作詞・作曲:奥田民生。奥田民生のシングル、アルバム『LION』(2004)に収録。

仙人の域を感じます。理想ですし、私の行きたいところを思わせます。羨ましい。けれど近づけない。そこには一人分の座るスペースしかありません。「(君もそうなりたいのなら、自分の座をつくるしかないね)」静寂の中から、幻の声が聴こえてきそうです。当の仙人は、そんなことひとことも発していない。それなのに、こちらが勝手にそんな声を音楽のなかに聴き取ってしまうのです。言わずして、伝える。これが仙人の域以外の何になるでしょうか。そこに踏み込む者の肌に、六感に訴えるのです。訴える、いえ、そんなこれ見よがしな自己主張ではありません。知覚させ、悟らせてしまうのです。

Ⅱm、Ⅴを繰り返してずっとふわふわする音楽。メロでもサビでも、小節のアタマを空けて弱起で歌い出すメロディが、達人のゆとりを感じさせるのかもしれません。奥田さんといえば「脱力ロック」(そんな形容もひどく足りないものですが)みたいなイメージを持たれる方はひょっとすると私以外にもいるのではないかと思うのですが、楽曲『スカイウォーカー』においては、ひょっとするにそうした具体的な意匠の細部が「余裕」「力の抜けた感じ」「急いでいない感じ」を醸すのかもしれません。

Ⅱm→Ⅴをふわふわ繰り返す。基本楽曲中、ずっとふわふわしている感じがします。それだけに、エンディングのトニックが異様なほどに映えます。「あ、おわった。。。」。ぽかんと口をあけて、見惚れ呆けている私。すら、すら……仙人は何かを墨で書いている。迷いがありません。……あ、おわった。いま、筆を止めたのです。書いたものをそのままに、彼は外へ行ってしまいました。そこには何が書いてあるのか? 覗いてみるに……(ご想像に一任)。

左右に、ちょっとだけ音域のポジションを分けたか分けてないか程度のギターをそれぞれ配置。右側のギターの方が歌いながら弾くストラミングギターの雰囲気がありますね。左のほうがセカンド・オブリ的なニュアンスを感じます。

真ん中でふわふわとボーカルが風通しよく漂う。ドラムとベースは太い。ひたすらに気持ちが良い。左右にギター。もう、これ以上に何が要ります?

間奏を埋めるエレキギターのモチーフは朴訥とした基本のサウンドと対照的に、厚塗り感があります。しっかりと決めて打つ、存在感ある上行フレーズ。多重録音している感じです。オクターブのユニゾンを別々のテイクで重ねて厚みを出している? 手法の細部までは分かりかねますが、多重録音もまた奥田さんの伝家の宝刀であることを私がお墨付きしておきます(私のお墨付きなんてものがみじんの効力も持たないであろうことを承知の上での無礼、お赦しください)。

メロとサビの熱量感にあまり振れ幅を出さないのが『スカイウォーカー』の作詞作曲の意匠の基本的な特徴に思えますが、サウンドでメリハリ、起伏をもたらしているのはバックグラウンドボーカルですね。清涼さと幅を添え、「ここぞコーラス」とリスナーに伝わります。

私個人のツボ的に高ポイントなのはタンバリン。シックスティーンの分割が出ています。ありふれた小物楽器にして、最も雄弁でニュアンスに富む私の好きな楽器のひとつです。

歌詞

“どっちだろう いいとこは しあわせなところは

ぱっと見の イメージでは どちらも似たよな

どんくらいの いい事が しあわせと呼べるんだ

ちょっぴりの ダメージで われてしまうよな”

(『スカイウォーカー』より、作詞:奥田民生)

しあわせとそうでないものの境目があいまいになったら……しあわせとそれ以外が融合したら……それは死かもしれません。平静と死は案外近いところにあるのを思わせます。

でも、感情を平坦に保つ生もあります。達人も仙人も、日々心に動きが、「感情がない」わけではないはずです。でも、仙人を、達人を外から観察して、「あ……!今、珍しく師匠が感動していらっしゃる!」と必ずしも分かるわけではなく、ぱっと見はひょうひょうとしていていつもと変わらないのに、その心の内側で激しい運動が起こり、渦巻く気象が起こっている……そんな、仙人や達人が被るレッテル、思い込みならぬ「思い込まれ」を想像すると、なんだか仙人や達人に対して愛嬌が湧いてきます。

“二人で歩いたら 頭はからっぽで

悩みは消えてしまったんだ

大きい空から 雲がむかえに来て

空飛んでる気分だったんだ”

(『スカイウォーカー』より、作詞:奥田民生)

なんだかドラゴンボール、西遊記、筋斗雲……的なモチーフと事例を思い出させます。岩のように悠久な時の流れを有して見える達人や仙人の心にも、遊びがある。むしろ遊びで豊潤に満たされているのを思わせると同時に、達人や仙人も、「やってくるもの」に影響され、左右される感傷的な生き物なのではないかと。完全に作品の外側の話ですが、奥田民生さんのお人柄としても、新しいものが好きだったりミーハーだったりするところがあるのかもしれないと思わせます。

“どっちでも いい事だ しあわせと呼ぼう”

(『スカイウォーカー』より、作詞:奥田民生)

間奏が明けてメロの流れの再現あるいは1コーラス目がまだ終わってなくてそれに尾鰭がついた流れであるような匂いを重ね合わせにしたまま、出ました、私の思う「奥田民生的な筆の運び」、Ⅳmの和音が来ます。1コーラス目にはなかった動きです。音楽は単純な繰り返しではなく、おなじことの再生・輪廻に思えても常にどこか変化し、同じものはひとつとない真理を思わせます。私の思う「(生)演奏」の至上の魅力です。

ここで歌詞も、先に引用しましたように「どっちでもいい事だ しあわせと呼ぼう」。仙人・達人の心のなかにもストーリーがある。これこれこういう理屈をたどって、そういう結論に至った……というステップ、段階、順序立てや文脈がある(あるいは、ない)のを思わせます。血が通い、代謝する生き物なのです。かの人も、どの人も。

青沼詩郎

参考Wikipedia>スカイウォーカー (奥田民生の曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>スカイウォーカー

奥田民生 公式サイトへのリンク

『スカイウォーカー』を収録した奥田民生のアルバム『LION』(2004)

『スカイウォーカー』を収録した奥田民生のベストアルバム『記念ライダー2号 ~オクダタミオシングルコレクション~』(2007)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『スカイウォーカー(奥田民生の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)