何気なさを抽出する独創

斉藤和義さんは私自身の音楽スタイルを説明するときによく名前をあげさせてもらいます。作詞作曲をして、自身で演奏を多重録音して曲を制作スタイル。私もそういう曲の制作のしかたをするからです。ほかには奥田民生さんの名前をいっしょに挙げることが多いです。

ほかでもないこの御両名は私にとってのレジェンドみたいな存在なのです。私が進化しまくれば、斉藤和義さんや奥田民生さんのようなポジションになるかも……なんて口がまがってもいえませんがブログにこっそり書くくらいなら許されるでしょうか。もちろん同じ者に私がなる意味も意義もないですし、誰か先人と同じ者になるなんてそもそも不可能ですから余計な心配はいりません。

そもそもお気に入りのアーティストの既発表曲だと、いつそれを取り上げるかかえって悩みます。だから気になったときにぱらぱらと取り上げるのです。何も悩んでいなぢゃないかと突っ込んだあなた、鋭い。なんで「ち」に濁点なんだと突っ込んだあなたも鋭い。駄文をすみません。

『メトロに乗って』は斉藤和義さんの素敵な曲です。東京を巡っている情景が描かれています。何気ない、実際にあった日記から抽出したような経過が描かれているのに、なんだかとても、「ありふれているのに特別な瞬間」に仕上がっています。たとえば『やわらかな日』という傑作も斉藤和義さんにはありますが、これも、本当にあったみたいな何気ない一日や一瞬の会話や人格の率直な描写を独創性高く、しかし一般に親しみを持てる大衆音楽に仕上げている点で斉藤和義さんの作風の良いところが最高に出ています。

『メトロに乗って』は、都会の足、すなわち地下鉄をモチーフにしています。タイアップかなと思ったらやはりそのようで“東京メトロの2012年度CMソング”Wikipediaより)とあります。

図:西新宿付近の路上

メトロに乗って 斉藤和義 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:斉藤和義。斉藤和義のシングル『月光』(2012)、アルバム『斉藤』(2013)に収録。

斉藤和義 メトロに乗ってを聴く

気持ちよくて爽やかですね。新年度を感じます。春の訪れを描いています。こういう時候の挨拶に相当するような楽曲を私は好きですし長いこと、音楽好きからライトなリスナーまであらゆる層が好んできたのではないでしょうか。とにかく気持ちの良い快作です。

さらっと流れがよく、てざわり(意匠)のまとまりがよく、鵜呑みにしてしまうほど気持ちがよいのですが、案外サイズが5分強。さらっと聴かされてしまって、曲が長めなのにおどろきます。

Aメロ、Bメロ、サビと、CD時代っぽいポップソングのワンコーラスのパーツを揃えており、それを2回。間奏をいれて、最後にサビがもういちどつきます。サビが16小節でおわりません1、2コーラス目は4小節、ラストのサビは6小節の結びがつきます。なんとなく、さらっと聴かされてしまうのにしっかりとしたサイズがある理由がみえてきました。

これをずっと打ち込みみたいなオトで聴くのは、もっとサウンドに派手な仕掛けを要するかもしれませんがそこは斉藤和義さんです。この作品もほとんどご自身の多重録音であるのを思わせる、実直な生演奏がつまっています。ドラムスのサビの恒常的なハイハットのハーフオープンよ。

間奏のギターはボトルネックのダブリングでしょうか。非常に『歌うたいのバラッド』などの傑作を思い出させる、「これ斉藤さんにあり」てきな王道、彼らしいサウンドで実直に固め……いえ、春を解き放ちます。さわやかです。ひだりのほうから、ゆーっくりとワウペダルを踏んだような長い音価の効果的なトーンがきこえてきます。エレキギターでしょうかね。

アコギも少なくとも2本はわしゃわしゃとストラミングしているようです。常に豊かな素地のうえを流れる。春の都市をメトロで行く楽曲にふさわしい意匠ではないでしょうか。人も動き、花は咲き、緑が露をはつらつとはじく季節を想像します。

リズムのキメがあって、エンディングは上行音形のオカズでシメます。リズムのキメは曲中、サビ前定位置でつかっていますね。箔ががついて、景気よく新年度のわさわさを乗り切れそうなリズムのキメです。

ボクシングの試合をみた、無名の選手がすごかった……ような、何気ない日記っぽさがあるのに、すごい説得力があります。ひとつひとつの、斉藤作品にこめられた演奏の手数がこうした説得力につながっているようにも思いますし、中心のギター1本やメインボーカルの味わい、カリスマひとつによる説得力のようにも思います。シンプルにも厚塗りにもなれる。彼の強みと凄みでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>月光 (斉藤和義の曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>メトロに乗って

斉藤和義 公式サイトへのリンク

『メトロに乗って』を収録した斉藤和義のアルバム『斉藤』(2013)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『メトロに乗って(斉藤和義の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)