作詞:KURO、作曲:西岡恭蔵。西岡恭蔵のアルバム『南米旅行』(1976)に収録。

すごくリッチなのですが、コンパクトにハイライトが詰まっている感じです。南米旅行のコマーシャルソングかと思うくらいですね。「辻」と歌詞に出てきます。ストリートで演奏をはじめたミュージシャンとその周りの聴衆が盛り上がりだしたような空気を映していますが、音響の品位はあくまでスタジオのそれを感じます。愛嬌ある声で「あーいやいやい……」といったようなあいの手や、リップロールだかタンロールではやしたてる脇役ボーカルパートが南米の「辻」や路上を感じさせるところです。

ハイハットとリムショットのトーンが高めで、小口径のドラムセットを想像させます。ティンバレスが入って陽気な音楽スタイルがはまっています。ギターのチョップ奏法、ピアノの小洒落た小気味良く散らしたようなフィンガリングが鮮やか。気ままな雰囲気は街頭、オープン・エアーそのもの。行き交うさまざまな街人の肌の色まで想像できそうです。日に灼けたこんがりとした色でしょうか。

歌詞が映すのはあくまで旅行者のそれで、小銭の種別がつかずたどたどしくしている様子が浮かぶコミカルなもので、楽しげな演奏のニュアンスとデザインの統一がとれた感じです。

間奏に入るトランペットだかの金管が極上の質感で、ここにレコーディング環境やミュージシャンのブッキングの良さ(贅沢さ)が映っているのを感じるのは文末にリンクしたローリングストーンサイトの記事を読んだ私の先入観が安易に出てしまったものかわかりませんが、とにかく演奏のニュアンスが技術に裏付けされた軽妙なものです。

旅は日常の延長にあるものですが、旅先によってはかなりの飛距離が出せます。文化、気候、風習……なにもかもが違う。そこで起こること、感じるもの、目にするものへのリアクションをまとめれば曲になる。テーマがはっきりしています。

手法に対しての抽象・観念に脱線しましたが、旅先の様子をごく端的に掬い取った西岡さんの『南米旅行』。アルバムを通して、1曲の長編といった見方もできそうです。

青沼詩郎

参考サイト Rolling Stone>西岡恭蔵とKURO、世界旅行をしながら生み出した楽曲をたどる

西岡恭蔵さんの「旅」ベースの曲作りのしかた・過ごし方、ミュージシャンとして、あるいは個人としてのふるまいにフォーカスし、『南米旅行』の背景、作品の奥行きが伝わります。パートナーのKUROさん、矢沢永吉さんとの関わりなどもうかがえる記事です。中部博さんと田家秀樹さんによる、西岡さんについて語る詳細な対談。

参考Wikipedia>西岡恭蔵

西岡恭蔵 ホームページ

西岡恭蔵のアルバム『南米旅行』(1976)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『南米旅行(西岡恭蔵の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)