パワーポップ THE:これ。

太いサウンドでリズムのメリハリがあり、かつシンプルでエッジのあるギターのリフレインのイントロ。

BadfingerNo Matter What』ギターリフの採譜例。ギターのレギュラーチューニングの開放弦の音程を活かしたいかにもなロックギター王道の語彙。

ロックだなと思うのですがボーカルメロディのスウィートな情緒・質感がはじけるような愛嬌に満ちており、その落差に私の心が恋に落ちてしまいます。この強くエッジの効いたロックサウンドと大衆歌としての資質に一途なボーカルメロディの掛け合わせこそがパワーポップの魂柱なのだと定義してみたくなります。

ビートルズ設立のアップルレコードレーベルのアーティスト第一号が彼らバッドフィンガーだといいます。プロデューサーはマル・エヴァンス。ビートルズのドキュメンタリーのワンシーン:マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマーの演奏シーンで金床を叩いている体の大きなメガネの男性の姿を見たことがある人もいるでしょう。

本曲のデモ・ヴァージョンはアコースティックギターの響きが目立っておりベーシックリズムの印象がだいぶ違います。曲の良さ・演奏の良さはそれなりのものがありますが、旧態に従順なサウンドがビートルズ・フォロワーという感じがします。パワー・ポップというジャンルを象徴する一作として語られる瞬発力を有する、録り直して広まったほうの音源に強いアイデンティティを感じます。その音源はアビーロードスタジオで収録したそうです。

コード進行はシンプルで、バンドでメンバーで息を合わせて響きを協調させやすいでしょう(コピバンのレパートリーにしたくなりますね)。1つのコードで引っ張る長さが局面によって変わるので、シンプルでも豊かな緩急があります。たとえばヴァースの入りたてはワンコードが長めで、ヴァースの区切り目付近ではⅣ・Ⅴを移勢のリズムを含めて忙しく変える(”do girl Ooh, girl”のあたり)、ブリッジの部分(”Knock down the old grey wall”以降のところ)では1小節ずつテンポよく変えていくといった具合にです。Ⅳの和音をⅣ7にして用いているところなどもあり、ポップで愛嬌あるキャラクターの楽曲中にブルージーなフィールをフィットさせているところが、この曲に輝きや陽気だけではない陰影のコントラストをもたらしている些細なれど捨ておけない魅力のひとつです。

ロックなサウンド、あるいは作詞作曲の骨子、そのいずれかのみによりかかることのない純然たる強い音楽愛を感じる一曲です。

No Matter What Badfinger 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Pete Ham(Peter William Ham)。Badfingerのアルバム『No Dice』(1970)に収録。

Badfinger No Matter What(アルバム『No Dice』収録)を聴く

左が鮮烈でガッツある音色のリフのギター。右で2・4拍目を狙い撃つギター。

2拍目と3拍目裏を狙ったストロークに変わったり、アルペジオフレーズになったり、8分音符のまっすぐな連打で緊張感を高めたり、歪みを極めて強い音色に変えたり(ブリッジを経てヴァースが再現されるとき)、複数のギターの仕事がシンプルなようでいて多彩です。

アー……とバックグラウンドのボーカルは清涼な印象で、なんなくファルセットのような記憶違いをしていましたがヘッドフォンで聴いてみると思ったより実声でしっかり歌っていて、その声のまっすぐな保ちかた、残響づけの色みや音の輪郭から広がり感や清涼感が演出されて感じます。

力強いリードボーカルの歌唱のキャラクターをダブリングのサウンドが増幅します。楽曲の元気なはじける明るい印象は、おいしいメロディをダブリングによるサウンドの厚みで確実に魅せる演出がなされているからだと思えます。

間奏ではセンターあたりにギターがあらわれます。アルペジオのおりかさなりを生かしたフレーズを割って出るようにボトルネックのポルタメントのリードフレーズがあらわれます。この旋律も力強さがあり、ダブリングを施されたような輪郭の幅を感じます。些細な点ですが、面白いのがこのリードフレーズをおしまいにするときに間奏がはじまるときに浴びせたアルペジオがまた出てきて、ブリッジの再現に入っていくところです。シンメトリー構造や反復の提示が丁寧だからメロディ、音色、演奏などの審美的な強みにぶれがなく、余計なものを要さないのかもしれません。

エンディング直前に、音をバッと止めて無音の終止の装い。しかしOoh girlのフレーズの反復が続きます。Ⅳ→Ⅴの移勢のリズムとコードチェンジの反復で動きを出す、ヴァースの区切り目にあるのと同じフレーズです。girlにかきまわされる心情の表現でしょうか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>No Matter What (Badfinger song)

参考歌詞サイト Genius>No Matter What

Badfinger Webサイトへのリンク

『No Matter What』を収録したBadfingerのアルバム『No Dice』(1970)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】パワーポップ THE:これ。『No Matter What(Badfingerの曲)』ギター弾き語り』)