益荒男さん』『大阪万博』と今月、立て続けに新曲を出したくるり。12月25日にはシングル『コトコトことでん / 赤い電車 (ver. 追憶の赤い電車)』を発売。

赤い電車

『赤い電車』は2005年にシングルが発売されている。アルバム『NIKKI』にも収録。

くるりが京浜急行とのタイアップを快諾して作った曲だという。当時、テレビCMも放送された。

今月、京急久里浜線に乗る機会がたまたまあった
車窓から

私と母の会話の種

2005年当時、私はすでにくるりのファンだった。くるりの活躍の輝きは方々に届いていたけれど、このタイアップがあったおかげで私は自分の母親にまで自分の好きなバンドを紹介しやすくなった。「このCMの歌つくって歌ってるバンド」と言える。

実際に私がそうしたかどうかは忘れた。自分からそういう話をすることもない。訊かれたら照れくさそうに平静を装って答える。そういう親子関係が私と母親(私は何を告白しているのだろう)。

くるりは私と母親の間の照れくささというハードルを越えさせるのだ。『赤い電車』以降も、「シゲイチ岸田繁 交響曲第一番)」のこととか、私と母親のあいだではくるりや岸田繁氏に関わる会話がたまにある。「シゲイチ」を振ったのは他でもない広上淳一氏で、広上氏は私が親の出資で通った東京音楽大学の先生なのだ。合唱の授業の一環で、私は広上氏の指揮のもとプロコフィエフ(『アレクサンドル・ネフスキー』)を歌った(合唱に参加した)ことがある。

『赤い電車』の愛嬌、親しみやすさの理由

曲(『赤い電車』)はピュンピュンいって可愛いのだ。プログラミングの音が前面に出ている。これより前に出したアルバム『アンテナ』(2004年)ではドラマーのクリストファー・マグワイアがいて、バッチバチのバンドサウンドが聴ける。だから、この曲(『赤い電車』)との落差が際立って斬新に感じられた。

曲の「可愛いさ」を前段落で訴えたけれど、理由はプログラムのピュンピュン音や打ち込みのリズムが出す落ち着きや安定感だけじゃない。歌いやすさがあると思う。

歌メロディが親しみやすい。理由は順次進行を用いていること、跳躍はほぼ和声音(そのときのコードに含まれる音)どうしの間でなされていることがあるのではないか。声域も、大事な部分はほとんど下のド〜9度上のレに収まっている。1オクターブちょっと出せればほとんど歌えるのだ。キーはFメージャー。

♪ファソラシドレミファソー

例外は♪ファソラシドレミファソーのところ。ここだけ歌が高い音域まで抜ける。9度に渡る順次進行を柔らかい声で歌っていて心地よい。これは実際に京浜急行の電車が発進するときに認めることのできる、電車の機構が発する音(。「ドレミファインバータ」と鉄道ファンの間で親しまれている装置だ。

この音がする車両は減っているらしい。現在、確認するのは当時より難しいかもしれない。)

この電車が発する音が音楽的にちゃんと音階になっているのは、メーカー(シーメンス?)がそのように(意図的に)調整しているからだという。

これが私には「ファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レ・ミ♭・ファ・ソ」に聴こえる。B♭メージャースケールを第5音から始めて、上の第6音まで上行した音階。

これをくるりは『赤い電車』にサンプリング(採取)して、間奏に用いている。速さを調節(?)したり、逆再生で下行音形にしたりしている。

曲がFメージャーなのに対し、ドレミファインバータが発する音階音は「ミ」がフラットして(半音下がって)いる

「ファ」をフレーズの始点にしているから、これはFを第1音にしたミクソリディアンスケール(※)かもしれない。メーカー(シーメンス社?)も、B♭メージャースケールじゃなくてFミクソリディアンスケールを意図してチューンしたのかな??

ソ旋法。第7音が半音下がるのが特徴。Cミクソリディアンスケールなら「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭」となる。)

ちなみにくるり『赤い電車』の歌メロの中では「ミ」はナチュラル。あくまでFメージャースケールで歌われている。ここをミクソリディアンにしてしまったら、メージャーの調性の美しさの均衡が害されるだろう。その判断に至る作曲の思考に私は想像をめぐらせた。(ドレミファインバータの奏でる「ミ」がフラットして感じるのが私の幻聴だとしたら、全部勘違いだけれど。)

ちなみに「ドレミファインバータ」という愛称は、電車の機構が発する息吹をFのスケールと判断したうえで「移動ド」式で呼んでいることになる。「固定ド」式で呼ぶなら「ファソラシ(♭)インバータ」だ。あるいはB♭メージャースケールでフレーズの始点が第5音と判断するなら、「移動ド」「固定ド」どちらの方式に従っても「ファソラシ(固定ならシ♭)インバータ」である。

青沼詩郎

くるり 公式サイトへのリンク

http://www.quruli.net/

くるりのシングル『コトコトことでん / 赤い電車 (ver. 追憶の赤い電車) 』(2020年12月25日発売)
くるりのシングル『赤い電車』(2005年)
『赤い電車』を収録したくるりのアルバム『NIKKI』(2005年)

ご笑覧ください 拙カバー

青沼詩郎Facebookより
“くるりのシングル『コトコトことでん / 赤い電車 (ver. 追憶の赤い電車)』が12月25日に発売。『コトコトことでん』には、畳野彩加(9月に配信された京都音楽博覧会で岸田繁楽団と共演、自らのレパートリー『白い光の朝に』と荒井由美『ひこうき雲』を歌った)が参加。
片面の『赤い電車』は2005年のシングル、アルバム『NIKKI』にも収録された曲。どこからどう見てもタイアップとわかるかたちで、電車愛と音楽で応えたくるり。2005年当時、我がことのように私は心おどった。プログラミングの音が前面に出ている点でも、新しいくるりサウンドだった。おまけに実際の電車の息吹を曲に取り入れてしまうなんて、シンバルで連結器の音を交響曲に表現してしまったドヴォルザークかよと感服。このラブソング(意味が変?)の新バージョンがどんなか、『コトコトことでん』とともに楽しみ。”

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