いついう?

想いというのは培われるものです。瞬間的に湧き上がる感情の存在も肯定しますが、もっと、長い期間に渡って醸成され、あるとき何かのきっかけにそれを本人が認知するということもあるでしょう。

それを認知したときに、その想いを対象に伝えたいと意思をもつとします。それが、たとえば卒業式という節目を間近に感じ始める時期というのはごく自然ななりゆきでしょう。あなたがその身だったら?

なぜ今さら想いを伝えるのか? という戸惑いが湧いたときに、おのれの躊躇を砕く言葉はたったひとつ。今いうべし。今さらでも伝えなかったら、もっともっと「今さら」の度合いが酷くなってしまうだけです。

もちろん、あなたがそれを言わないのにも理由があります。なんでもかんでもいっしょくたにして、無闇矢鱈に「伝える決断」の背中を押すのがあなたの友人の命題なのでもありません。あなたの想いの処遇を決めるのは、あなたであるのみなのです。

心の扉を閉ざす自尊心も、私は肯定していいと思います。

もちろん、それと同じくらい、心の扉を開け放ち行動する勇気も賞賛に値します。

キャンディーズ 卒業 曲の名義、発表について

作詞:ちあき哲也、作曲:井上忠夫、編曲:竜崎孝路。キャンディーズのアルバム『年下の男の子』(1975)に収録。

キャンディーズ 卒業を聴く

バーズの歌った高校サッカーソング『ふり向くな君は美しい』みたいな青春感を思い出します。なんとなく私の記憶の引き出し的に阿久悠さんっぽい楽曲像が浮かびますが作詞者はちあき哲也さん、作曲は井上忠夫さん。

ボーカルのまわりがすっきりしています。ドラムスがドツッドツッとコンプ感があるというのか、ダイナミクスがきっちりおさえられています。ベースが2拍目ウラをとるストロークで前に前にはこんでいきます。

ストリングスがさぁっと通り雨で路面を潤し、左のほうからパパパパーと金管楽器、右にはフルート族が顔をだします。タンバリンがチキっと光ったかと思えば、サビではシェーカーが情熱的な胸の内を映すようです。

各種の楽器の音が、時間的な棲み分けをわきまえており、ボーカルのまわりがいつもすっきりして感じるのです。キャンディーズメンバーの歌唱と、楽曲のさびしい感じ、情念、哀愁・悲哀感がよく伝わってきます。“卒業”はシングル曲っぽい大衆歌ど真ん中の普遍的な主題ですが、アルバムにぽんと入って気味のよいさらりとした後味に仕上がっています。

このまま想いを風に流して、花びらのように次の季節の土に還してしまうのかな……青春です。その後の人生の方が長いでしょう。

“あの日制服も 揺れていた帰り道 迷いながら口づけてして かまわなかったの 卒業式をさかいに二人離ればなれ 今頃 不自然 好きと言いだせば かるく憧れにとどめたらこんなこと 私一人めくり終えた 心のカレンダー”

(キャンディーズ『卒業』より、作詞:ちあき哲也)

読み筋が絞り切れない語末です。口づけを迷いつつもしてしまったけれど、それで良かった(かまわなかった)の? ということなのか、口づけを思い切ってやってしまっても許されたならそうしたかったけど、それができなかった、ということなのか。「かまわなかった」語末の「の」のゆくえが気になります。「かるく憧れにとどめたらこんなこと」の語末も言い切りを避けます。「こんなこと(は、なかった)」という省略だとは思いますが、余韻を逐一含ませます。青春の「青」はすっぱりしない中間色であるのを思わせます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>年下の男の子 (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>卒業

『卒業』を収録したキャンディーズのアルバム『年下の男の子』(1975)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『卒業(キャンディーズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)