Octopus’s Garden The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Richard Starkey。The Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)に収録。

The Beatles Octopus’s Garden(アルバム『Abbey Road』収録、2009 Remaster)を聴く

タコとて気ままなわけではないと思うのです。常に捕食の危険にさらされている。人間から見ればしがらみも縛りも納税の義務も労働の義務も借金も奨学金の返済も何もないですが、タコが大好物なヤバい奴が近づいて来たら命懸けで逃げたり隠れたりしなければその瞬間に人生(タコ生)が終わってしまいます。

タコは穴ぐらだかそんな様相のところをねぐらにし、その出入り口の前に、きらきらした石だとかそういう無機質なモノ……たとえば人間が沈めたり散らしたりしてしまったクギだとかガラス片だとかなんなのかはさまざまでしょうが、そういった光りモノ的なものを集める習性があるそうです。それはさながら、タコのお庭(オクトパス・ガーデン)だ! という話を、ビートルズの活動をいっとき離れていたリンゴ(1968年の晩夏ころだとか)が休暇先(?)である船のオーナーから聞いたのが背景にあるとのことです。目にするもの耳にするものすべてが、未来の創造の種になるのですね。素敵な逸話です。

ビートルズ関連は、楽曲の背景やメンバーらの現実の話が豊富にあるので話がそちらに逸れてしまいがちですが、この両耳に込められた音、つまり楽曲、音楽、演奏が素晴らしい。

ノンキというと嘲笑うかのようですが、いい意味で能天気というか、明るいです。イントロからご機嫌で指が踊るようなギター。リードギターがジョージ。スリーフィンガー的な、あめあられ降り注ぐような流暢なバッキングギターはジョン。ベースのサウンドはポール印といいますか、ボン、ボン……と音のサスティンの尻が優しくすぼまるこれぞなビートルズサウンド。ピアノもポールだそうです。

どうも私にはピアノが2種類入って聴こえます。コードやリズムを雄弁に支える正統サウンドな感じのピアノと、すっとぼけて音程をわざと狂わせたまま使うホンキートンクっぽい音色のピアノです。それぞれ定位を分けています。

ジョージの間奏のリードギターがまた良いのですが、耳が忙しい。ボコボコボコ……と、ストローをつかって液体を吹く音色が込められています。海中に沈む私。

また間奏で「Ah……、Ah, Ah……」と、バックグラウンドボーカルが海月みたいにふわふわ浮かんでいきます。定位を動かしているでしょうか。収録した音をロータリースピーカにでも突っ込んで再生した音をあたらめて収録し直すとかするのか、具体的なやり方は知りませんが、声がまな板の上で微塵切りにされてしまったみたいなヘンテコな加工です。この効果的な演出が、ヒトの言葉の通じない、無脊椎動物=クラゲ?みたいな存在に私には思えます。あるいはイカ・タコの類でしょうか。海のにぎやかで多様な生物の分布を思わせる間奏部に聴きどころが満載です。リンゴがリードボーカルの楽曲『イエロー・サブマリン』が潜水艦のナカのムーヴィーなのであれば、『オクトパス・ガーデン』はその潜水艦の周り、ソトのストーリーなのだろうと思わせます。自分たちのキャリアを補完するものづくりを私はビートルズに倣います。

タコの食うか食われるかの天敵と隣合わせの生活など地上の私たちに知ったことではありませんが、地上の私たちがハチャメチャにされてしまうハリケーンも台風も大地震も経済恐慌も、タコたちの生活には影響が少ないでしょう。お互いさまか。

ところでタコの天敵ってなんでしょうか。わりと食物連鎖の上のほうにいる生物な気もしますが……ダイオウイカとか? セイウチ(walrus)とか? あ、検索してみたらウツボと出ました。やっぱりタコとて海底のお庭にあぐらかいてばかりもいられませんね。それにしても、なぜ自分のねぐらの入り口をわざと目立たせるようなお庭をつくってしまうのか。生きる死ぬに直結する因果を短絡的に判断する以上の知性を感じます。ひょっとしたら、タコも作曲したり歌ったりするかもね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>オクトパス・ガーデン

参考歌詞サイト musixmatch>Octopus’s Garden

The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

『Octopus’s Garden』を収録したThe Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Octopus’s Garden(The Beatlesの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)