私が井上陽水リバーサイドホテル』を知ったのはテレビだった。

なんの番組だったか忘れた。本人による生演奏だったか。同じく、テレビで奥田民生によるカバーの生演奏を観た記憶もそれに混ざる。他の歌手によるカバーも多く存在する。

ベットの中で魚になったあと(『リバーサイドホテル』より、作詞・作曲:井上陽水)

という歌詞が強烈に残った。なんか、えろい。

でも、単に「寝た(眠った、就寝した)」というだけかもしれない。もちろん、もっと動的なイミでの「寝た」かもしれない。あまり動かずにシてしまうことを「マグロ」なんて表現することもある。ベッドを川に見立てているようでもある。もちろん、そのベッド自体も川沿いのホテルの一室にある……という水場が入れ子になったような設定(「ベッド」でなく「ベット」と歌っているのも清らかで流れるような響きの尊重を感じる)。

リバーサイドホテル こ モデルは

リバーサイドホテルで検索すると各地に実在するホテルがヒットする。井上陽水の曲にあやかってその名前をつけて開業したリバーサイドホテルも、もともとあるリバーサイドホテルもどっちもあるのかもしれない。

モデルはあるのか。検索。出る。

九観どっとねっと サイトへのリンク
http://www.kyu-kan.net/spot/spot_onsen15.html

個人の方のブログをいくつか。

りえまるさん on じゃらん サイトへのリンク
https://www.jalan.net/travel-journal/000056482/

市川和彦さん サイトへのリンク
http://3546.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-7a0a.html

熊本県大分県のほぼ県境。杖立温泉の…くきた別館…なのか?

思ったより険しい景観。

東京出身の私は「リバーサイド」と聞くと多摩川荒川を想像してしまう。のぺぇーっとした、開けていて目立った観光地もない、ただの平野(空き地)のイメージである。野球場も思い浮かぶ。「生まれ育ち」って大きいなぁ。川にもいろいろあるというのに、「リバーサイド」と聞くと私はそれほどに限定的で具体的なイメージを抱く。

意味が重複する歌詞

リバーサイドホテル』の歌詞で気になるのは意味の重複である。

言葉の意味が重複する表現を用いている。

たとえば

誰も知らない夜明けが明けた時(『リバーサイドホテル』より、作詞・作曲:井上陽水)

「夜明けが明ける」は、まず間違いなく編集者や校閲者に朱書きされる表現だ。これを見逃す出版関係者はおそらく働き過ぎだから休養をとったほうがいい。

とはいえ芸術・文化・娯楽性のある商業音楽作品であり、正しい文法を伝える教本ではないのだ。イミが重複した表現を避けるなんてルールはない。報道やニュースでもない。たとえば出版関係者必携の「記者ハンドブック」に準ずる必要なんて何もない(でも文章に少しでも携わる人は知っておいたほうがいい。だから……作詞をするミュージシャンも知っていたほうがいい。分かっていて守らない自由があることはいうまでもない。もちろん知らなくても許容だろうけど)。

そもそもサビの

ホテルはリバーサイド 川沿いリバーサイド(『リバーサイドホテル』より、作詞・作曲:井上陽水)

が、「川沿い」を意味する表現を三連呼しているに等しい。

井上陽水の敷く異世界の川沿いにおいては、意味なんてどうでもいいのだ。

言い過ぎた。どうでもよくない。ただ、無視しても良い。そのほうが個性的な作品が作れる可能性がある。有名な『少年時代』の歌詞だって、意味のわからない表現や造語がみられるが音楽の教科書にまで載っている。いかにルールから自由になるか。ルール無視を念頭に創作にのぞむこともない。そちらのほうがむしろルールにとらわれている。そもそもルールの意識がないことが自由の前提なのかもしれない(極論?)。

いちばんクラクラくる重複が2コーラス目のはじめのほう、

部屋のドアは金属のメタルで(『リバーサイドホテル』より、作詞・作曲:井上陽水)

もう、ことば遊びをしているのが明白だ。それが気持ちいい。ガツンと殴られた気分。もちろん、ことば遊びをしている意識の有無は問わない。井上先生がどんなつもりで書いたんだってかまわない。特になんのつもりもなく書いていてくれた方がむしろ良いとさえ思う。いや、もちろん「記者ハンドブックも編集者のルールも全部知っている。それで君らを笑おうと思って書いたんだよ」ということでもいい。なんでもいいのだ。音楽だから。全部音楽だから。井上先生、私はクラクラきています。

ことばの意味やルールは味方につけても敵に回すことはない。縛られるくらいなら自由になればいい。不敵な水辺のうつろな物語。

世に「濡れ場」という言葉があるように、「」には性(性的な営み)を思わせる側面がある。曲の奇しい艶めきを表現した美しいタイトル。

青沼詩郎

井上陽水 公式サイトへのリンク

『リバーサイドホテル』を収録した井上陽水のアルバム『LION & PELICAN』(1982)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『リバーサイドホテル(井上陽水の曲) ウクレレ弾き語り』)

青沼詩郎Facebookより

“井上陽水『リバーサイドホテル』(1982)
歌詞の重複が気になる。
「誰も知らない夜明けが明けた時」…ワンフレーズ目からやってくれる。
「ホテルはリバーサイド 川沿いリバーサイド」…言い方を統一したら「川沿い」を三回続けて言われているような。
「部屋のドアは金属のメタルで」…重複ならなんでもいいんじゃない。金属のメタル…これにはシビれる。
あえて言葉の重複を考えると延々遊べそう(飽きそう)。
なんとなく自然にそうやったのか、強く自覚しながら狙いすまして書いたのか。
歌のことばと、独特すぎる声質も含めて際立つ引っかかり。井上陽水はまるで天然記念物。”