Next door to an Angel Neil Sedaka 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Howard Greenfield、Neil Sedaka。Neil Sedakaのシングル(1962)。参考Wikipedia>ハワード・グリーンフィールド Howard Greenfieldはアメリカの作詞家。作詞作曲名義ががニール・セダカと一緒に連名表記になっていますが、『Next Door To An Angel』は作詞がハワード、作曲がニールだと解釈できます。
Neil Sedaka Next door to an Angelを聴く
ヘッドフォンで聴くと極端な左右のバランス感にぶん殴られる気分です。気持ちの良い臨場感。右から轟音のドラムス、ピアノ。左からスキャット。ベースも右です。パキポキとクリスピーな音で木琴(シロフォン)が奥の方からきこえます。左からクラップ。
ボーカルのハーモニーがとろっとろに柔和で甘美な響きです。ボーカルハーモニーはニール・セダカによる1人多重録音なのでしょうか。1962年という楽曲の発表年を思うと、そう潤沢にトラック数を使える録音環境(機材)かどうかわかりかねます。ほかのシンガーとの同時録りにしては声質がきわめて同質に聴こえます。音量バランスも複数のパートが同じくらい強く出ていて、主旋律がどこなのか迷うほどです。うしろでは「ドゥバパッパ……」というスキャットも平進をつづけます。つくづく厚いハーモニーで、かつ、異なる発音を唱えるボーカルが同時進行するのです。ポリフォニー:多声音楽のようかといえばそうではなく、あくまで娯楽でエンターテイメント音楽のアティテュードとしてですが、ボーカルひとつにも多層性のあるサウンドがリッチです。
イントロのスキャットが印象的で、これについて提示しておきたいのは日本のGSバンド、ザ・ダーツの『ケメ子の歌』で作中にほとんどそのまま引用しています。
『ケメ子の歌』は恋の歌で、主人公からケメ子への片想い、それも妄想や夢展開を含んだ非常におかしみとツッコミどころのうかがえるコミカルな歌であり(参考歌詞サイト)、ニール・セダカの『Next door to an Angel』も恋の歌であるのは間違いありません。
となりのドア(部屋)に天使がいる……ということで、主人公とangelはご近所さんです。天使にしてはたいそう近くにいたものですね。“I’m on cloud number nine”というくらいに主人公は入れ上げています。“It used to be such a plain street but now it’s paradise”。天使の存在をしたためて主人公の世界は激変したようです。変わり映えしない質素ななんでもない通りが楽園に思えるくらいです。これは危険ですね。恋が麻薬みたいに彼の脳内にいたずらしているみたいです。
Ⅰ、Ⅵ、Ⅱ、Ⅴのシンプルな循環コードを基調にします。主人公の空も飛べてしまいそうな舞い上がった気分を快調に描きます。
そのシンプルさのもと、中間部の展開が映えます。1分17秒頃からに注耳ください。Ⅳ調(D)に向けてドミナントモーションしたような感じで、そこからさらに長二度上、元調(A)にとってのⅤ度調(E)へ向かうなモーションで主人公のどんどん舞い上がって浮かれる恋の気分を映す音楽の意匠です。
循環コードを基調にして、声のハーモニーを出すシンプルかつリッチな音楽スタイルを両立し、コンパクトな曲のサイズのなかで音楽理論的なドラマも感じる妙作です。
ずっとこんな浮かれた気分でいられたたらいいのにな、というのは、古今東西の人の共通の願望なのかもしれません。この歌を味わっている2分半だけは楽園です。2.5m(メートル)くらいの距離に、壁を隔てて天使がいるかもしれなんてね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Neil Sedaka Sings His Greatest Hits
『Next Door To An Angel』を収録した『Neil Sedaka Sings His Greatest Hits』(オリジナル発売年:1963)