曲について
サザンオールスターズのシングル、アルバム『世に万葉の花が咲くなり』(1992)ほか、ベストアルバム『海のYeah!!』などに収録されています。
作詞・作曲:桑田佳祐。編曲は小林武史、サザンオールスターズ。
テレビドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系列)書き下ろし主題歌。
私は高校生のときに(2003年ごろ)この曲を知りました。軽音楽部で一緒にバンドをやっていた友達がサザンオールスターズが好きで、その人から教えてもらった曲でした。
サザンオールスターズ『涙のキッス』リスニング・メモ
オープニングのシンセブラス風の柔和な音色のハーモニー。これに、ポルタメントしながら上下するシンセの音が絡みます。
ちょっと奥から聴こえるピアノのトーンがオブリガード。
2コーラス目Aメロで原由子のハーモニーボーカルが目立ちます。
右側からエレキギターのカッティング。1拍目を空けて2拍目と3拍目ウラのストロークパターンがリズムを引き締めます。
左側のエレキギターは揺れたトレモロサウンドでアルペジオ。この悠然としたエレキギターの音が海辺の舞台を思わせる不思議。「サザン・バイアス(勝手に命名)」でしょうか。流れをたどりたどれば、ベンチャーズやビーチボーイズのせいかも?
アコースティック・ギターのストロークがリズムとハーモニーを支えます。優しいストロークです。右から先に聴こえて、一瞬遅れて左から聴こえる気がします。先に演奏したアコギを聴きながら、新しくもう一度、先の演奏を追い越さないように別のトラックに録る。これを右と左に振りわけるとこれに似たサウンドがつくれそうです。あるいは同一の演奏をコピーして、ごくわずかにタイミングをうしろにずらしてペーストするとインスタントにこれに似た音がつくれます。この手法もそれはそれで良さがあって私は好きです。『涙のキッス』が果たしてどうかはわかりません。
桑田佳祐ボイスのバックグラウンド・ボーカルは、サビでハーモニーパートを歌詞で歌います。ほか、サビ前やサビの結びのフレーズの背景でウ〜とかオァ〜といった母音を伸ばすフレーズを描き込みます。
4:12あたりで、まるで遮断機の警笛の音を、踏切を通過する電車内で聴いたような音が入ります。愛しい人と遠く離れることの表現に思えてせつなさを増します。クリーンなエレクトリックギターの音を加工してつくったのでしょうか? 左から右にパンする、音程を徐々に下げる、ディレイ(こだま)をかける、といった処理でつくれるかもしれませんが、ほかにも秘技があるかもしれません。
エレキベースはCメロ(大サビ。♪ふ〜られ〜た、つ〜も〜りで〜 のあたり)が耳をひきつけます。スライドを交えてぐぃんと動くフレーズや短2度でしゃくるフレーズがおいしいです。Aメロなどのベーシックでは1拍目と2拍目ウラでストロークし、3拍目ウラから4拍目ウラまでを8分音符で埋めるフレーズです。Aメロではブランク(あるいはタイ)にしていた3拍目のオモテをサビではストロークしています。ドラムスのキックもここにあるので、ビートが変わり、前に向かう推進力が出ますね。
ドラムス。ヒラウタでは1小節内のスネアの打数を1発に抑え、サビで「ドンタタ、ドンタッ」といった具合に打数を増やし対比を利かせています。サビで2拍目にスネアが現れるだけでなく、8分音符2発で「タタ」とすることがポイントです。ふしぎと人懐こさをもたらす定番パターンです。スネアに合わせて手拍子したくなるパターン。3拍目のキックを3拍目ウラにずらすパターンもJポップ頻出ですが『涙のキッス』ではズラしていません。ベースのところでもいいましたが、ズラさないほうがまっすぐと確かに前に向かうグルーヴが出るかもしれません。ベースとアクセントの位置をあわせ、コンビネーションしています。
感想
歌詞がせつないです。『涙のキッス』が書き下ろされたドラマを未視聴なのですが、きっと恋の終わりや別れを描いた作品だったのではないでしょうか。曲にはドラマの内容を汲み取った緻密な意匠が含まれているかもしれません。
曲のエンディングすこしまえの、まるで遮断機のところを電車で通過するようなドップラー効果のような音。ドラマの中にも、登場人物が電車に乗って、恋しい人物のいる街を離れるシーンがあるのでしょうか。未視聴だからこそ、想像が楽しい部分もあります。
歌詞に「♪まじでだまったときほど……」といった口語が含まれている印象も心に残留。発音のおもしろさや響きのキレ、口にして気持ちがいいフレーズを好んで用いる桑田佳祐のソングライティングを思います。
ソフトなシンセサウンドのイントロや間奏の印象が強いこの曲。編曲の小林武史の手腕が出ている感じです。耳触りやさしいサウンドが、主題のせつなさをより強調します。心が弱ってるときに聴いたら余計にやられちゃいますね。私はいつもやられています。
青沼詩郎
余談
桑田佳祐とユニクロがタイアップ。CM映像に桑田佳祐の曲が用いられています。シリーズ通して1曲……でなく、その都度別の曲。
『若い広場』は水原弘が歌った『黄昏のビギン』に歌い出しが似ていますね。桑田佳祐のつくる曲には名曲のエッセンスが隠れています。
『涙のキッス』を収録したサザンオールスターズのオリジナルアルバム『世に万葉の花が咲くなり』(1992)
『涙のキッス』を収録したサザンオールスターズのデビュー20周年ベストアルバム『海のYeah!!』(1998)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『涙のキッス ギター弾き語り』)