数多のGS
『GSワンダーランド』という映画を観ました。主人公たちがGSバンドでデビューします。レコード会社やらの音楽産業の関係者筋が、主人公らのバンドの方針をどうするかみたいなことで打ち合わせをしているシーンで、GSシーンの先行例を挙げて、数多のGSバンドのレコードのジャケットをポンポンとカードを切るように机のうえに投げ打っていくシーンがあり印象的でした。それらのレコードジャケットとグループ名は、劇中の架空の存在でなく実在のものを使用していました。
ぽんぽんと机上に投げ打たれるレコードのなかのひとつに、ザ・ジェノバの『サハリンの灯は消えず』があったような気がします。
サハリンの灯は消えず ザ・ジェノバ 曲の名義、発表の概要
作詞:若木香、作曲:北原じゅん。ザ・ジェノバのシングル(1968)。
ザ・ジェノバ サハリンの灯は消えずを聴く
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アクがつよつよなボーカルが私をニヤニヤさせます。ダイナミクスの揺さぶりがすごいです。小さく歌うところは小さく、ドンと出るところはヘッドフォンを耳から離したくなるくらいドンと来ますね。
ボーカルの表現ってでも、本来こういうところが面白いと思うのです。曲をとおして、悪目立ちしないように、きれいにならされたボーカルミックスがほどこされているのが現代のポップスのほとんどだと思います。もちろん、聴感上気にならないように処理されているというだけで実際はダイナミクスの幅がちゃんとあるものも多いと思いますが、ザ・ジェノバ『サハリンの灯は消えず』くらいヤっちゃってくれている音源に現代のもので出会うのはまず難しいでしょう。こういうガクガクしたくらいにやってくれているもので現代の音源、私は知りません。
もちろん素人くさくてヘタなんじゃない。ちゃんとウマいんです。私が環境音にまじって適当なイヤフォンで控えめな音量で聴いてたりすると確かに「今なんていった?」と歌詞が聞き取りづらいこともありますが……でもそれでいいじゃないかと思います。どうしても歌詞の全容が詳細に気になるのであれば調べたらなんて歌っているかわかることですし。
ピヨピヨとピークのでたGS特有のオルガン、そしてギターのアーミングのニュアンスがまたメロメロで、なんといいますかハッキリスケベっぽくてすごく好きです。パカパカと竹を割ったようなドラミングとサウンドもいいですね。
間奏の折り返しで、「ンンンンン〜♪」とハミングのボーカルメロディがはじまるところも可笑しい。いやでも、これ楽器のソロを入れ替わり立ち替わりさせただけで済ませていたらきっと物足りなかった。これでよかったと思います。私は楽しませてもらっています。ツッコみたくさせるところが絶妙なのです。
作詞の若木香さんは作品数もそんなにみつからず、歌詞サイトの歌ネットだと渚ゆう子・佐々木敢一さんへの提供曲『早くキスして』というのがみつかります。作曲の北原じゅんさんは演歌の大家といったところでしょうか、そういう系の歌手への提供が多数あるようです。
北原じゅんさんはクラウンの専属作家さんだったという記述がネットのECサイトなんかにみうけられ、ザ・ジェノバはその門下生のあつまりだそうです。なるほど、演奏と歌唱のアクとクセに演歌臭(?)を私が感じる根本がそこにありそうです。
初見(初聴)でなんて言っているか聞き取れなかった単語のひとつが「フレップ」。アイヌ語で「赤いもの」をさし、こけもものことだそうです。北海道あたりの名物でしょうか。食べてみたいですね。甘酸っぱそう。作曲の北原じゅんさんは樺太生まれの室蘭育ちだといいます(参考Wikipedia)。
故郷への想いが重なると思うとなおエモさが倍増しますが、『サハリンの灯は消えず』はリリース後50余年したリスナーの私をニヤニヤさせるくらいに時空を超えて届く相当な光です。ふるさとの記憶って消えないですもんね。どこへ行って何に取り組んでいても胸に灯っているのです。あちら(ふるさと)もきっと、こちらの「灯」を見てくれているでしょう。
青沼詩郎
ザ・ジェノバのシングル『サハリンの灯は消えず』(オリジナル発売年:1968)
『サハリンの灯は消えず』を収録した『CROWN RECORDS PW MASTERS BLACK LABEL SINGLES COMPLETE COLLECTION vol.1』(2010)。『サハリンの灯は消えず』を収録したオリジナルアルバムがない(ミニベストが存在するとか?)ザ・ジェノバ。円盤で聴くなら中古シングルレコードか、コンピが選択肢になってしまうでしょうか。クラウンレコードのコンピがおもしろそうだったのでリンクしておきます。マニアックなGSを結構収録している模様で豪華です。
映画『GSワンダーランド』
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『サハリンの灯は消えず(ザ・ジェノバの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)