高速道路を歌のテーマにした私の好きなミュージシャン
先日「鬼滅」の映画を観に行ったとき、上映前にアニメ映画の『ジョゼと虎と魚たち』の予告CMを観た。
私の中で「ジョゼ」といえば犬童一心監督の実写映画がまず思い浮かぶ。主題歌はくるりの『ハイウェイ』。
小山田壮平が2020年の夏に出したソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』の1曲目は『HIGH WAY』。小山田壮平の歌やことばや挙動はいつも私の心を揺さぶる。
そこから、高速道路だとかハイウェイだとかいう言葉、その概念自体が私の関心の的でもある。
フラワーカンパニーズ『深夜高速』
高速道路とは。どこかへ行くために利用する道。シタミチよりは早く目的地に着きたいときに選ぶ交通手段。目的が行き先にあるときに利用するのが、「高速道路」ではないか。色んな人たちの目的の交差点なのだ。
フラワーカンパニーズ『深夜高速』では“目的地はないんだ”と歌われる。(作詞・作曲:鈴木圭介)
先にも述べたけれど、高速道路は多くの場合、目的地があって、なるべく計画した通りに円滑にそこへ至るために利用する道ではないか。
目的は音楽
私は歌ったり演奏したり曲をつくったり歌詞を書いたりする。それは手段じゃなくて目的だ。それ自体をしたい。だから、正直、そういう音楽活動で何がしたいの? と問われると私は答えに詰まる。極端にいえば、音楽でしたいことなんて無い。音楽がしたいからだ。地球も救えない。世界を平和にも出来ない。人類の文明と芸術の高みを歴史に刻み込めもしない……私のビジョンのみみっちさをあけすけに受け入れていってしまえば、音楽は私の人生であると同時に、残酷なものだ。100年に1〜2度くらい、大衆を説き伏せるくらいの圧倒的な偉業をなし得る人も出るかも分からないけど。
フラワーカンパニーズ、作曲者でバンドのボーカリストの鈴木圭介がどう思っているか、『深夜高速』をどうとらえているかも私は知らない。ただ、私はこの曲を聴いて音楽について思った。想像した。感情を揺り動かす。内省のスイッチを入れる曲。
夜中は電車も動いていない。ただの高速じゃなく、「深夜高速」だというところがまたいい。
空虚な5度の平行線
冷静になって1歩下がってこの曲を味わって聴いたところで気付いたことがある。
サビのとき、コードチェンジのアタマでほとんどいつも、ベースとボーカルの音程の関係が完全5度。
完全5度は非常によく調和する。それでいて、空虚。美しい平行線。
3度の和声音程の関係もよく調和するのだけれど、長3度か短3度かによって、響きに強いキャラクターを与えてしまう。
それがない完全5度は、パワーコードと呼ばれロックによく使われもする。
その音程の関係を、ボーカルメロディとベース(低音)の間であらわしている。ロック好きがこの曲に心から酔うそのわけを、私は見た気がした。
ちなみにメロの部分では3度の関係が多く見られる。サビの5度の空虚さとの対比が、お互いを際立たせている。
青沼詩郎
フラワーカンパニーズ 公式サイトへのリンク
フラカン公式サイト内「BIOGRAPHY」でメンバーが答えている設問。面白かったのであなたもやってみてはいかがか。メンバーの回答は公式サイトでどうぞ。
憧れの人(心の師匠)(①)
密かな野望(②)
これだけは他の人に負けない!俺自慢(③)
思い出すようにしてる言葉(それはどんな時?)(④)
なくなったら困るもの(⑤)
今更聞きづらいメンバーへの質問(⑥)
(私なら…①岸田繁②私有スタジオを持つ③コーヒーをおいしそうに淹れる④思い出せない…他人は自分の鏡、とか?⑤歌える場所と時間と命⑥バンドなの?ソロなの?)
『深夜高速』を収録したフラワーカンパニーズのアルバム『世田谷夜明け前』(2004)
ご笑覧ください 拙カバー
青沼詩郎Facebookより
“大宮エリーが司会する音楽バラエティ番組を何年も前に見た。そのときにフラワーカンパニーズが出演して、トークして、『深夜高速』を演奏した。フラワーカンパニーズのことは知っていたし『深夜高速』も知っていたけれど、番組をきっかけにより知れてより好きになったことは間違いない。
最近「高速道路」を意識することがたまたまあって、この曲を思い出した。久しぶりに聴いたら過去最高にエモかった。自分は涙もろくなったと思う。どんなものにでも何かしらの経験や感情が紐づくから人は涙もろくなるのだと思う。『深夜高速』の歌詞にも年をとることや若さについて触れた部分がある。バンドマンとしての自覚がわずかでもある者ならこの曲を前にしたら正座してしんしんと浴びるように聴く気持ちになるのではないか。
久しぶりに聴いてふと気づいた。サビが、コードチェンジのタイミングでかなりキレイに、ベースと歌メロの関係が完全5度。この空虚な平行線がエモさの秘密だと気づいた。「パワーコード」(第3音省略)をベースと歌でも実践していることになる。これ以上ないロックな響きの理由。数年前の私は気づかなかったことだ。この発見にうれしくなったし、曲をより好きになった。理由があるから、自信を持って泣くといい。もちろん泣かんでもいい。理由なんてあとづけだ。それを知っただけでもいいし、別に知らんでもいい。ただ、年を食うと知ってしまうことは多い。私の内省スイッチを入れてしまう名曲。”
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