしごするのが私のおきまりなのです。
その道すがらに行き交う人々をみるに、若い人もいますが外国人が多いなと思います。
タワレコビルの店内やその付近は韓国のポップミュージックや国内外の歌ったり踊ったりする私の思うアイドルっぽいスタイルのアーティストのファンらしき人がインストアイベントやなにかしらのキャンペーンの機会の前後の時間を過ごす様子が見れたりします。このテの音楽を扱うフロアのさらに上階に、ヴィニールを扱うフロアなどもあるので私は前途の人の頭あたまを通りすぎた先を目指します。山下達郎さんの音楽が気持ち良い音量で轟いていたりするようなガチなフロアです(あくまで2023〜2024年あたりの情報……しつこい?)。

街も代謝します。人と同じです。かつてのままのわけはないのです。
「生来の〇〇」であり続けることは稀で、経過によってその姿を変えていくもの。そのものでありつづけるためにはそのための特別な努力が必要です。たとえば歌手としてこの世に認知され始め、その後も60年間歌手であり続けるためには特別な努力が必要なわけです。経過のさなか、いろんなものになり変わっていくのもまたヒトの自然でもあり、街の自然でもあるでしょう。
「渋谷を若い人の街たらしめ続ける」ためにもきっと特別な努力が必要なのです。街はみんなのものなので、誰かひとりのみが「渋谷を若者の街にずっとしておきたい」と願っても、街は強大なうごめく力にしたがって代謝をしていくのです。
渋谷がどうなってほしいかについて私は特に願望がありません。2023〜2024年あたりこの頃の渋谷にたまたま録音機材屋さんやレコ屋さんが現存している現実にしたがって私はしばしばアクセスすることがあるということのみで、それ自体ありがたいことです。
これが自分の住む街ともなれば、こうしたい、こうあるべき、そのための努力や行動を厭わないといった度合いも変わってくるでしょう。渋谷に住んでいる人もいくらかいるのは事実でしょうが、外から来る人が圧倒的に多いという特異な条件にある、実体があるような雲のようにどこかに行ってしまいそうな不思議な街です。
たとえばそこで誰かに会う約束をするというのは、特別の中で起きる特別みたいな、夢のような浮遊感がありますね。“風街”っぽいです。

MajiでKoiする5秒前 広末涼子 曲の名義、概要について
作詞・作曲:竹内まりや、編曲:藤井丈司、ストリングス編曲:服部隆之。広末涼子のシングル、アルバム『ARIGATO!』(1997)に収録。
MajiでKoiする5秒前を聴く
わくわくとかわいいの権化に覚える感動の深さは嘆かわしいほどです。ソングライティングから編曲まで、広末さんのキャラ・存在を象徴する歌唱から何まですべて素晴らしい。月1くらいで目をつぶって全集中して定期的に聴き続けたい。聴くことによって音楽をやる自分のチューニングになりそうなくらい、お手本にしたいほどです。
タンバリンがチャリチャリと鳴り続けます。エンディング付近、オチサビのところですらボーカルと一緒に鳴り続けています。そのあとにさらにつけ加わる“真夜中の5秒前”でやっと一瞬鳴り止むくらいです。若者の街・渋谷を思わせる。眠らない街感、楽しいことをするでもなく若い人が理由もなくたむろする街感を象徴するのがこの楽曲でのタンバリンの存在感です。
後半のコーラスのオニのようなリズムキメキメの嵐。あまりのデキの良さに笑ってしまいます。
オープニング付近のメロはアコギとドラムとベースとエレピが黙々といい感じ。ツーコーラス目ではコーラスがはいるストリングスが漂うで色気をまといます。渋谷初心者だった主人公が、数回してちょっと通い慣れるみたいに感じます(歌詞の中でそれが直接描かれているわけでなく、そうしたところを超越して音楽から感じるものとして)。
5秒前、とか5分前、とか、「5」と助数詞を組み合わせるフレーズをリフレインして印象づけます。ずっと、やっと、グッと、もっと、そっと、そして「あっと」。拗音(つまる音、ちっちゃい「つ」)を使いまくりこれでもかとリスナーの耳につきまといますっっっっっっっっっっっ(つきまとう「っ」)!
この気の利いた発音の気味のよさ、少女の気持ちと身の周りの様子を描く的確な意匠の精度。この楽曲のリリース当時の私は小学生くらいでしたし、作曲者や作詞者や編曲者が誰なのかなんて気にしないハナタレでしたが、これは竹内まりやさんのソングライティングだったのですね。なるほどと思いますし改めてその才の大きさを覚えます。
ストリングスが服部隆之さん、編曲が藤井丈司さん。このあたりもタグをたどったら学びが大きそうです。
語るだけでもオナカいっぱい。また日を改めて聴き直したい。少女の青春をパックした傑作にあやかって、うごめき変わっていく街や自分を覚えながらしばしばアクセスしたくなる……渋谷の街みたいな楽曲です。……たとえがへたくそ?
渋谷タワレコの上階から、ちょっと街が見下ろせる窓があります。なんだか、ああいう眺めと重なる存在感ですね。昔こういうことをやったなぁとか、今の街の姿は変わったなあとかしみじみ思いたくなります。あのフロアでこの曲流してほしいな。
青沼詩郎
参考Wikipedia>MajiでKoiする5秒前/とまどい
広末涼子の『MajiでKoiする5秒前』を収録したアルバム『ARIGATO!』(1997)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『MajiでKoiする5秒前(広末涼子の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)