時間経過と因果と顛末
レイモンド・ブリッグズという作家の『スノーマン(ゆきだるま)』という絵本、それをもとにしたアニメーションが好きです。少年がつくったゆきだるまが動き出し、少年はゆきだるまと夜な夜ないたずらのようなことに勤しんだり、夜通しあそびたおす(という私のイメージ)。
命をもったゆきだるまと夜空を飛び回った末、空中散策から戻ると家の外で手をふってふたりはわかれて、少年は眠りにつきます。
翌朝、目をさました少年は家のまえに飛び出てみる。ゆきだるまはとけていました。命が抜けたように原型は崩れ去っていました。一晩(数時間?)でそんなにとけちゃうのですね。少年が眠っていたのは、実はもっと長く数日間くらいに及んでいたのかな? などと物語を思い出しながら今になって想像しています。魔にあてられてうなされたみたいに心地よい夢のなかに浸かり続けたみたいに。
ところかわって(もうレイモンド・ブリッグズの『スノーマン(ゆきだるま)』の話ではありません)酒はゆきだるまみたいに、オトナを夢の世界につれていきます。飲み干したウィスキーグラスにのこった氷が躍動しだし、酔いの魔精の権化がオトナをより深くドロドロな遊びにつれていきます。あれもこれもわるいこと人には言いづらいこと迷惑の限りをつくして遊びたおすオトナ。地下のごろつきの巣窟を一通り総ナメし地球のマントルを垣間見たかと思うほど沈み込んだ末、バーに戻るとオトナは遊びと酔いの魔精の権化の胸元にタクシー代を捻じ込んでハイタッチして別れると、バーの近所の植え込みだか生垣に半身を突っ込んでマーライオンの真似事を演じたかと思えば疲れ果てて眠ってしまいます。
店員もいない不思議なバーのカウンターには片付けそこねたウィスキーグラスがそのままのこってお菓子やグラスや皿なんかが林立したり散らばっていたり。昨晩、グラスの底に残ったふくふくとした氷だったはずのモノはすっかりとけてグラスの底に水を張ります。目をさましてふらふらと、ふと昨夜の不思議なバーの扉を開けたオトナは店内の雑然とした様子に一瞥やると、頭をおさえてため息ついたりなんかするのです。そのオトナこそがその店の店員だったのです。自分が片付けないと誰も片付けない。昨夜の来客はなんだったのだろう。本当に存在したんだろうか。まぼろしの乱痴気騒ぎを一人で演じたのか?……自分はどうしてしまったのだろう。
ファンタジーさのかけらもない空想駄話におつきあいいただきありがとうございます。
曲についての概要など
作詞・作曲:甲本ヒロト。THE HIGH-LOWSのアルバム『THE HIGH-LOWS』(1995)に収録。2004年、シングルとしても発売。
日曜日よりの使者を聴く(アルバム『THE HIGH-LOWS』、2020年再発リマスターCD)
ずっと続くシンガロングは空想のコンティニューを望む描写でしょうか。空想、あるいは理想の追求。こうだったらいいな。こんなことが起こったらいいな、という想像が持続すること。
日曜日、ときいて悪い気がする人はあまりいないのじゃないかという気がします。おやすみの日。もちろん、そういうときに働いて稼ぐ仕事もあるでしょう。ただ、一般に、労働から解放されて浮かれる日の象徴みたいなところもあります。
そこからやってくる使者なんてものがいたら、それは甘美な時間をともにしてくれる友達みたいなものなのか? あるいは堕落へ誘う悪魔の精なのか。だらだらするのと静的に休養するのは、似ているような違うような、でも結局一緒のような……。
つかわれているギターはアコギ。エレキ不在なのに気づきます。改めて聴いてみると、その事実が意外です。ハイロウズとくれば、エレキがジャーンとなってバンドのうえに甲本さんのボーカルが際立つイメージが私のなかにあるからです。
2拍目のウラに打点のあるハッピーでのどかなグルーヴの鉄路をドラムとベースが延々と敷きます。
左のほうに寄せられたアコギと対になるのは、なまめかしく色をかえるオルガンです。エレキギター不在でこの光量感を演出する名役者。
クラップが入ります。奥のほうにタンバリンもとどろく。シャララをシンガロングする、字ハモする。サビもシンガロング。真島さんの歌声を感じることができます。
ずっと何かを見続けているようです。その中に、使者がくるみたいに、何かの偶然と折り合いながら、ひたすらせっせと歩き続ける。そんなサウンドと歌を感じます。
ひょっとして月曜日
“きのうの夜に飲んだ グラスに飛び込んで 浮き輪を浮かべた 日曜日よりの使者”
(ザ・ハイロウズ『日曜日よりの使者』より、作詞:甲本ヒロト)
ひょっとして、月曜日あたりのシーンかもしれません。きのうまで日曜日だったのに。なんだもう月曜か。きのうは酒が入っていたはずのグラスのなかに……あたまのなかだけでも舞い戻ってやりたい。日曜日の使者でもいようものならそうしたい。そうしていられる、君がいればそのはず。ハッピーでのどかで、それでいて現実的でシビアでもある実直で生々しいバンドのアンサンブルに、イマジネーションが光る歌詞はなんの比喩なのでしょう。あなたの思う日曜日の使者とは。
青沼詩郎
参考Wikipedia>THE HIGH-LOWS (アルバム)
『日曜日よりの使者』を収録したTHE HIGH-LOWSのアルバム『THE HIGH-LOWS』(オリジナル発売:1995年)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『日曜日よりの使者(ザ・ハイロウズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)