竹内まりや『マージービートで唄わせて』

竹内まりや『マージービートで唄わせて』。作詞・作曲:竹内まりや。竹内まりやのシングル、アルバム『VARIETY』(1984)に収録。“Woo” “Ah”といったコーラス。芯がありキレのよいエレキギターのカッティングやオブリ。非減衰のサスティンで支える・間奏でリードをとるオルガン。「ドン・タタ・ドン・タン」のドラムス、1拍目アタマと2拍目ウラのツボをおさえるベース。

どれが“マージービート”的で、どれがそれほどでもないのか?を分別するほどの知見に劣る私ですが、これが“マージービート・フィールなんだろうな”とゲンキンにも思います。ソングライティングとアレンジがツボをおさえていて、的を射ているのを思わせる、好きなサウンドです。こうした音楽やスタイル(含む、ファッション)を愛好する主人公像が歌詞にも表現されており、憧れとキャラクターの志向を汲んだ意匠の整合を感じます。

はじめて「マージービート」という言葉に触れた記憶

私が日本という島国の首都・東京のなかの西東京という街で暮らした出会いのひとつに、作詞作曲編曲・著述家でビートルズに関する愛と知識にあふれる野口義修さんとの出会いがあります。彼に私の自作を聴かせた機会にいただいたことのある感想を表現する言葉のなかで初めて触れたのが私にとっての「マージービート」という単語だったのです。

当時この単語を知らなかったことは、我ながら長年、あまり熱心とはいえない音楽への傾聴態度で楽曲制作をしていたおのれの半熟ぶりを突きつけます。それでも私のパーソナルと共鳴するのでしょう、意識せずとも楽曲に表れるものがあったのかもしれません。私の自作に込められた音を受けて野口義修さんは「マージービート」を感じたのかもしれず、そのときにいただいた言葉はこうして今も音楽を聴き直すきっかけとして私の手指を動かす貴重な原資です。

The Merseybeats『Really Mystified』

1拍目アタマと2拍目ウラをおさえるベースの打点は竹内まりや『マージービートで唄わせて』の表現するツボととてもよく重なります。ドラムスのハイハットは終始オープンでグイグイいくフィーリングを感じます。Bメロ(というかコーラスと呼ぶのでしょうか)のところであらわれる曲調の変化、ⅢmとⅥmの和音を交互に用いたほろ苦い展開もどうしてか“分かるぅ”な感じです。これもマージービートなフィールの1要素と思いたいところです。芯が鋭くキレのあるサウンドのエレキギターのストロークや合いの手も“コレコレ”といった感じ。ボーカルは終始複数のシンガーのユニゾンもしくは主旋律をダブリングでしょうか。主旋律の厚みもマージービートのフィールでしょうか。Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴを繰り返すヴァースのコードパターンも楽器を弾きながら響きに変化を与えつつ歌うのにおあつらえ向きで“これぞ”な感じ。

The Merseybeats『Really Mystified』は作詞・作曲:Tony Crane、John Frederick (John Gustafson)。バンドのメンバーですね。The Merseybeatsのシングル『Don’t Turn Around』、アルバム『The Merseybeats』(1964)に収録されました。

Wikipediaで「マージービート」を引くと、リバプールサウンドに転送されます。「主要ミュージシャン」の項目をみるに、ビートルズ、ザ・フー、ゾンビーズ、ホリーズ、ヤードバーズなど、私の好きな音を鳴らすバンドが名を連ねているのが分かります。

青沼詩郎

The Merseybeats『Really Mystified』を収録した、バンド名を冠するアルバム『The Merseybeats』(オリジナル発売年:1964)

『マージービートで唄わせて』を収録した竹内まりやのアルバム『VARIETY』(オリジナル発売年:1984)

私に「マージービート」を認知させてくれた野口義修さんの近著(2023年時点)、『15秒編曲入門』。作曲・作詞とフォーカスしてきたシリーズの大団円(?)にふさわしく、楽曲に命を奪うも与えるもアレンジ次第である旨、熱い音楽愛と豊富な知見を感じます。解説や理解を助けるサウンドエグザンプルをネット上に多数リンクしており、私もギターの実演の提供で関わらせていただきました。

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Really Mystified(The Merseybeatsの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)