公式チャンネル:奥田民生(RAMEN CURRY MUSIC RECORDS)、『奥田民生 – The STANDARD I Live at 神戸国際会館 こくさいホール(兵庫)』より。

ジンジン歪んだエレクトリックギターのダウンストロークのイントロ。キーボードがフルート系のメロトロンのようなサウンドをやはりダウンビートで奏でます。Aメロ折り返しでズーンとベースが入ってきます。サビでドラムスがスパタコンとヌケヌケのドンシャリかつ高解像サウンドで入ってきます。

2コーラス目のメロはキーボディストがハモリボーカル。オルガンをコアーっと鳴らします。音の揺れ方の疎密を演奏しながら変えているみたいですね。ニュアンスに富みます。間奏は緩慢な渋いソロをリズムストロークの手を止めて奥田民生自身が演奏。チョーキングとハンドビブラートでゆるやかに音程を揺らします。ギターボーカル・ベース・ドラムス・キーボードのきっかり4編成のようです。これがMTRY(M=湊雅史、T=奥田民生、R=小原礼、Y=斎藤有太)でしょうか。アロハ(ゾウ柄でインドっぽいですね)シャツに薄い色の入ったグラス、パーマヘアの奥田民生。赤いSGギター?を携えています。気味良い「ぁりがとうっ!」でエンディング。

曲について

奥田民生のシングル(2001)、アルバム『E』(2002)に収録。「バラードをつくる」という意図があって作った曲のようです。作詞:奥田民生、作曲:奥田民生、アンディ・スターマー(Andy Sturmer)。作曲者に名前を連ねる彼らのすみわけや共作のしかたの詳細がどのようなものだったのか気になりますね。

奥田民生『The STANDARD』を聴く

https://music.apple.com/jp/music-video/the-standard/1538629676

(Apple MusicでMVが視聴できました)

アコースティックギターのストロークでフェードイン。曲中を通してストロークを鳴らす主役です。サビではアコギをダブっているでしょうか。高音弦側からのアップストロークでサビのアタマを華やかに彩っています。左右からきこえますね。サビで音の数がウワァっとマックスになる感じはこうしたアコギのダブりによるものか。

間奏で熱量を抑えた渋いギターソロです。深い響きのトレモロサウンドのギター。サビにもいるでしょうか。ボーカルに合いの手しています。ほかにもコードチェンジのところでジャランと置く感じの緩慢なストロークをアコギほかエレキでもダブっているか? なんともいえませんがとにかく厚みがあるサウンドです。

フルート系のキーボードの音は元祖サンプリング楽器、弾いた鍵盤に対応したアナログテープの音を再生する「メロトロン」風のローファイな音です。オルガンの音もいますね。静謐な曲の色付けに重要な役割を担っているのが鍵盤諸トーン。

ドラムスはパワフル。共同プロデュースのアンディ・スターマーの演奏らしいです。サビ前で入ってくるフィルインのタムやスネアの臨場感がすごい。Aメロは1・3拍目のキックに2・4拍目のスネア、非常にシンプルなパターンです。サビでキックの数が少し増えるパターン。

ベース。1和音1ストロークで支えるAメロ。サビは1・3拍目を強調・16分音符をウラに引っ掛けてノリを出すパターンです。シンプル。

オープニング付近から右側に軽いタンバリンのチャリチャリという音と鼓面のトコトコいう乾いた音がきこえます。枠と鳴り物だけでなく打面のあるタンバリンなのかもしれません。……と思っていたらサビで左側からもきらびやかなタンバリンが聴こえ出します。トレモロも交えて器用に巧みに演出しています。左右のツインタンバリンはあんまり聴いたことのない布陣です。タンバリンガ表情豊かで表現力を秘めた魅力的な楽器であることを教えてくれます。

ボーカルのダブり、ハーモニーボーカルがサビや2Aメロからすでに歌を厚みあるものにしています。オルガンのサスティン音とキャラがすこしかぶりますが、サビで「Ahh…」とコーラスのロングトーンが神々しい。低域をオトしてオフマイク気味で録ったような感じの、主役を立てる透き通った奥行きです。

ライブ音源 OKUDA TAMIO LIVE SONGS OF THE YEARSより

降り注ぐようなエレアコのダウンストローク。奥にフルート系のキーボード。ボーカルハモリがいます。ドラムスがフィルイン。ハネたグルーヴです。左のほうでオルガンがサビを盛り上げます。2メロで右にオブリガードのエレキギター。シェーカー、タンバリンも入っているでしょうか。パーカッショニストがいるのかもしれません。ベースがいいところでハイポジの重音のフィルインをキメていてかっこいい。まっすぐに出た奥田民生ボーカルは不動の無敵です。

ライブ音源 奥田民生 生誕50周年伝説”となりのベートーベン”より

オルタネイトで変化をつけたゆったりとしたエレアコのストローク。ゲストの岸田繁ボーカルです。岸田さんの曲のような気さえする違和感なさ。Ⅴmコードがくるりっぽいんですよね。1サビ“知らないと”の乗せ方に違いがあります。2メロでハモリが入ってきます。奥田民生が上でハモでしょうか。2サビのギリギリのボーカルがたまりません。奥田民生は平然と歌唱しますがこの曲は本当に普通じゃない。ムチャクチャな音域でロングトーンするんです。クリーン〜クランチサウンドの間奏のギターソロが静謐。3サビに耐えたシャウトに拍手。

歌詞

“あなたを想うと どれほど苦しいと 言えるまでの 愛じゃないと”
“あなたがいないと 死ぬほど寂しいと 言えるまでの 愛じゃないと”
(『The STANDARD』より、作詞:奥田民生)

死ぬほど苦しいと言えるまでの愛……“じゃない”んですか?! とつっこみたくなったのは私の高校時代の友達。「言えるまでの愛」だって言っとけよ……とこぼしていました。

奥田民生らしい平熱感です。メロの“もうそれはそれとして”も、いい意味で言葉への頓着のなさが感じられます。その脱力が気持ち良い。歌の言葉として“もうそれはそれとして”なんて、聴いたことないですよね。こんな言葉を用いてバラードを成立させるなんてアクロバットです。

感想、後記など

The STANDARDというのはレコーディング時に奥田民生が宿泊したホテルの名前で、看板の文字は天地逆転した表記だったそう。だから曲のタイトルも本当は上下逆さま表記なんだとか。彼の『イージュー★ライダー』という曲も本当は「ュ」の文字が丸囲み表記だそうで、見た目の変則を含んだタイトルはいくつか例があるようです。

『The STANDARD』は真似て歌いたくなる素敵な曲なのですが、音を長く伸ばしながら徐々に最高音程を上げていってクライマックスでA♭に到達するロングトーンを含む難曲。これを最高にパワフルな声で歌い上げます。

ⅤmやⅠM7、ⅡmM7など、翳りのある響き・濁ったもどかしい響きのコードを用いているのも、緩慢なリズムのメロディを引き締める音楽のスパイスです。歌詞のテキスト量も少ない。それでいて強烈な個性を備えているのが驚異です。奥田民生のような無敵な声には本当に憧れます。

青沼詩郎

奥田民生 公式サイトへのリンク

Wikipedia > The STANDARD

『The STANDARD』を収録した奥田民生のアルバム『E』(2001)

『The STANDARD (LIVE SONGS OF THE YEARS Ver.)』を収録した奥田民生の『OKUDA TAMIO LIVE SONGS OF THE YEARS』(2003)

『The STANDARD feat.岸田繁(くるり)』を収録した『奥田民生 生誕50周年伝説”となりのベートーベン”』(2016)(BD/DVD)

『The STANDARD feat.岸田繁(くるり)』を収録した『奥田民生 生誕50周年伝説”となりのベートーベン”』(2016)(CD)

ご笑覧ください 拙演