映像
生々しく臨場感あるベース、ドラムス。音に息づかいが入っているかのようです。岩崎宏美の歌声はつややかによくのびています。安定した音程。気持ちが良い。コーラスに赤い衣装をまとった3人の女性が奥にみえますね。♪ラーラーラーの間奏。ストリングスも雄弁です。岩崎宏美といっしょによく伸びるサウンド。オケは熱気があります。迫力満点。
岩崎宏美は身振りを交えてパフォーマンスしています。手を前に伸ばすしぐさと一緒に歌声が遠くへ飛んでいくよう。
目の前でライブをみているような興奮が私に胸に宿りました。テレビ番組の映像でしょうか。
曲の名義など
作詞:阿久悠、作曲:筒美京平。岩崎宏美のシングル、アルバム『あおぞら』(1975)に収録。
岩崎宏美『ロマンス』を聴く(アルバム『あおぞら』収録)
1、2拍目を出すベース。ドラムスはキック4つ打ちにタムのアクセントをベーシックに交えるパターン。スネアの16分音符の連打のフィルインにシビれます。タンバリンが16を表現。
エレキギターも猛烈に16です。16分音符を刻みながらウラを出します(ツクチャーツクチャーツクチャーツクチャー……)。この16に呼応するように左の定位では猛烈なラテンパーカス。
ララララ〜やウ〜〜とバックグラウンドボーカルも表情豊か。間奏だけじゃありません。
ストリングスが上下に絢爛に舞います。16をやはりつかいますね。技巧的です。プロ集団になせる技。華麗です。
クラビネットのようなリズミカルな音もきこえます。かなり高い音域。私のなかでのクラビネットの定番の担当音域はもう少し低いポジションにいるイメージ。
岩崎宏美の声は若く青いですが技量ばっちり。申し分ないです。
編曲は作曲者の筒美京平。右に左に猛烈な音が鳴り、豊かにほどばしっています。カッコイイ。カッコイイ!!
曲の構成がおもしろい
私自身のツイッターより。“5パターンくらいモチーフ。intro→サビ→キメ(”あなたが好きなんです”)→A→B→サビ→キメ→C→キメ→A→B→間奏→C→サビ→サビ→F.O.。「キメ→A→B」がこの曲の核か。勇ましいイントロもキメと同じコードとリズム。キメが主題。”
最初、“あなたが好きなんです”はサビに含まれるかと思ったのです。ですが、ラストのサビを反復するときには“あなたが好きなんです”が含まれません。しかも、Cメロ(?)“まるで今の私 迷い子のようね”という新しいモチーフが出てきた直後にも“あなたが好きなんです”が付きます。おや、これは……? サビに含まれると思った「キメ」のフレーズ、“あなたが好きなんです”はどうやら、サビとは独立した存在として考えるほうが良いのかもしれません。
私が仮につけたモチーフ記号……
Aメロ……“ひとりでいるのが こわくなる……”、“生まれて初めて 愛されて……”の部分。
Bメロ……“くちづけさえ 知らないけど……”、“甘い甘い ロマンスなの……”の部分。
サビ……イントロ直後“あなたお願いよ……”や“もしもとべるなら……”の部分。
Cメロ……“まるで今の私 迷い子のようね”、“こんな私だから 抱きしめていてね”の部分。
キメ……“あなたが好きなんです”の部分。
このように、5パターンくらいのモチーフが、法則があるような、法則を外すような感じで組み合わさってやってくるのです。筒美京平の構築の独創性にうなります。
改行を交えて、もう一度構成を整理してみましょう。
1段落目 イントロ(キメに相似)→サビ→キメ→
2段落目 A→B→サビ→キメ→
3段落目 C→キメ→
4段落目 A→B→間奏(サビに相似)→
5段落目 C→サビ→サビ→……(フェイド・アウト)
いかがでしょうか。法則があるような、うまいこと外されているような……。「キメ→A→B」の連なりは2度やってきます。そこがかろうじて法則でしょうか。それ以外は、「このモチーフのあとにはこのモチーフ」といったきまりがほとんどないのです。毎回違ったフェイスがやってくる「ソワソワ感」があります。若い主人公の恋愛のソワソワに添うて感じる構成です。
感想など
音楽の妙技は完全にオトナの業物。阿久悠、筒美京平らが若き岩崎宏美のキャラクターを見事にプロデュースしています。どこにでもいる女の子なのだけれど、芯があって、背伸びするでもなく未知のものを悟る主人公……そんな感じです。
“くちづけさえ 知らないけど これが愛なのね”(岩崎宏美『ロマンス』より、作詞:阿久悠)
精神の成熟によって愛を感じるそれは、恋愛、あるいは性愛。たとえ肉体の接触がなくとも……。
演奏がメチャかっこいい
Wikipedia>ロマンス (岩崎宏美の曲)に演奏者一覧があります。どなたがどんな人で……というところまで紐づける知識もありませんし、ここではそれに努めることもしません。演奏がいきいきとする編曲だといえるし、演奏者の技量がそれに応えています。それらを背負う岩崎宏美の度量、技量、うつわのポテンシャル。
エキサイティングな鑑賞体験でした。カバーのリリースにも積極的な岩崎宏美。私の音楽の広がりのハブになってくれます。
青沼詩郎
公式チャンネルが公開しています。トリオ編成のアコースティックライブの『ロマンス』(2020、コットン・クラブ)。パワフルなピアノがボリューミーに艶っぽく。コロナ禍の影響で半年ぶりだったという岩崎宏美の歌にドキドキがにじみます。曲の発表時とはまた違った大人な味わい。声の響きに攻勢を感じます。“くちづけさえ 知らないけど これが愛なのね”(岩崎宏美『ロマンス』より、作詞:阿久悠)に俄然注目(傾聴)してしまう私。ビブラートの揺れの模様に円熟味。
『ロマンス』を収録した岩崎宏美のアルバム『あおぞら』(オリジナル発売:1975年)
ご笑覧ください 拙演