リスニング記

1985年のC-C-Bのシングル、アルバム『すてきなビート』に収録。作詞:松本隆、作曲:筒美京平。編曲は船山基紀とC-C-Bの連名。

大抜擢された(?)という笠浩二さんのボーカルは儚い繊細なニュアンスに富んでいます。何より音域が高いです。個性の面でリスナーに印象を残す強みがあります。歌詞の“とまらない”の部分の“と”など、ファルセットをまじえた表現にもみえますが元々のポジションの高い声質もあってか悪い意味での「使い分け」を感じさせず、スムース。自分の意思を置いてけぼりに転がるRomanticのスリルを表現しているように感じます。

電子ドラムの音も多くの人が『Romanticが止まらない』に寄せる印象の大部分を占めるものでしょう。デシデシチキチキと左右に定位を振り分けたトーンが両耳を攻め攻め。16分割のストロークを交えたハイハットのトーンが「チキチキ」っとリズムのフック。耳に存在感を訴えます。そればかりか要所でバスドラムまでも16分割のリズムの魔法を暗唱。右側のサイドスネアなのかクローズドハイハットなのか分かりかねるトーンと、左側の「チキチキ」いう粒立ちのハイハットが左右で対になって感じます。疎密でいえば比較的「疎」なタイミングで「ポォーン(トゥーン?)」と電子ドラムのハイタムのような音色がポルタメントする音尻。サビ明けに感じやすいでしょうか。これも左右に振ってあります。

シンセのトーンが多彩です。サスティンしたときに音に揺らぎを加えているでしょうか。聴く者の情緒を同時に揺さぶる印象的なキャラクターです。また長く伸びる系のトーンは透き通るように尾を引く感じがあります。「デジデジ」な印象もありますが、意外とアコースティックのピアノのトーンもサウンドの豊かさを担保しています。サビ前のフィルインでウワッとグリスアップしたり、エンディングの8分音符3つのまとまりを成す怒涛のキメのときの低音域に存在感を覚えます。

イントロの「ッパッパッパッパッパラッパパッパーパッパー(伝わります?)」のブラス風のトーンの華やかさはいうまでもありません。人工的なシンセっぽいブラスのトーンでウラ拍に引っ掛けるリズムで軽快なテンポを走り抜けるさまにどこか人間ばなれしたものを感じます。アクロバティックなサウンドは火花が散るようです。

「アー」系のコーラスは透き通り、低音ボイスで合いの手をかますボーカルがつやめかしくセクシャルで強い存在感があります。メインボーカル、音のカベを成す系のコーラス、合いの手系のボーカルと、声の表現で括ってもただならぬ個性の強さと幅広さが察せられます。

私の手持ちのヘッドホンで、もっとも高音域をやさしく感じるモノで聴いてもただならぬ高域の透明感があります。高音域を最もキツく感じるヘッドフォンで聴くと脳内にバンドがいるみたいな明瞭な音像を感じることができ、未開拓な感覚野を開発されているような攻めたトリップ感を覚えるサウンドです。

C-C-Bと名前を連ねての編曲者:船山基紀のサウンドで私が思い出すのは沢田研二『勝手にしやがれ』でしょうか。『Romanticが止まらない』と並び、劇的なサウンドに個性を覚えます。派手、華やか、ドラマティック、エモーションの高まりを演出するアレンジメントに感服します。

青いハイヒール

松本隆の歌詞についてはこれまたひとくさりふたくさりやる程度では不足して余りある含蓄に富みますので、ここでは私の最も気になるワン・ワードを挙げるにとどめさせていただくなら“青いハイヒール”のところでしょうか。「ハイヒール」と単語だけを聞くとどうしてか、情熱や性愛への意欲を感じさせる「赤系」の色を想像するのですが、ここは“青いハイヒール”です。青いバラ、青い発光ダイオードなど、青のものはそれだけで革新の象徴であるようにも思えます。漫画に登場する異星人が青い血を流すなど、表現において鑑賞者に印象の引っ掛かりをもたらす“青”。私も“青”を自作の創作に活かしてみたくなります。

作曲と切り離せない話ですが、“青いハイヒール”において併せて気になるのは、「は・い・ひ・い・る」という5音節を、たった2ストロークのボーカルメロディーを要求しかねない時間・空間に収めていることです。ほとんど「タタ」のリズムに「ハイ・ヒール」を収めているような感じですね。アクロバティックです。「ハイヒール」という単語を、どんな初見の鑑賞者にも間違いなく確実に伝えるならやや無茶と評しうるようなこの曲のテンポにおける一瞬の出来事なのですが、そこが良いのです。それに、実際“ハイヒール”の単語を伝える際に、(まるで子どもの遊び:「グリコ」において“ち・よ・こ・れ・い・と”を唱えるように)“は・い・ひ・い・る”などと全ての音節を強調して発声する人は稀でしょう。元の英単語のもつ音節数やスピード感を思えば『Romanticが止まらない』で歌唱されているようなニュアンスはそう突飛なものでなさそう。でも、そのキレの良さに私は面食らうのです。ポップソングの生産者は、いかにしてリスナーを面食らわせるかの工夫の応酬のなかでせめぎあい、生きていると私は想像します。革新の“青いハイヒール”は表現者の鑑なのです。

追記 『筒美京平の記憶』にみるファクト

『筒美京平の記憶』(ミュージック・マガジン、2022年)。C-C-Bのドラム・ボカール:笠浩二さんのインタビューを掲載しています。ボーカルに抜擢された笠さんが船山基紀氏の編曲を気に入っている旨の発言をスタジオでしたことが、『Romanticが止まらない』が現在の形で知れ渡るプッシャーになっていることがうかがえます。作曲者の筒美京平さんは“ロック・バンド向けの音楽性をC-C-Bで試してみたかったようで”(『筒美京平の記憶』220頁より引用)とあり、アレンジが変えられてしまう可能性もある向きが潜むなか、メンバーの意見がはたらいて船山さんのアレンジが採用され、ヒットの結果を残すことにつながったようです。

サビ前の“君の青いハイヒール”やサビの“せつなさは”といった印象的な部分のボーカルメロディも作曲段階では違ったと語られ、笠さんが歌いやすいようにやった結果現在の形になっており、それを筒美京平さんが容認した旨、貴重なエピソードも語られています。当初の譜面通りに演奏した場合はどんなものだったのか、幻となったメロディ(そこまで大きく違うわけではないかもしれませんが)も気になりますね。完成し流通したもののみを知る私としては、これ以上のベストがあるのかと思ってしまうのも正直なところです。演奏者の肉体を通ることで、楽曲が最適化される(適合前を知らずして言えたものではないかもしれませんが)、最も好ましい事例のひとつが『Romanticが止まらない』なのかもしれません。

加えて、笠さんの印象的な電子ドラムは「シモンズ」というそうです。ほかでも耳にしたことがあるであろう、「トゥーン」(?)的な音の名前を記憶に刻みました。

『筒美京平の記憶』はC-C-B『Romanticが止まらない』以外にも、筒美京平さんの携わった楽曲の仔細で広範なファクトを豊富に掲載しており、今後も重宝しそうです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Romanticが止まらない

参考歌詞サイト 歌ネット>Romanticが止まらない へのリンク

C-C-Bの『Romanticが止まらない』を収録したアルバム『すてきなビート』(1985)

C-C-Bの『Romanticが止まらない』を収録した同名のベスト盤(1993)

『筒美京平の記憶』(ミュージック・マガジン、2022年)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Romanticが止まらない(C-C-Bの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)

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