スピッツのヘンさ、なめらかさ、口あたり、ロックへの造詣
スピッツの歌は、すっと入ってくる。
納得させられてしまう。
そういうものだと、鵜呑みにさせられてしまうところがある。
音楽と詞に説得力があるのか。いや、そんな雑な感慨で片付けるべき話でもない。
わかられて、消費されるのを拒むかのような(仮想上の)フォルムをしている。
表面はなめらかで、口当たりがよく、のどごしもいい。
でも、おなかのなかに入っていって、ずっととどまる。はらもちがいい?
あなたが仮にスピッツをよく知らない人でも、おそらく1曲や2曲や3曲、彼らの歌、その歌詞や音の一部くらいは思い出せる人が多いのじゃないか。
表面のなめらかさやのどごしというのは、おそらくスピッツの面々やソングライターの草野マサムネがロックに精通しているから抽出されてくる部分だと思う。なんというか、ソウルに溢れている。
スピッツの曲は、なめらかでのどごしがいいとはいえ、すごくヘンだ。変わっている。
覚えられたり、歌われたりする普遍性を持っているのは間違いない。それでいて、どこかで馴れ合うのを拒んでもいる。キュっと細胞壁をひきしめるかのように。
PUFFY『愛のしるし』とスピッツのセルフカバー
『愛のしるし』は草野マサムネがPUFFYに提供した曲。PUFFYのシングル曲で、アルバム『JET CD』(1998)にも収録されている。スピッツのセルフカバー『愛のしるし』はアルバム『花鳥風月』(1999)に収録。
曲調
ティンパニが「でぃんごんでぃんごん」轟くイントロ。あれをきいたら多くの人が「これこれ!」と言うのじゃあるまいか。
間奏のリードギターや、オープニングのティンパニーや、ホヨンホヨンとした、どこかヘコいトーンのオルガン(?)のアレンジが楽しい。編曲した奥田民生の手腕か。明るく軽快でさばけ、遊びの最中みたいな曲調。
歌詞
“ヤワなハートがしびれる ここちよい針のシゲキ”(『愛のしるし』より、作詞:草野正宗)
弱い。脆い。隙がある。動じやすい。そんな意味を含んでいるようでいて、どれとも違う「ヤワ」ということばを、この世で最も魅力的につかっている。
「ここちよい針のシゲキ」ってなんだろう。ロックに受ける衝撃か。初めて体験する遊びや娯楽の知覚か。好奇心にうったえる感覚を想像する。
“理由(わけ)もないのに輝く それだけが愛のしるし”(『愛のしるし』より、作詞:草野正宗)
人が輝くときっとどんなときだろう。その人が、やりがいを感じていきいきとしているとき? 能力を活かして、役に立っているとき? 心の底から楽しいと思っているとき?
そもそも輝くってどういうことか? その人が光ることで、誰かにまぶしいと思われたり、その光で何かを照らしている状態が輝いているということ。あるいは、単に光っているのを認知されることか。だとすると、輝くのには確かに「わけなど要らない」と思わせる。だって、空に浮かぶ一等星だって、輝いているのに理由なんてある? すごく単純なことを云っているようでもあるし、宇宙の真理にも届くような一行。
そして、“それだけが愛のしるし” とタイトルコール。
なんと。「愛のしるし」は宇宙の真理にも届くのだ……ということが今、私にはわかった。
PUFFYのキャラクター
楽しさ。さばけ具合。遊び心。でも、悪ふざけしているのとは違うし、適当にみえて、本気だし真剣だ。曲調が、歌詞が、PUFFYのキャラクターの一部になっていく。もちろん、彼女たちがもともと持っていたものと共鳴して飛翔したのかもしれない。
スピッツ版『愛のしるし』に見る同形反復
PUFFY版とスピッツのセルフカバーはアレンジが違う。
「でぃんごん」のティンパニはスピッツ版にはない。
スピッツ版の間奏の同形反復が私は大好きだ。
5音音階によるエレキギターの2小節(a)+2小節(a”)単位のフレーズが、G♭(F♯)調→E調→D調→C調と下降していく。このときすでに、しれっと元の調(C調)に戻っているのだ。そしてⅣ→Ⅴを経てBメロ(?)。おいしい進行。
間奏のエレキギターのフレーズは、滑らか。だけども、運動量多め。それでいてシンプル。1小節目は下行に費やす。2小節目で上行、下行、上行と、一定範囲にとどまりながら運動する。この、なめらかな下行の1小節目と動きのある2小節目が対比になっている。この2小節に似ている2小節がうしろにくっついて、4小節のフレーズになっている。3小節目はほとんど1小節目と同じ。ギターを押さえる左手のフィンガリングによる飾りを省き、4小節目は単一のリズム形の1拍を4拍ぶんくりかえすフレーズ。この組が、各調で再現されてC調に着地し、C調でも前半の2小節をやり、それまでとちがうフレーズでⅣ→Ⅴを経てBメロにいくという流れ。構築美があって私は好きだ。
スピッツ版MV
メンバーがいろんな装いで登場。学生服+牛乳瓶の底みたいな黒ぶち丸メガネには本当に笑いました。
青沼詩郎
PUFFY 公式サイトへのリンク
スピッツ 公式サイトへのリンク
『愛のしるし』を収録したPUFFYのアルバム『JET CD』(1998)
セルフカバー『愛のしるし』を収録したスピッツのアルバム『花鳥風月』(1999)
ご笑覧ください 拙演