作詞・作曲:北川悠仁。編曲:寺岡呼人&ゆず。ゆずのシングル、アルバム『ゆず一家』(1998)に収録。

きゃわいい……キラキラしてはなやかで、でも真似したくなるコンパクトでデフォルメのきいたコミカルな輪郭線。90年代後半のポップソングのもっともおいしい良質なところを象徴するようなサウンドではないでしょうか。改めてきくに、本当に良い曲です(私は1986年生まれなので、この楽曲の発表時12歳くらいとローティーンであり、つまり「その世代」です)。

岩沢厚治さんの埋もれないのにキンキンしない声は本当に特別です。北川さんが下ハモにいくサビのアタマの愛嬌と元気にあふれた歌唱、オケ含め総合したサウンドが素晴らしい。

ベースが意外と細かくアグレッシブでユニークなふるまいをしていることに気づきます。プロデュースの寺岡さんが弾いているのでしょうか。ドラムスは1小節4拍の感じがよく出ており、フィルで最低限に16分割の感じを出すところが的確です。タンバリンがチャリっとリズムのエッジを出します。タンバリンのトリルはいかにも。盛り上がります。

グロッケンのキラキラ感も高ポイント。タンバリンと相まって、ちゃりっとした音域に華をそえます。

オルガンとストリングスが決してしゃしゃらず、ほどよく厚みをだします。これぞ日本の大衆音楽に必要な要素、といった感じです。かなりエッジのまるいまろやかな音でボトルネック的なポルタメントするスライドギターが入っているでしょうか。こちらも奥ゆかしい存在感ですがにぎやかで元気な曲想にこうした脇固めの蓄積が有効にポイントを稼いでいる気がします。

サビの後半では歌詞ハモがユニゾンになり、ふたりの声が合わさってパワーと広がりがはじけます。デュオっていいなと思わせますね。当時コピーした中高生は、私だけでなく全国にごまんといたのではないでしょうか。

歌詞

“駐車場のネコはアクビをしながら 今日も一日を過ごしてゆく 何も変わらない 穏やかな街並み みんな夏が来たって浮かれ気分なのに 君は一人さえない顔してるネ そうだ君に見せたい物があるんだ”(『夏色』より、作詞:北川悠仁)

せきこむようにスピード感あるリズムで言葉が流れていきます。猫など小物に目をとめながら一帯を描いていきます。

夏が来た、みんな浮かれてる、オレだって楽しい。ウェーイ。では歌詞になりません(もちろん「逆にアリ」もあるでしょうが)。みんな浮かれ気分「なのに」、そこはその多数派になびけない君がいるのです。そんな君に、提案し、いざなうかたちで歌詞が次の展開へ鑑賞者を導きます。

“大きな五時半の夕やけ 子供の頃と同じように 海も空も雲も僕らでさえも 染めていくから…”(『夏色』より、作詞:北川悠仁)

夏の五時半で「夕やけ」はまだ早い…といったツッコミが存在するふうの旨をWikipediaで読みました。別にいいじゃないかと歌詞を鵜呑みにする私です。「子供の頃」とはつまり、青く、若く、「早い(早期である)」ことを意味します。「夕焼けにはちょっと早い」としても、「子供の頃」というフレーズが与えるイメージが「五時半」と、強く結びつき、響き合うように思えます。「ろくじ」とか「しちじ」では、字脚の快適さが損なわれます。いいんです、「ごじはん」って思いついたんだから、この歌の主人公の世界では「五時半に夕やけ」なんです。そもそも、なんだって、個人の認知は多かれ少なかれ歪んでいます。私がそうと思う事物を、ほかの人がピタリと同じように認知しているなんてこと、この世にいったいどれほどあるといえるでしょう。あなたが感じるその夕焼けの色は、あなただけのものなのです。なんなら、青空を指して「夕やけ」と表現したっていい。空も海も、好きな色で塗ればいいんです。

“この長い長い下り坂を君を自転車の後ろに乗せて ブレーキいっぱい握りしめて ゆっくりゆっくり下ってく”(『夏色』より、作詞:北川悠仁)

想い、意志、意図……主人公が君に“そうだ君に見せたい物があるんだ”と伝えたであろうこと以外は、メッセージそれ自体よりは一帯の情景や二人の様子を描くことで、主題の「夏色」を表現したワンコーラスです。

“いつか君の泪がこぼれおちそうになったら何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ……”(『夏色』より、作詞:北川悠仁)

大サビというかCメロというか、ここにきて直接的な表現でメッセージ、意志があらわになります。でもそれも、“何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ”。至極、静的ではありますが、主人公なりに、相手の能動性を尊重した愛情なのでしょう。

字脚の数がかなり多く、すらすらとたたみかけるように情景を描写する言葉がリズムをなすコーラスを反復し、大サビで意志や想いの方向がはっきりみえる表現で聴き手あるいは「君」の心と主人公の距離感・温度感を呈し、最後のサビにつないで走り抜けるように音楽が結びます。爽やかぁん。

“色”で夏の「セツナ(ひととき)」を映した快作です。

青沼詩郎

ゆず 公式サイトへのリンク

参考Wikipedia>夏色

参考歌詞サイト 歌ネット>夏色

『夏色』を収録したゆずのアルバム『ゆず一家』(1998)