浪漫飛行 米米CLUB 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:米米CLUB。編曲:中崎英也 & 米米CLUB。米米CLUBのアルバム『KOMEGUNY』(1987)収録後、シングル(1990)発売。
米米CLUB 浪漫飛行(アルバム『KOMEGUNY』収録)を聴く
この曲で一つの時代が終わらせられ、始まりもした……分かったようなことをさもそれらしく言ってみたくさせる名曲です。商業音楽界を横断的に知っている私では微塵もないのですが、なぜかそう思わせるのは彼らの、この曲のもつときめきのサウンドのせいでしょうか。一般のライトな音楽愛好者、あるいはそれ以上に及ぶ広まりを持つ知名度ある曲だと思います。
初めてこの楽曲が発表されたのは意外にもシングルでないのですね。アルバム『KOMEGUNY』(1987)収録。米国(コメグニ?)レコーディング作品だそうです。ダジャレを忘れない「軽薄さ」にむしろ(だからこそ?)美が宿るのが米米CLUBの革新性だと思います。
この澄み渡ったサウンドの質が、米国レコーディングの賜物でしょうか。
音数を抑えた美しさがあります。いえ、もちろんきちんとリッチなサウンドなのですが、余計なところで余計なものを入れていない……私の語彙が陳腐です。
音数を余計にやたら入れなくて済む、最上の働きをしているパートがベースです。シンセベースとでもいうのか。5度の跳躍音程をとっていくフレージングです。一音につき2打ずつ置いていくストロークで8分音符の分割をグリグリ……いえ、ジュンジュン(なんでもいい?)と押し出していきます。シンセベースっぽいサウンドにはどういうわけか「ジュンジュン」の擬音が似合うと思っている私です(どうでもいい?)。
ベースがこうして勤勉で恒常な働きをし、5度音程以外にも和音進行に沿って和声音を適確に射抜いて進んでいくので、極端な話このベースと歌だけでも楽曲の和声とリズムとメロディの骨格がほとんど「視える」と思います。
これにスコーンと抜けた壮麗な印象のキーボードだかシンセのオブリが絡んで浮遊感。帯同するピアノに彗星の尾が絡んだように感じる、独特の80年〜90年代を思わせる音色。
そしてボーカルメロディの黄金律。歌詞の親身でロマンティックな語彙。グッドメロディ、カノン進行系の鉄板和声進行。過不足のない最高のアレンジ、サウンド。生演奏っぽい揺らぎや振れ幅は少なく、シュっとしたオケです。洗練、アカ抜け、都会的などの形容が似合います。
暴れず、すっと離陸してすっと着地する。さながらスマートで優雅な旅が保証されたサウンドは実際に航空会社のタイアップを獲得するに至るようです。それも、それが実現したらしめしめと目論んで曲をリリースし、実際にそうなり、そしてシングルとなった……ような経緯がWikipediaなどみると読めます。浪漫がありますね。
歌詞 多重露光のMy Heart
雨をくぐって理想の周遊へ
そこから「逃げだす」ことは誰にでもできることさ
あきらめという名の傘じゃ雨はしのげない
何もかもが知らないうちに
形を変えてしまう前に
『浪漫飛行』より、作詞:米米CLUB
傘は身を守る道具、庇護の象徴にもなりうるでしょうが、立ち向かうべきものを遮るその場しのぎの妨げになりうると想起します。
雨をしのぐ傘は「あきらめ」よりももっと相応しいものがある、とも読めます。雨はそもそも「しのぐ」ものでもないのかもしれません。傘をさした飛行機を見たことがありますか? ……話を飛躍させました。
観察を怠ると、ものごとは別物かのように変化していきます。傘や雨といった語彙と「しのげない」との否定形で結んだ前段で、求める理想の存在を暗示し、続く後段“何もかもが…(中略)…しまう前に”で、今が行動を起こすべき好機なんだと聴く者の胸のエンジンをかけ、サビへと誘い夢のような「飛行」の展開でリスナーを地球周遊でトロトロにほだしてみせるのです。
鉄便、空便
いつかその胸の中までも くもらぬように Right Away おいかけるのさ My Friend トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky 飛びまわれ このMy Heart
『浪漫飛行』より、作詞:米米CLUB
人生経験すべてを資源にして、年を重ねるほどに有利に、豊かになっていくというロジックもあるでしょう。長蛇の列の貨物列車のようなイメージです。ガタゴトと地道に、沿線の人と恵を分かちあいながらゆっくりと真っすぐ先の未来へ進んでいく……実際の貨物列車は道すがらで恵をふりまく存在ではないかもしれませんが、私の頭の中の「浪漫運行」です。
『浪漫飛行』はそれとは対照的な身軽さがあります。いつも、最小限のものだけを胸におさめて、自由でいること、真っ白でいることを愉しんでいるのです。出会った人と、出会った瞬間にハイタッチするような反射神経があります。
曲の真ん中過ぎ、2分27秒頃から、未来や空想にふけった意識を地に足付けた自分のもとに引き寄せるような、キレイな半音下降のモチーフが挿入されシーメロ(大サビ)へ。
浪漫は多重露光
忘れないで あのときめき 一人じゃない もう一度空へ
『浪漫飛行』より、作詞:米米CLUB
自由でいること、身軽でいることを尊重する主人公だとしても、「かさばらない何か」を胸に蓄積しているのでしょう。一瞬一瞬の鮮烈に焼き付く記憶でしょうか。写真技法の「多重露光」の観念がピンと来ます。どんどん重なって焼き付いて、複数のシーンの重ね合わせ:集合がひとつの絵(画)を成します。「刹那」の重ね合わせだけを胸に、主人公は繰り返し空へ向かいます。“もう一度空へ”で半音転調し、元調のBからきっかりハ長調(Cキー)にピントが合います。「空へ」の単語でキーが上がる様は、さながら音楽と言葉の意匠の多重露光(重ね合わせ)です。
青沼詩郎
『浪漫飛行』を収録した米米CLUBのアルバム『KOMEGUNY』(1987)
KOME KOME CLUB
米米クラブ
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『浪漫飛行(米米CLUBの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)