映像
赤橙 MV
タイトルの通り「赤橙」を思わせる空のカットからはじまります。木材の大ぶりなモザイク壁のスタジオ。加工を効かせた画面。平面を思わせておいて……サビで数多の直方体が立体的に動くシーン。2コーラス目で屋外、樹林の中のようなカットが透かし(クロス)で入ります。2サビはスタジオの様子のまま。正面にドラムス、向かって右にギターボーカル、左にベース。オオキノブオはリッケンバッカーのギターですね。
「赤橙」を思わせる空が透かされます。間奏後の静かなメロでは青空、直方体のカットが透かされます。最後のサビ、エンディングにさしかかる頃、雲が流れる空。一瞬透かされる直方体のカット。終始、黒の縦線〜帯状のノイズが入り、古いフィルムを思わせます。回顧の表現でしょうか。ラストは直方体が動く中で演奏するメンバーの画。そう、冒頭で木材の大ぶりなモザイクだと思った壁材が、動く直方体だったのですね。
赤橙(Acoustic)
コンクリートがはだけた屋内。広い倉庫のよう。なんにもありません。窓が大きく、細い柱がたよりなさげ。黒い帽子(除くベーシスト)、黒の上下で揃えたメンバー。アコースティックギター、アコースティックベース、バスドラム、コンガ、ウィンドチャイム、ハイハットなどがみえます。ベースはボディの細い変わった楽器ですね。2コーラス目はメンバーが廊下のような場所で佇むカットや屋外風のカットも。サビでは天井が吹き抜けている建物だったとわかります。また建物の外の様子も明かされます。ツタがからんだ、古い建築のように見えます。メンバーも外へ配置。草に膝下を埋もれさせた3人です。屋内のシーンに戻って吹き抜けを映しつつフィニッシュ。
曲について
ACIDMANのシングル(インディー:2000年、メジャー:2002年)、アルバム『創』(2002)に収録。作詞:オオキノブオ、作曲:ACIDMAN。インディ・メジャー両方でシングル化された曲。インディ盤からメジャー盤になるとき曲に変化があったようで、作曲者のクレジットがウラヤマイチゴ(ACIDMANドラマー)からACIDMAN名義になったようです。Acousticバージョンも発表するほどですし、メンバーらも重要と位置付けている1曲なのかもしれません。
『赤橙』を聴く
ギター。クリーン〜クランチのドライなストローク。メジャーセブンスのコードがけだるい雰囲気を醸します。2小節パターンで移勢しまくりのスロトークです。Aメロ折り返し時に半音下からしゃくる装飾づけ。ときおりアルペジオも。Bメロでトーンをブースト。カラリとした歪みです。ディストーションでしょうか。サビで右のほうにアナザーギターのストロークが入って音の厚みを増します。右のアナザーギターは発音点がちょっと後ろにいる感じで左もしくは真ん中のファーストギターのフォローである関係を感じます。
1サビが終わったあとギターストロークが裸になるところではちょっとフェイズがかったような「ヒュー」という感じの波形のウラ鳴りのようなものが聴こえます。たとえていうならマイクにかぶったヘッドフォンの音漏れがハウりそうな感じの音です。間奏後の静かなAメロではディレイでしょうか、クリーンなギターが左から先に聴こえて遅れて右から音が立ち上がります。シンプルなリズムストロークプレイ中心に思えますが音のつくり込みが意外と細かい。聴き飽きない一因かもしれません。
ドラムス。タスッタスッと小気味良いスネアの音です。高低のタム・シンバルで定位を左右に振っています。移勢のギターストローク・ベースストロークとキックを合わせています。Bメロでタムを交えたパターンで変化を演出。サビではキック4つ打ち。バンドのサウンドで表現するダンスビートです。2・4拍目でスネアとキックが同時に鳴るところで推進力が出ます。ヒットのタイミングのジャスト感が気持ち良い。ファーストギターの前につっこみ気味なタイム感とバランスがとれています。エンディングのボーカルフェイク「ララルラ……」のところでは強拍にスネア4つ、キックがウラ拍にシフト。8分音符で「3・3・2」のまとまりのアクセントのパターンも見せます。
ベース。まとまりがよくドライで、まろやかかつはっきりしたトーンがドラムスのトーンと良く合っています。発音のニュアンス、音の立ち上がり方・リリースの速さがイケメンです。ドラムスのキック、ギターストロークと合わせた移勢リズムパターンなのは前に述べた通り。Bメロでやや高いポジションまで上行する音形。サビでは8つ打ちの連打。間奏後のAメロでも高いポジションの8つ打ちでリズムキープ。
ボーカル。影のある声のキャラクターが曲想に奥行きを醸します。語数の多い歌詞で、コンパクトな音価においても細やかに揺らぐビブラートを感じる歌唱です。揺れ方が強力で独特。島倉千代子のちりめんビブラートを思い出します。
サビでボーカルの下ハモが現れます。ブーストしたギターのトーンと一体となって音の壁があらわれる印象。スリーピースの自然な編成を保ったままサウンドに幅を与えています。素敵。
『赤橙(Acoustic)』を聴く
ギター。ブライトでメロウな音。ナイロン弦でしょうか。左寄りで右に向かって残響が抜ける感じです。サビで8小節に1度の頻度で2拍3連のストロークを見せていてオシャレです。
パーカッション。コンガ中心。1拍目にキック。しゃらんと要所でウィンドチャイム。2・4拍目でハイハットのペダルストローク。サビで左にトライアングルが現れます。右にシェーカーのようなカバサのようなサシャ……サシャ……という2・4拍目ウラオモテのビートも現れます。
ベース。Bメロで大胆に休符。いいですね。ハッとさせられます。ぐもぐもっとした空気がまじったようなアコースティックな音です。ソリッドとは反対の性格といいますか。映像では小ぶりで省ボディのアコースティックベースのようなものを用いていましたが、録音もあの楽器を用いたのでしょうか。
ボーカル。アコースティックバージョンに合わせて絹のようななまめかしい柔和さを帯びた歌唱です。
歌詞
“眠りの浅い朝の回路 埃にまみれてるカイト フワフワの音が眠ってる そこはかとなく日々は続き 左利きの犬がまさに 片足引きずり笑ってる”(『赤橙』より、作詞:オオキノブオ)
「回路」は理系っぽいですね。「カイト」の押韻。空に浮かび漂うカイト(凧)からの連想が「フワフワ」でしょうか。「左利きの犬」が独特の雰囲気をもたらしています。犬にも利き手(利き脚?)があるのでしょうか。擬人化しているような感じもします。「片足引きずり笑ってる」が不気味です。片足を引きずる状況とはあまり歓迎しえない不遇に思えますが、それでも「笑ってる」のです。不敵な感じがします。
“赤い煉瓦をそっと積み上げて 遠き日の魔法をかけてみる 丸い地球の裏側なら これで行ける そして少年は一握りの オレンジ色の砂を蒔いた 黄金色に輝く音を いつか奏でよう”(『赤橙』より、作詞:オオキノブオ)
煉瓦の赤、少年が蒔いた砂のオレンジ色、輝く音の黄金色。「赤橙」という主題周辺を思わせる表現がサビにはたくさん含まれているとわかります。「遠き日の魔法」とはどんなものか。地球は丸く、裏側までつながっています。回顧する記憶も、現在とひと続きで一体のものであることを自覚させる歌詞です。「日」はぐるぐると巡る。こちら側にいないときでも、どこか別の側面を照らしているのです。現在からみれば「遠き日」かもしれません。現在もまた、遠き日から見れば同様に「遠き日」です。
少年がオレンジ色の砂を蒔いたという表現が独創的です。オレンジ色の砂は、すがたかたちを変えて「赤い煉瓦」になるのかもしれないと想像します。音が「黄金色に輝く」。音そのものには色や光があるわけではありませんが、確かに音には色や光のイメージがともないます。「共感覚」といって、ほんとうに感じてしまう人もいます。特別なことではなく、誰しも大なり小なり持っている感覚だと思います。音の波長を光や色の波長に置き換えることだってきっとできるのです。そういう「理科」っぽい作風をACIDMAN作品、ことに『赤橙』は持っていますね。理科というと限定的なイメージを抱くかもしれませんが、ものごとの「理(ことわり)」であり、分野を横断する真理です。
後記
高校生くらいのときバンドでコピーした思い出のある曲でした(私はそのときドラムスを担当)。あらためて原曲をよく聴くとギターの音づくりが多彩でした。アコースティック版を聴いたのは今回がはじめて。わくわくして再生しました。2011年に出ていたのですね。耳ざわりがすこぶるよく歌詞がなめらかに入ってきて気持ち良かったです。リピートして聴きました。アレンジをはだかんぼにしても(引き算を追求しても)魅力ある曲が私の理想のひとつです。『赤橙』はまさにそれ。
青沼詩郎
『赤橙』を収録したACIDMANのアルバム『創』(2002)
『赤橙(Acoustic)』を収録したACIDMANのアルバム『Second line & Acoustic collection』(2011)
ご笑覧ください 拙演