季節の移ろいと流行歌

八月の末になると、夏がおわるのをしんみりと感じる。

日本人は季節の歌が好きだ。これは私の勝手な感慨であるが、季節をモチーフにした歌が今もこれまでも歌われたり聴かれたりしてきた。その事実から、日本人の季節の歌好きは私の勝手な感慨にとどまるものではないだろう。私は毎日、他人の作った歌を見つけてきては1曲ずつ弾き語りをしている都合、つくづく思う。季節をネタにした歌が本当に多い。季節は「記号」程度のものであるのもまた事実だけれど。

季節はうつろう。時間の経過を感じさせる。怠け者の私が、やるべきことややりたいことを放任しても季節はうつろう。自分が希望した(つもりの)未来が近寄っていなくても、街の景色が変わっていくのだ。それは本当に私が欲しかったものではないのかもしれない。

街路樹や通行人の身なり・装いが変わっていく。流行歌同様に、お店にならぶ商品も入れ替わる。都市で生活するうえで、視覚的に季節を認知できる要素はそういったことだろう。ああ、私はまた取り残されて、時間だけが過ぎていくのか。そんなわびさびがある。「わびさび」の使い方を私は間違っているかもしれない。本当のわびさびを探す旅に出てみたい。何かあるとすぐ旅に出ようとする私だが、だいたい未遂に終わる。

季節の変化が少ない国や地域での暮らしと、流行歌の関係がふと気になる。たとえばいつでも暑い国は、流行歌も年がら年中カメハメハなんだろうか(どんな偏見)。外気や景観の様相のうつろいで、時間の変化を描写するのが難しいのではないか。常夏の地域は夏が常だ。トロピカルフルーツがエブリデイ・パッションだ。

常に冬と書いて常冬っていうのだろうか。私はあまりつかったことがない言葉である。万年、雪や氷に覆われている地域もある。険しいがゆえにそういう地域では文化がはびこりにくいのかもしれない。そもそもあまり多くの人が住まないだろう。ペンギンの恋愛くらいはあるかもしれないが、人間のドラマの普遍をそうした舞台に見出すのは難しそうだ。挑戦したら新しい作品が生まれるかもしれない。覚えておきたい。

アン・ルイス『おぼえてますか』を聴く 

3拍子、短調。ポップスや流行歌には4拍子が多い。平成以降は短よりも圧倒的に長調が多い。3拍子・短調という大分類上の性格を備えるだけでも、そこそこの独創性を発揮できるかもしれないことを『おぼえてますか』は教えてくれる。もちろんそれだけで優れた楽曲が作れるわけではないのは言うまでもない。

イントロのサスペンデット・フォースの響きが洒脱。いきなり短調の主和音の響きをぶちかましたのではこの洗練は得られない。もっとイモっぽくなってしまいかねない。商業歌・流行歌としてのサウンド・響きへの意匠を感じる。作・編曲は川口真。私の好みでいうと『ドリフのピンポンパン』の編曲、『人形の家』(弘田三枝子)の作・編曲も川口真氏。

ドラムス・ベースがグルーヴィ。ハイハットやベースのストロークが醸す16ビートの綾はセンチな曲想を立体にする。

ビブラフォンの金属的な芯ある響きと揺らぎは都市のしゃれた雰囲気を暗に思わせる。ストリングス、金管、メロウなエレキギターのオブリガードも完璧に機能する。精鋭のコーラスがクワーっとせりあがりエモーションを高め、聴く者をより惹きつける。

アン・ルイスの声はまっすぐで響きはきらびやか、嫌みも媚もなく愛嬌がある。ダイナミクスや音程の適度な揺らぎが私に気持ちいい。子音、ならびに子音から母音への移ろいが美麗。魅力的な歌手だと思う。

Aメロは1コードに居座る長さを多めにとり、サビで転々と動かす。Ⅰ7でⅣへ向かうエモーションの高まりを演出する、平行長調の響きを局所に露出させて混沌のなかに明暗のコントラストを呈するなどコード、カデンツの敷き方が巧妙。

和音進行を土台にメロディの導き方も美しい。滑らかな方向を持つ骨子を華やかに彩る・飾る節回し。

作・編曲のすみずみに行き渡る意匠は嘆かわしいほどに美しい。

曲の名義や発表の概要について

作詞:安井かずみ、作曲・編曲:川口真。アン・ルイスのシングル、アルバム『おぼえてますか』(1973)に収録。

歌詞でみるアン・ルイス『おぼえてますか』

“おぼえてますか 私のこと おぼえてますか あの夏の日 おぼえてますか 光る砂に 恋が始まりかけたのを なぜか二人はそのまま別れた 赤いカンナの咲いていた路を 風が落ち葉を追いかける頃に 思い出していたの そんなこと 

おぼえてますか私のこと おぼえてますかはだしの夏 おぼえてますか 私はすぐ 後ろ姿で分かったの なぜかあなたとどこかで会えると いつも心に思っていたから 夏を忘れた都会のどこかでやっとめぐりあえた二人なの

なぜか偶然遠回りしたの 胸がざわめくこんな夕暮れに 夏を忘れた都会のどこかで やっと巡りあえた二人なの やっと巡りあえた二人なの”

(アン・ルイス『おぼえてますか』より筆者聴取、作詞:安井かずみ、作曲:川口真)

人物、情景描写の雑観

“あの夏の日”“光る砂”“はだしの夏”といった語句が、海や浜辺を思わせる。主人公らが夏に会った場所がそうした景色だったのかもしれない。そこを離れ、時間もうつろい、都市で再会した二人、といったところか。

短調の響きもあってか、悲しげだ。夏に結ばれなかったことを悔いたり、惜しく思っているような情念を思う。

①夏に会った

②落ち葉の季節に、都市で再会した

このふたつを材料にすると、夏は布石=本編の伏線であり、落ち葉の季節を背景にしたハッピーで明るい響きの歌を書くこともできそうである。

1番はおもに、その夏にその場では結ばれなかったことを嘆いているみたいに感じられる。

2番は、主人公の想いの強さを感じる。主人公は、後ろ姿ですみやかにあなたに気付いた様子。すぐに気づけるのは、それだけ普段から意識していること、意識が裏付ける観察を常に怠っていないことを思わせる。

表現の細部

気になった語句、いいなと思った表現に個別に焦点してみる。

①“夏を忘れた都会”

都会でなくても、その季節が過ぎれば、その場所(舞台)は前の季節を忘れてしまう、という表現が成り立つと思える。たとえば、クリスマスシーズンの都市は、それを思わせる商品やイミテーションがあふれる。その季節の都市にイルミネーションやモミの木もどきを探すのは比較的たやすいし、クリスマスプレゼントを意識した人々の購買行動を観察するのも同様にたやすいと想像できる。その都会も、クリスマスシーズンをすぎれば、クリスマス関連のよそおいは姿をくらます。やがて暖かくなって、屋外での行楽を促す物品や人々の動きが目立ってくる頃、おそらく「都会はクリスマスを忘れている」状態だ。

主人公は、夏を過ごした場所……おそらく海やその周辺から移動し、都市にいる。都市でなくとも、たとえば海の様子だって、夏を過ぎれば、夏を忘れているように見えるかもしれない。どこであろうと、時間は平等に経つはずだ。“夏を忘れた都会”には、主人公の心情や感情、欲求や希望・意志が映り込んでいる気がする。最後までは叶わなかった何かが、夏にはあったのだろう。

②“風が落ち葉を追いかける頃”

風が意志をもって、落ち葉に対して積極的な行動を起こしているようにみえる言語表現が妙である。落ち葉は逃げているのではない。風が押すから、押す方向へと本体(落ち葉)が移動していってしまうのである。意志があろうとなかろうと、「落ち葉がそっちのほうに行く」事実に変わりはない。落ち葉には押す力に抗う能力がないだろう。力があるが行使しない状態と、行使する力がそもそもない状態は、見かけ上はよく似ている。抗わない存在とお近づきになりたかったら、そっと、波風を立てないように近づくべきなのかもしれない。出力のコントロールが大事なのだ。その力があるのであれば。

③“赤いカンナ”

カンナの花言葉は「情熱」「快活」「永遠」「妄想」といったものであるらしい。熱帯産で、日本においては暑い時期・場所で咲く様子。夏の記号と思って良さそうだ。鮮烈な赤は思いや行動力の強さを思わせる。いっぽう、行動を伴わない思いをもカバーしているのを「妄想」の花言葉が示している。むっつりかハッキリか、いずれにせよスケベである。欲望や願望は燃えるかくすぶるかで結果は変わる。無情を思わせる花。好きになれそうだ。

カンナには赤のほかにも色がある。

①色別の花言葉は明確にはない

②赤には「堅実」、黄色には「永続」のニュアンスがある

といったネット記事が見当たる。歌の言葉としてみるに、堅実に「結ばれない状態」が「いつまでも続く」といった皮肉な情景も思い浮かぶ。

「堅実」もとらえようだ。手堅く手堅くものごとを着々と進め成長・発展させ結果を得る「堅実」もあれば、現状を手堅く手堅く保守し、現時点の「実り」をいつまでも持ち続ける様子もまた「堅実」かもしれない。

夏のその後

季節をモチーフにした歌は多い。夏なら夏を想起させるものをモチーフにして、夏を描くものが多い。『おぼえてますか』は、夏を想起させるモチーフを扱いつつ、そのあとに別の場所で登場人物が再会するらしい状況を描いている点で希少といえる。音楽的に短調、3拍子のマイノリティ感も私の音楽愛好心をくすぐる。アラもほつれもない完璧な作編曲美についても学ぶべきものがある。夏の終わりに聴きたいオツな曲。ちょっとムッツリ臭くて後手・奥手な感じの主人公の描写にもリアリティと好感がある。

青沼詩郎

アン・ルイス Wikipediaページ

アン・ルイス ビクターエンタテインメントサイト

カンナの花言葉についての参考リンク

みんなの趣味の園芸

花言葉-由来

LOVEGREEN

気になる話題・おすすめ情報館

『おぼえてますか』を収録したアン・ルイスのアルバム『おぼえてますか』(1973)

#Ann Lewis

ご笑覧ください 拙演