みずみずしくて良いボーカルですね。最後の歌詞“長い旅につくの”の切れ際のニュアンスが素晴らしいです。
アコースティックな質感にまとまったアレンジが歌を引き立てます。アコギがメインの弾き語りシンガーソングラーター然とした印象を保ちつつ、種々の楽器パートが妙。ドラムスはかなり右に振っていますね。アコースティックギターのストラミングが左に振ってあり対をなしてリズムのベーシックをなしている感じです。
エレクトリックピアノなのか、グロッケンかチャイムみたいにも感じる金属質なまるい感じの音色。短2度で装飾をつけて意図的に濁したオブリガードが基本リズムに溶け込みます。でかめのオルゴールをでかめのホールにつっこんで残響を収録したみたいな奥まった音像が明瞭なボーカルと対になっていて好感です。間奏の音の切り方が小気味よいオルガンがアコースティックなアレンジのなかでサスティンとリズムを豊かにします。
“ポテトチップとコーラを片手に 丘へのぼれば海の青さが目にしみる いま胸の港から大きく帆をひいて 風に誘われ 愛を求めて 長い旅につくの”(『知らない町で』より聴取、作詞:田熊早苗)
俗っぽい生活を思わせる小物遣い(“ポテトチップとコーラ”)と眺望・景観の壮麗さ(“丘へのぼれば海の青さが目にしみる”)の対比が巧いなと思って、ソングライターセンスを感じていました。「帆をひく」という表現はこの歌で初めて出会いました。「帆引き船」にあやかった表現でしょうか。さわやかさと志・向上心を感じさせます。
アルバムの中にこういうコンパクトなのだけど生活感や情景の豊かさを映した小粋な曲をポンと入れるのはほんとうにセンスが良いですし、楽曲をおのれのものにして表現する歌唱が素晴らしく、てっきり高木麻早さんの作風と受け取ったのですが、作詞・作曲者は田熊早苗さん。じゅん&ネネが原曲でした。
YouTube>昭和歌謡ザ☆ナウ>じゅん&ネネ(Jun to Nene)/知らない町で(Shiranai Machi de “In A Town I Don’t Know”)へのリンク
豪華で勇ましいアレンジでかなり、いえ、まったく印象が違います。二人組ボーカルであるのを映したユニゾンや歌詞ハモ、オブリガードがエネルギー高い響きです。情報量が多くリッチですね。ドラムスのパワフルな印象がアツイです。編曲は小谷充さん。作曲者の田熊早苗さんが“ネネ(Nene)”だそうです。
高木麻早さんも関わりのあるヤマハのポプコンまわりの歌手や作家の文脈を意識するきっかけをいただきました。
青沼
高木麻早のアルバム『高木麻早』(1973)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『知らない町で(じゅん&ネネの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)