曲について

TULIPのアルバム『TAKE OFF (離陸)』(1974)に収録されました。作詞・作曲:財津和夫、編曲:チューリップ、弦管編曲:青木望。

青春の影 リスニング・メモ(TULIPのアルバム『TAKE OFF (離陸)』より)

ベーシック

ドラムス。歯切れが良いですがまるっこく太く、パワーと暖かさがあります。高いタムを右に、低いタムを左に定位させて広げています。ハイハットは右寄りでしょうか。客席からドラマーを見た場合の楽器配置に倣っているようです。ほかのシンバルはおそらくそれぞれで左右に広げてあるかな? スネアとキックはほぼ中央ですがマルチマイクでかなり巧妙な音像づくりがされている気がします。

ベース。コードチェンジに合わせた1小節に2回の2分音符ストロークを基調にしつつ、ところどころで経過的なラインをみせます。1サビ後2コーラス目に入る前や2サビ後の間奏に入る前のオカズ(フィルイン)でハイトーンをみせます。ビートルズを思わせる音色です。

ピアノ。イントロでは裸のボーカルを支える柱です。この出だしで愛好者から一般的なリスナーまで広く名バラードの印象を与えたのではないでしょうか。1小節に4つ打ち、あるいは8つ打ち、強拍で打ったあとに弱拍で打って移勢させるなど場所によって変化を見せます。左寄りに定位させてありますが低音域が右側に立ち上がって聴こえる瞬間があります。間奏では音量を上げてきて、右側やセンターから聴こえる管弦楽パートともに熱量を感じさせます。

ウワモノ

オルガン。イントロでピアノに次いで入ってきます。ビートルズの『Let It Be』などのサウンドを思い出します。ストリングスと溶け合ってもいますね。フワァーっと教会の天窓から光がさすようです。イントロ以外での存在感は控えめですが、リスナーが頭の中に描く映像に与える影響は大きいです。1サビ後から2メロに入るあたりではロングトーンが見事に場面の切り替えの鎹(かすがい)になっています。やはりこの曲をこのレベルで名作たらしめるためにはなくてはならないと思います。

管・弦楽器。右寄りにストリングスが聴こえます。ベース音がエレクトリック・ベースなのかストリングスの低音パートのピチカートなのか初め迷いました。アルコ(弓で弾く奏法)の音が目立ちます。主に右寄りにいると思ったのですが、高音パートはいくらかセンターもしくは左寄りかもしれません。エンディングのフェルマータで余韻する高音弦を感じます。中・低音弦は右寄りと棲み分けたのかもしれません。間奏では美しいオーボエが聴こえてきます。間奏前半はピアノに、間奏後半はオーボエに華です。間奏前半では控えめに右寄りにいるオーボエですが、間奏後半では中央付近に現れます。スポットライトを切り替えたりカメラをクロスさせたりするようなフェーディング・定位づけです。オーボエは1サビが終わって次の部分に入る直前にも合いの手を入れています。目立ってくる瞬間が少ないですが、サビの終わり際(歌詞♪これからの僕の生きるしるし……あたりなど)にホルンの優しい音が弧を描くように入ります。溶けてしまって判別し難いですが、ひょっとして他にも木・金管がいるでしょうか……?

編曲とミキシングの妙が相まって、部分によって音のマッピングが万華鏡のように変化して感じます。

コーラス。2・3サビでAh〜と入ってきますね。メインボーカルの頭の斜め後ろからステージの天井に向かって空間を広げます。低域をすっきりさせた透明な声です。まるで祝福するかのようで、この声があるだけでじぃんと感動してしまいます。

ボーカル

ダブリングしてあります。2回歌って重ねているようですね。2回目のほうの音量を控えて奥行きを出しているようです。

感想

男女の仲が恋から愛にかわるところを描いた曲だと思います。ですが、自分が新婦の父親や女児を持つ父親になったつもりで聴くのもなんだかいいなぁと思いました。

自分に付したさまざまなラベリングのむこうにある私とあなたの関係こそが愛なのかもしれません。

この記事はアルバム『TAKE OFF (離陸)』収録バージョンを聴いて書いています。財津和夫やチューリップの面々の音楽の嗜好やリスペクトがサウンドに出ていて、このバージョンが私はとても好きです。

かつてからの私の記憶の中のサウンドと一番合致したのは『チューリップ・ガーデン』(1977)で聴けるもので、これはおそらく1974年のシングルカット版と同一でしょう。世間で最も認知されているのもこの音源かもしれません。

検索してみるとバージョン違いがどんどん出てきました。彼ら自身もそれだけこの曲を重要視しているのと、客観や評価もそれに相違ないのが見てとれます。

「青春の影」というフレーズは歌詞中出てきません。曲の主題を抽出して、本文中にない言葉をつかって題したパターンですね。想像ですが、作ってから名前を決めたのではないでしょうか。これまでの自分との決別、そしてこれから歩んでいく道、更新していく私とあなたの関係を際立たせるニュアンスを感じます。

TULIP 公式サイトへのリンク

5人編成でのライブ映像。ブラボーです。

バージョン違いリンク集とプチ聴き比べ

TAKE OFF (離陸)』(1974)。『青春の影』の最初のリリースと思われるのがこれです。この約2か月後のシングルカットはバージョン違い。

チューリップ・ガーデン』(1977)。シングルAB面集。シングル版の『青春の影』が聴けます。イントロのハイハットにかけられたショートディレイがまたビートルズを思わせます。アコースティック・ギターがたまに聴こえます。オルガンの存在感強め。メインボーカルはダブリングなしで単一の輪郭線、ドライで暖か目な音像に感じます。エンディングにリード・トーンのエレクトリック・ギターがいます。リタルダンドして終止。

We believe in Magic Vol.2』(1997)。TULIP再結成時のセルフカバー『青春の影』が聴けます。ボーカルの艶やかさと発音の繊細さに磨きがかかっています。ストリングスは主にシンセでしょうか。ピチカートサウンドも用いていますね。生っぽいチェロも2コーラス目で入ってきます。全体的にハイファイになった印象。ドラムの音作りも近代的で、ちょっとスタジアム・コンサートライクです。タムの左右の振りは控えめ。シンバルで左右を出しています。ベースもズゥゥゥンとハイエンドな質感。ベーシックにピアノ。エレクトリック・ギターのエンディングが華です。キーボードを用いてバンドメンバーのみを中心にした編成でも割と高い再現度を確保できそうなアレンジです。ライブ・コンサート、リハーサルを重ねて経験を積んだTULIPを感じます。

サボテンの花 ~ grown up』(2004)。財津和夫のセルフカバー集。アルバムのラストにボーナストラックで『青春の影』のライブテイクを収録。メランコリックなピアノのイントロ。ボーカルの残響が会場の空間を思わせます。ライブ音源ですがドラムスの音像が近い!丸く太いです。タムの抜けがすごいですね。スネアの音作りも良いです。シンセストリングはキーボードでしょうね。こちらもセルフカバー版のように生のチェロがいるでしょうか。エンデイングはエレクトリック・ギター。リタルダンドして主和音フィニッシュ、ちょっとかきまわして拍手がさわさわと湧きます。

2枚組ベストアルバム『おいしい曲すべて 1972-2006 Young Days~』『おいしい曲すべて 1972-2006 ~Mature Days』(それぞれ2枚組なので2タイトルで合計4枚)それぞれに収録された『心の旅(2006 Anniversary Mix)』(“Young Days”に収録)と『青春の影(2006 Anniversary Mix)』(“Mature Days”に収録)を1枚のシングルにした『青春の影 vs 心の旅~2006 Anniversary Mix〜』(2006)。“おいしい曲すべて”のおいしいとこどり。(これはいま手元にないので取り寄せて聴きます。)

青沼詩郎

ご笑覧ください 拙演