音楽に言葉を誘引した独特な歌詞のふしまわし。井上陽水さんを思い出しました。くらくらするのです。

日射病 ココナツ・バンク 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:伊藤銀次。NIAGARA TRIANGLEのアルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976)に収録。

『日射病』を聴く 『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976)収録

Aキーでパフォーマンスしています。やはりフェンダー系のギターを思わせるサウンドです。流暢なギターの運指を感じます。後段で紹介するライブテイクではCキーで演奏しており、若々しく青い鋭さが出ています。こちら『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』収録のほうは、Aキーののびやかな響きが出ておりのどかな気持ちよさがあります。日射病になるような猛暑ではなく、ちょうどいま(執筆時:2024年5月)くらいの陽光のあたたかい気持ち良い季節を思わせる演奏がつまっています。

こんこんとダウンビートするピアノは坂本龍一さんなのですね。好いバンドです。

伊藤銀次さんによるバンド、ココナツ・バンクはファーストアルバムが1973〜1974年くらいのタイミングで出る機会をどういう事情か逃してしまった? ようです。そして2003年にあらためてリリース、2016年に完全版をリリースという、かなり珍しい軌跡を行っている作品だと今回検索していて見えてきました。

コンピレーション『ショウボートライヴ』(1974)収録バージョンがある

73年9月、文京公会堂で開催された『はっぴいえんど解散コンサート』に出演した際の演奏。キーがCでハイトーン。伊藤銀次さんのボーカルの高い位置の鋭い響きが出ています。エレキギターがミャンミャンと軽快なサウンド。フェンダー系のギターでしょうか。スライドギターがヘブンリー。

2016年のココナツ・バンク名義の発表がある

ゴキゲンです。

え?っていう歌詞

そんな日照りめらめら阿修羅

『日射病』より、作詞:伊藤銀次

いかにも音楽が雄弁なアーティストが書きそうな、音に言葉を導き入れた遊びが痛快です。一聴して「そんな日照りめらめら阿修羅」と言っているのだと分かり得ますか?(褒めてる)。これ何語? 日本語? 字で見りゃぁ、そりゃそうだけど。痛快です(2度目)。

どうしてこんなにいいお天気

真赤に桜ん坊もとろけたクリームの上

青息吐息 扇風機空々回り

ここは常夏ロイド眼鏡から湯気が拡がった

『日射病』より、作詞:伊藤銀次

暑中を描いているのはわかるのです、そりゃあ字面で見りゃあ。言葉の緩急が極めて異質。意味なんかわかられてたまるかというトガり方を感じます。「青息吐息」は私がこの世で初めて出会う語彙です。「桃色吐息」なら出会った事がありますがその仲間でしょうか。あるいは似て非なる新種でしょう。

湯気や熱気でメガネが曇るのは理解できます。「ロイド」がフックですね。どんなメガネ?

Wikipedia・ロイド眼鏡

材質のセルロイドと、この眼鏡のユーザーである俳優の名前ハロルド・ロイドが由来としてあるようです。リンク先のハロルド・ロイドの画像だけ見たら、私は単に「丸眼鏡」だと思ってしまいます。ロイド眼鏡、語句の音の質感が良いですね。ロイド眼鏡、ロイド眼鏡。無駄に言いたくなります。

お転婆娘の真赤に熟れたくちびるが

トロケバニラ ペロリくわえる仕草可愛く

赤城の山も今宵限り吹奏楽団も

喰べたそうに延流してのろのろ歩く

『日射病』より、作詞:伊藤銀次

トロケバニラは捨て置けません。怪獣の名前みたいです。競走馬とかにもいそう(いないか)。銀次さんファンの馬主さん、お願いします。きっと、暑さに負けない走りが持ち味の馬でしょう。それを“ペロリ”と来たもんだ。トロケバニラペロリ、トロケ・バニラ・ペロリ。三兄弟の名前みたいです(んなわけない)。絵本の登場人物にひとつどうでしょう。

脳味噌までとろけた 脊髄までシビれた

『日射病』より、作詞:伊藤銀次

これはやばい暑さですね。もう人として終わっている感じがします。アイスクリームの解けるイメージと、暑さでぼうっとしてしまって使い物にならない思考回路を想起させます。でもシビれる刺激が私の輪郭をこの世に引き留めてくれます。脊髄を失っては形を保てません。……あれ? でも自分の脊髄って見た事ないですね。ホントはないんじゃないの?

青沼詩郎

参考歌詞サイト J-Lyric 日射病

伊藤銀次オフィシャルブログ SUNDAY GINJIへのリンク

ココナツ・バンク『日射病』を収録した『ショーボートライヴ 素晴らしき船出』(1974)参考Wikipedia>1973.9.21 SHOW BOAT 素晴しき船出

『日射病』を収録した『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976)

『日射病』を収録した『THE COMPLETE COCONUT BANK』(2016)

『ココナツ・バンク』(2003)。『日射病』は入っていない。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『日射病(ココナツ・バンクの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)