まずは眠ること

藤子・F・不二雄生誕90周年の企画として、藤子・F・不二雄作品による数多のアニメソングを収めたコンピレーションが出ています。YUKAさんが歌った『お料理行進曲』『HAPPY BIRTHDAY』などを含み、非常に輝き感の強いサウンドが込められていてさらっと聞き流していても面白いコンピレーションアルバムになっていて配信でも聴けるのでぜひどうぞ。

そのなかに本曲CHICKSの『すいみん不足』も収録されています。「そうだ、この曲あった!」と思う私。

こうして取り上げておきながら実のところ、私はアニメ『キテレツ大百科』は同時代にテレビで視聴しそびれています。“キテレツ”アニメの主たる放送期間とされる1988〜1996年あたりは、1986生まれの私は2歳〜10歳くらい。おそらく私がテレビやエンターテイメント音楽に強い関心を抱くようになるのは10歳以降くらいだったと思うので、同時代の“キテレツ”の視聴層としては、わずかに数年ばかり後ろにずれているのかもしれません(あるいは私と同世代であっても未就学〜低学年でアニメ“キテレツ”に親しんだ人はもちろんいるでしょうけれど)。

そんな私にあっても、30年以上の時を経て本曲『すいみん不足』を聴いたとき、「この曲知ってる」記憶があったのです。

強烈なのはサビのおしりにつく「すいみんすいみんすいみんすいみんすいみん不足!」のせかせかしたフレーズですね。ここが記憶に残ります。

睡眠不足だと常にイライラしてしまいます。せっかちで短気にもなるでしょう。そうした精神状態がよくあらわれた、サビをくくるこのわずか2小節ばかりのモチーフが千金です。そう、ちょっとばかり睡眠不足をやらかしただけでも、ずりずりと日常をむしばみ、おびやかし、他の輝かしい記憶があろうとも印象を覆い尽くしてしまうくらいにその威力は絶大なのを体現するかのようにこの2小節は曲者なのです。

“あのこがわたしをなやませる わたしがあのこをなやませる みんながみんなをなやませる みんなは心をいためてる”(『すいみん不足』より、作詞:CHICKS)

個人に深刻なデバフ(不利な下方修正)をもたらす睡眠不足ですが、それが集団ともなれば掛け合わせは脅威的なもの。ドミノが倒れるように、成り立っていたものが次々と転覆していきます。逆にいえば、個人のあつまりであるコミュニティ、地域、社会、国家、世界の連携は、お互いがパフォーマンスを発揮しあうこと、その組み合わせ・相乗によって機能を果たしている真理を私に改めて気づかせてくれます。クラスに睡眠不足の子が一人でもいたら、ほうっておいてはいけないのです。その子が眠れない原因と対応をみんなで考えて、みんなが実践し、みんながパフォーマンスを発揮しあうクラスを目指す必要があります。これは喩えですが、集団の単位が大きくなってもその原則は通底するはずです。

姿かたちを変えた、やおよろずの「睡眠不足」が調和と相乗の理想を阻みに、絶え間なく私やあなたに降りかかり、襲いかかり、罠をしかけるでしょう。まずは眠ること、それから人間活動に挑めば、そうしたやおよろずの魔物(睡眠不足)と対等に渡り合えるはずなのですが……

すいみん不足 CHICKS 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:CHICKS。ポリドールのコンピレーション『レディース・ルーム』(1990.3.25)に収録されたのち、歌詞が少し違うバージョンに改められてテレビアニメ『キテレツ大百科』のオープニングテーマ(1990.11.4~1992.3.29放送分)となった。内田順子『コロ助ROCK』とのスプリット・シングル(1990.10.21)に収録。

CHICKS すいみん不足(配信コンピ『藤子・F・不二雄生誕90周年藤子・F・不二雄 TV MUSIC HISTORY Ⅱ -藤子・F・不二雄作品集2-』収録)を聴く

楽曲の主たるセクションはシンプルな質感を保っていますが、要所の演出にフックが効いています。

イントロはキンコンカンコン、学校のチャイムの模倣。シーソーラーレー、レーラーシーソー……Gメージャー調の本曲です。

最も印象的な「すいみんすいみんすいみんすいみんすいみん不足!」のところは各楽器がいっしょになってボーカルフレーズをトレースしているので、強烈に印象に残るパワーと統率をもって私にせまるのでしょう。

どうして……こんなに……眠いの……と、エンディング前の展開は本当に眠くて意識が遠のいてしまいそうなブレイク。テンポの目盛りから解き放たれて睡眠のかがやく湖に私の意識も沈んでいきます……が、ハイハットの4カウントとともにさいごの「すいみんすいみんすいみんすいみんすいみん不足!」のハーモニーが私の意識を青空のもとに引きずり戻します。

リードボーカルのアサコさんの声色のキャラクターが児童のように純真です。みぃみぃぴぃぴぃ響いて聴こえるくらい、本当に子供のような声の明るいピーク感があります。類稀な声質。

サビでリードボーカルさんのオーバータブなのかメンバーさんの声も入っているのかわかりませんが、上ハモや「ワー」というバックグラウンド系の声トラックも入ってきて熱量が最大になります。基本はバンドのアタマ数だけのトラック数なので、サビでお化粧映えしていますね。

ガバガバ!っと歪んだ、弾く弦の数もあまり絞ることなく大仰なアップストローク(裏打ち)のエレキギターのリズムが愛おしい。本曲をかたわらに、どうか安眠して日々にのぞんでください。そこから正の望ましい連鎖が大きく転がっていきます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>すいみん不足キテレツ大百科 ソング・コレクション’92

参考歌詞サイト 歌ネット>すいみん不足

『すいみん不足』を収録した『キテレツ大百科 ソング・コレクション’92』(1992)

『すいみん不足』を収録した『藤子・F・不二雄生誕90周年記念 藤子・F・不二雄 MUSIC HISTORY【CDBOX】』(2024)