石崎ひゅーい『シーベルト』
この曲と私が出会ったのは、代々木のライブハウスだった。あるオールナイトイベントにちょっと出演するのを兼ねて参加した。
そのとき、そのイベントの主宰者だった音楽関係者の人が、ちょうどその時期リリースしたてだった石崎ひゅーいのファーストアルバム『独立前夜』収録の『シーベルト』を一晩中リピートしてかけ流していた。
この曲が彼のいちおしだったのだろう。主宰の彼は私に、曲中のことばを借りて
『お前に※母ちゃんのほうれん草食いてぇなぁって言えんのか?』
(※“神様なんか信じないよ 美味しいもんいっぱい食べたいな 寿司くいてぇな 母ちゃんが作ったほうれん草のおひたしが食いてぇなああ”『シーベルト』より、作詞・作曲:石崎ひゅーい…という歌詞)
と絡まれた。彼は酔っぱらっていた。初対面だったし、なんかイラっとした。けど『シーベルト』は一晩中聴いてテンションぶち上げるのにおあつらえ向きで、何度聴いてもいい曲だった。あれから七年半くらい経っているはずだけど、今でも延々とリピートして聴くのに最高な曲だと思う。リリースされたてのアルバムの中からいち早く非シングル曲を推して一晩中かけまくったイベント主宰の彼の感性は確かだったと今でも思う。(その後、彼を含めたミュージシャン数人と一緒に私たちは朝まで一緒にライブハウス近隣の駐車場に車座して飲みながら話したり歌ったりした。騒ぎ立てるとかじゃなく、私たちは真面目に音楽の話を中心にした)
『シーベルト』を聴いた音楽面のメモ
イントロから鍵盤ハーモニカ。ピアノと鉄琴の音がユニゾンしてキラキラ。その流れで、歌詞 “あいつがハーモニカを吹いている どこかでハーモニカを吹いている”(『シーベルト』より、作詞・作曲:石崎ひゅーい)と歌い出す。内容とサウンドの演出のマッチングがばっちりだ。アレンジャーはTomi Yo。彼との協力関係が石崎ひゅーいの一部だと語る。そのようなことがわかるインタビューをいくつかここに。
https://okmusic.jp/news/180050
http://kansai.pia.co.jp/interview/music/2013-09/ishizakihuwie-dokuritsuzenya.html
アルバムにわたってストリングスも多用。石崎ひゅーいの強くやさしく繊細な歌、独特でパーソナルな視角を持ったことば、そうした際立つ個性を「ポップ」にする重要な役割を確かに編曲が大きく支えているのがひしひしとわかる。本当にいいアルバム。
10年後20年後もこれがはじまりだったと思い出せるようなタイトルにしたかったという思いが『独立前夜』という名前には込められているという。
シーベルトって
「シーベルト」は放射能の単位を示すことばでもある。リリースの2013年はアフター東日本大震災。
“ここにはもう住めませんから立ち入り禁止のまじラスベガスさ”(作詞:石崎ひゅーい)
という歌詞は、今鑑賞したらようやくぼんやりした私にも理解できる、なかなか直接迫った表現だと思う。
「シーベルト」は放射能の単位であると同時に、その名前は放射線研究の功労者の個人名に由来する。つまり、シーベルトさんという研究者がいたのだ。私は当初、なんとなく「シーベルトって偉人いたよな」と思っていて、その偉人をモチーフにした曲なのかなとか想像していた。シーベルトが放射能の単位を示す言葉でもあるという自覚が足りなかったのだ。
石崎ひゅーいはインタビューで「批判的な歌」ともいうし、それを、谷川俊太郎や星新一の名前をあげて「お茶目に書きたかった」ともいう。そうか、そういうことだったのかと私は思い直した。そんな理解は抜きにしても、いい曲なんだなぁ。2013年、ライブハウスでのオールナイトイベントの時以来、久しぶりに一晩延々とリピートして私はこれを聴いた。あの夜とは違って、自分の意志で。
青沼詩郎
『シーベルト』を収録した石崎ひゅーいのアルバム『独立前夜』(2013)
ご笑覧ください 拙カバー
青沼詩郎Facebookより
“石崎ひゅーいのアルバム『独立前夜』(2013)収録曲、『シーベルト』。
放射能の単位を示すそれ。
歌詞に
”ここにはもう住めませんから立ち入り禁止のまじラスベガスさ”(作詞:石崎ひゅーい)
とある。
「批判的な歌なんですけどお茶目に書きたいなと思った」(https://okmusic.jp/news/180050… より)
といい、星新一や谷川俊太郎を例に出して曲について本人が答えているインタビューがあった。
なるほど、そういうことだったんだ。ずっと気づかないでこの曲を聴いていた。
私は「確かシーベルトって名前の偉人いるよね? その人について書いた歌かな?」とか思っていた。
確かに放射線の単位につけられたその名前は、研究者のシーベルトから取られている。
この歌を知ったのは、当時(たぶん2013年の夏)あるライブハウスのオールナイトイベントにちょこっと出たとき、主宰の人がずっとリピートで一晩中流していたから。その人いちおしの曲だったのだろう。今聴いても同意。抜群な曲だと思う。”