ああ、フェードしないでほしい、ずっと聴いていたい……そんな気にさせます。
ギターとベースと歌だけでしょうか。すごくシンプルです。
ですが、グルーヴがほんとうに緻密です。細野さんの楽曲は真似がむずかしい。シンプルそうに見えるからつい真似したくなるのですが、とても文脈が深いのです。
わずかに跳ねたようなリズム。でも決してバチバチに跳ねる感じではないのです。
アコギやベースのちょっとしたゴーストノートのようなニュアンスづけ、ところどころ、リズムの割り方に変化をつけるようなフック。シンプルなのに、音楽的にとても豊かです。
“むかしのメロディーくちずさみ ろっか・ばい・まい・べいびい すてきなドレスに身をつつみ ろっか・ばい・まい・べいびい 泣かないでさ これからは ダイナ 君といつも一緒だよ”(『ろっかばいまいべいびい』より、作詞:細野晴臣)
ディック・ミネが歌った『Dinah』という歌を思い出します。タイトルと歌詞にある、英語を思わせる“ろっかばいまいべいびい”一文がひらがななのは、何か、自分の日本人としてのアイデンティティーと、嗜好する音楽のスタイルとしての海の向こうの文化や観念体系を調和させるでもなく、ただ並べて立たせてちょっと数歩離れたところから自分も立って眺めているような平静で自然なまなざしを感じます。細野さんがメンバーのバンド、「はっぴいえんど」は日本語のロックが成立することを体現したバンドとして有名でしょうが、「はっぴいえんど」というバンド名にしても、そういう、観念と主体のあいだの自然で適切な距離感を思わせるネーミングとして、いまあらためて深いうなずきを捧げたくなりました。
青沼詩郎
『ろっか・ば・まい・べいびい』を収録した細野晴臣のアルバム『HOSONO HOUSE』(1973)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ろっかばいまいべいびい(細野晴臣の曲)ギター弾き語り』)
Rock-a-Bye My Baby