映像
MV
レコードが回り出すような演出。穴の大きいドーナツ盤でしょうか。加藤ひさしの待つマイクはSM57(SHURE)ですね。メンバー4人で円状のステージに立ちます。ギターはリッケンバッカー。白っぽくみえるドラムスはワンタムワンフロア、ストレートスタンドのシンバルで音楽性が出ています。加藤ひさしのフワフワした毛のジャケット。ボブカットのヘアスタイル。ストライプのパンツ。志向が出ますね。映像中に英題やメンバーのクレジットがさりげなく入ります。加藤ひさしに寄る画とメンバー全体の画をクロスさせて同時に見せていきます。臨場感が伝わる編集です。シンプルで真っ向勝負の編成のバンドの魅力を効果的に見せています。オープニングとエンディングには世界の止まった時間を謳歌してみえるカップルたちの姿がパパパパっとフラッシュ。曲の主題ですね。
FUJI ROCK 2016
2016でフジロックは20周年だったそう。メンバーのしゃべりからはじまる映像、ライブ。イントロで「歌って歌って」「意外と知ってるじゃねぇか」と誘われ盛り上がる客席。加藤ひさしの派手なスーツが目立ちます。古市コータローの赤いギターのカッティングはミュートによるクローズとオープンがタイトです。間奏時の立ち姿、脚の角度よ。ベース・山森“JEFF”正之はピック弾きで16分音符の食いのリズムでグルーヴを出します。ドラムスは2017年正式加入の古沢 ‘cozi’ 岳之。やはりコンパクトなワンタムワンフロア、シンバルスタンドはストレート。音楽性出まくりのキットで熱量とコントロールの均衡ある気味の良い演奏です。
曲について
THE COLLECTORSのシングル、アルバム『UFO CLUV』(1993)に収録。作詞・作曲:加藤ひさし。
THE COLLECTORS『世界を止めて』を聴く
UFO CLUV(再発盤)
ピアノとボーカルで緩慢なテンポでつむぐイントロ。
左にピアノストローク、右にギターのストローク。ギターは張り付くようにドライで明瞭な音像です。ストリングスのような迫力のある何かしらのリバース音と共にドラムスとベースが入ってきます。
ドラムスはゴーストノートで非常にこまかくグルーヴを出しています。スネアのさわさわとしたスナッピーの鳴りとハイハットの高域のサワサワ感が合わさって非常にリズミカル。ハイハットが16ビートに聴こえる瞬間もある気がしますがどうでしょう。サビでタンバリンがうっすら入っているのかしら。「チキチキチキチキ……」といった分割が通底して聴こえるような気もします。ギターソロ後の静かになるところではハイハットが16ビートしているのがはっきりわかりますね。16分音符単位のウラでハーフオープンにさせて非常に緻密です。サビではペダルを踏んでクローズさせるハイハットの8ビートとライドシンバルをスティックでヒットする8ビートを同時に鳴らしています。1人で同時にワイドな刻みを演出する巧みなプレイです。
ベースは根音に対して第5音、オクターブ上の音程を頻繁に用いています。1拍目をストロークし、後続の拍で16分音符単位で細かくウラをとったりリズムを刻んだり。浮遊感や安定感のオシヒキを巧妙に演出していて好印象です。
Bメロ以降で2本目のギターがやや左寄りにあらわれます。アルペジオのような動きや拍頭でストロークして少し伸ばす。緩慢さと動くところのメリハリの効いたプレイです。2コーラス目の平歌はオブリガードを弾きます。2コーラス目のサビが上がったところでは「cho cho!」というボーカルとともにオクターブのカッティングプレイ。気分が上がるポップ度高い奏法です。
左のセカンドギターと入れ替わるようにギターソロの間奏が中央にあらわれます。リズミカルなアルペジオとカッティングを織り交ぜたようなプレイ。開放弦を交えて低いほうから高いほうの弦まで弾き分け、深く豊かなレンジにまたがった響きを出しています。
間奏が上がると「コーンコーン」と右のギターがハーモニクス。バンドはサウンドの熱量をしばし抑えます。ここでピアノストロークが久しぶりに存在を発揮。
Ⅵ♭→Ⅶ♭の和音を経由して、短3度上の調へ跳躍転調! Ⅶ♭をⅤに読み換えて、強拍でサスペンデッド・フォースを引っ掛けています。元の調・DメージャーからFメージャーへの転調です。ここでリバース音の演出が入ります。イントロを上がるところのリバースは荘厳な感じの音でストリングスかな? と思いましたが、こちらはギターのリバース音っぽく感じます。転調以降はなおボーカルの緊張感とエモーションが高まり、高音域が突き抜け胸を揺さぶります。こちらの胸も熱くなる。
ボーカルがフェイクするエンディング中、左右のリズムギターに加えて3本目のギター。2拍単位で動く2小節フレーズの上行、同じく2拍単位で動く2小節単位の下行フレーズを繰り返すカウンターです。チョーキングを用いて一方の弦をもう一方の弦と同じ音程にずり上げる奏法で、アンサンブルに強烈なうねりを描きこみます。私の大好物のギター奏法です。
ボーカルフェイクをひとしきり回した頃に、4本目のエレキギターが入ってきて単音のソロプレイです。2コーラス目のあとの間奏でこういうプレイがあっても自然なものですが、このときのためにとっておいたかのようでもあります。ずっと聴いていたいですが演奏時間はここですでに5分半ば。夢のような時間はほどほどでフェードアウト。
エンディングで音量が引き潮になっていくと高音域にシンセストリングスのようなパートが目立ちます。いたんだ! と思いました。曲の盛り上がりをずっと陰で支えていたのかもしれません。
COMPLETE LIVE BEST “LIVING FOUR KICKS”
ゆったりしたエレキギターのクリーンでブライトなトーンのストローク。ボーカルがしっとりとイントロします。深く歪んだエレキギターが開幕をつげます。サスティン・コシのつよいサウンドです。1本の演奏ですが幅の広い定位にまたがったワイドな音像にきこえます。ドラムスはタムやシンバルが左右に降ってありますね。スネアの音が引き締まっていてすらっと残響する。とてもイケメンな音です。間奏のベースのフレージング、ポジションどりがかっこいい。エンディングはボーカルフェイク、エレキギターの単音ソロ、またボーカルフェイク……Ⅴの和音を伸ばしたのちラストはⅠ→Ⅳ→Ⅴを数度くりかえして主和音でフィニッシュ。オリジナル音源ではフェイドしてしまうのでライブのみで味わえるフィニッシュです。歓声があがります。 ライブ音源後に「どうだった?コレクターズのライブはまだまだつづくよ!」みたいな英語のナレーションがくっついていますね。
歌詞
“そっと口づけかわして 折れるほど抱きしめて 何度でも君に触れて いつまでも夢を見て 秘密にあふれてくこの恋に 二人おぼれてく 誰も知らない 誰も知らない”(THE COLLECTORS『世界を止めて』より、作詞:加藤ひさし)
音楽の緩急に富む曲に、肌のふれあいの緩急を感じさせる作詞です。秘めごとなのですかね。隠れてする恋、盛り上がりそうです。秘密の共有それ自体が、恋を加速させる。そういうことってあるのかもね。
“鼻でキスして笑って ツメでほほそっとなでて 白い胸 顔をうずめて いつまでも君を見て どうにもならないよこの恋が 君をさらってく だからひととき ほんのひととき そうさひととき ほんの少し”(THE COLLECTORS『世界を止めて』より、作詞:加藤ひさし)
引き続き、スキンシップ。肌同士のたわむれが軽妙なロマンスを描きます。大人チックですね。恋を「わかってる」者同士って感じです。洋モノのドラマみたい。“ひととき”を連呼するあたりに、主題の“世界を止めて”への導入を感じます。
“神様 時間止めて このままキスさせて ずっと ずっと 神様 世界止めて 明日を遠くして ずっと ずっと”(THE COLLECTORS『世界を止めて』より、作詞:加藤ひさし)
肌のふれあい。その濃淡。2人の時間。そこにずっといられればいいのに。願いの思念の純度でできたサビの歌詞です。夢中の時間は儚く刹那。またたく間に別の時間:「明日」が訪れます。もっと遠ければいい。ここから2人で、それを眺めているくらいが気持ちいい。明日が来る。来てしまう。だからこそ2人の時間が甘美なのです。明日は近づいて来てしまう。どうしてもです。だからこそ、明日を遠ざけてほしい。時間を、世界を止めてほしいという願いが成立するのです。かなってしまったら、儚く消えてしまうもの。それもまた、願いのさだめ。
感想など
DメージャーからいくつもクロマチックをとばしてFに飛躍してしまう転調がアクロバット! 加藤ひさしのボーカルの魅力、堪能。シンプルな4人バンドサウンド、堪能の名曲です。
ザ・コレクターズ、名前だけ聞き及んでいたのになかなかちゃんと触れないままでいてしまって、あるときふと聴いたらなんてカッコイイんだろう! と思い、それまで聴いてこなかったことを悔いもしました。でも、それもまた感動を劇的にするのを手伝っただろうからさだめかなと……。とにかくこのロック名曲を知れてよかった。このブログで書きたいな〜と思ってから、少し寝かせて、今回やっと取り上げることができました(私のウダウダよ)。
感想をいえば、もうとにかくかっこいい。この曲を、ザ・コレクターズのパフォーマンスを鑑賞すると、アタマの中が「カッコイイ」でいっぱいになります。カッコイイ=ザ・コレクターズ。ザ・コレクターズ=カッコイイ。延々とこのループです。
歌詞がシンプルに甘美な恋をうたっているのもいい。ロック名曲って、「お前らに未来はねぇ!」とか「愛してる!」とか、けっこうひとことで主題を純度高くシンプルに伝えているだけのものが多いように思います。ファッションにしても音の構築にしても演奏スタイルや機材なんかにしても、ザ・コレクターズの志向にそうしたシンプルなロックレジェンドの脈があるような気がして、この名曲『世界を止めて』はそれが最高の形で出ているんじゃないかと思います。ライブ映像でみられる(聴衆に)「歌って歌って!」「意外と知っているじゃねぇか」のシーンが象徴するように、音楽ファンのあいだでもこの曲が定着し受け入れられている。ひとまず私も彼ら(音楽ファン)と一緒に『世界を止めて』いいよね!! って言い合えそうです。
青沼詩郎
『世界を止めて』を収録したTHE COLLECTORSのアルバム『UFO CLUV』(通常盤、1993)
『世界を止めて』を収録したTHE COLLECTORSのアルバム『UFO CLUV』(1993⇨再発盤2004)
『世界を止めて』(ライブ)を収録したTHE COLLECTORSのライブ選『COMPLETE LIVE BEST “LIVING FOUR KICKS”』(1998)
ご笑覧ください 拙演