子やその周囲との関わりをきっかけに広がる音楽との接点
“子育ては地域活動への切符である”
という言葉を聞いたことがあります。どなたから聞いたのだったか…
かばんいっぱいの絵本とオリジナルの歌をもって全国を飛び回る西村直人さん(NPOえほんうた・あそびうた)とご一緒できたときに聞いたのだったか、あるいはその西村さんつながりでファザーリング・ジャパンについて検索したり調べていたときだったか出典があいまいです。
ただ、私も2016年と2019年に子どもを授かった身なので、子らの成長とともに、音楽を携えて地域と関わる機会が得られることがあるのを実感しています。ですから、冒頭に掲げた言葉に共感するのです。
上の子が保育園を卒園するのが近づく時期、園の生活発表会のようなものがありました。そこで、子らが発表していたのが「スイミー」の歌。演目をみんな(保護者も子も先生も…)、「スイミー」と呼ぶものですから、個別の楽曲や演目そのものの正しい名前が最初わからなかったのですが、『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』という、その名のとおり、有名な絵本:レオ・レオニ『スイミー』をもとにした音楽劇が、2019年にCD+楽譜のかたちで発表されていることを知りました。園の先生がそれに着目して、園の生活発表会の演目に抜擢したのでしょうね。“音楽劇”のスイミーは思ったよりも近年の作だったのが意外でした。なにせ『スイミー』の原語の原作絵本の発表は1963年です。後世になっても最新の時代の創作の発想元:主題にされ続けることで「今日の作品」であり続けるのですね。
卒園に近い時期に子らがやった『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』のなかに、『どこかの海の魚たち~フィナーレ』という楽曲があります。この音楽劇の主題歌的な位置づけと解釈して良さそうで、タイトルに「フィナーレ」とつく前にも、楽曲『どこかの海の魚たち』が冒頭付近に位置付けられています。『どこかの海の魚たち』と『同 フィナーレ』はメロディや歌唱部分の曲想はおおむね保ったまま、アレンジが多少異なるのと、物語の経過に合わせて歌詞も異なるものになっていますが、基本的には遺伝子をひとつにする同一の曲であり、音楽劇全体を1曲ととらえた場合の提示部と再現部のような関係と解けば良いでしょう。
子らが発表会で歌ったレパートリーであるこの『どこかの海の魚たち~フィナーレ』を、卒園のつどいで担任の先生に向けて子らが歌ってプレゼントしようと立ち上がった保護者企画。それの電子ピアノ伴奏を私が担当することになったのがこの楽曲と私の接点です。
こうでもしないと、音楽劇の中のこの曲と私が接点を持つことはなかなか難しかったでしょう。なにせ音楽劇ですから、私の日常のように、家で一人で弾き語りをしたり多重録音したりしているだけでは出会いにくい作品だといえます。
“子育ては地域活動への切符である”
ここで冒頭にかかげたフレーズを再提示。自分も子も含めて地域で成長していくことで、より広い音楽とかかわるきっかけが得られるのは、私が深くうなずく真実なのです。園の先生も、ありがとうございます。
音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」:『どこかの海の魚たち~フィナーレ』に少し近寄ってみる
作詞:木本慶子、作曲:佐橋俊彦。『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』に収録(2019年、日本コロムビア)。
Hoick Online Shop>音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」 CD+テキストこちらのリンク先が、楽曲や作品、商品についての概要を詳細に伝えてくれます。歌唱音源とカラオケ音源、伴奏譜、脚本、振り付けや衣装やセットの解説を網羅したものなのですね。リンク先のページで曲毎の視聴が可能。購買や導入を検討する段階で楽曲の雰囲気を一聴できます。
私の子を含むクラスの園児らが発表した時は、歌や劇にカットが入って短時間バージョンに編集されていました。オリジナルサイズには多くのジャンルにまたがる曲想、アレンジメントとバラエティの豊かさがうかがえます。いつかノーカットバージョンの音楽劇の上演を生で見てみたいですね。
『どこかの海の魚たち~フィナーレ』は個性の違うキャストが集結し、歌い分ける・オブリガードが綾を成す、シンガロングする大団円シーンの楽曲。イントロから壮麗なオケですね。言葉のリズムもいきいきとしていて、実際に歌ってみても楽しくて気持ちがよいです。
作詞の木本慶子さん
声優としても活躍されるアーティストへの作詞提供歴をたくさんお持ちであるのがうかがえます。“Q:作詞家になったきっかけは A:ものすごく簡単に言ってしまうと消去法です。残ったのが「作詞」でした。”(言葉の達人/作詞家:木本恵子さん、歌ネットサイトより引用)と、作詞家という選択肢を消去法で導き出したとのアンサーが意外ですが、ほかの設問を読んでいくと、言葉の表現への関心はもちろん幼少からピアノにもふれたそうで、木本さんにとって作詞家としての活躍の仕方はベストなのだと腑に落ちます。
木本さんはリンク先のページで、“奇異な言葉や造語は避け、普通の言葉をどう組み合わせると面白いかを考えています。”(言葉の達人/作詞家:木本恵子さん、歌ネットサイトより引用)とあるように、個別の言葉や語句の特殊性よりも、広く通じ合える普遍性・一般性を前提にしたオリジナリティの創出を尊重するアティテュードがうかがえますが、このことから私が思い出すのは作詞家の橋本淳さん。作曲家の筒美京平さんと組んで数多の楽曲の作詞をされた橋本淳さんですが、その作品にみる言葉はおおむね平易な質感を備えたものばかりです。それゆえに、メロディや編曲(アレンジ)が、楽曲:一体の作品として相乗効果を生むのを思い知らせてくれます。
たとえば塩と油とガスコンロとフライパンだけで、近所の八百屋の野菜を美味しくするような確かさやバランス感。奇抜なエスニック食材やクセの強い調味料抜きで、多くの人が楽しめると同時に独創性を認めるものをいかに作るかという方針だと解釈すると、深くうなずくばかりです。
作曲の佐橋俊彦さん
ひとえにトップランナーな劇伴作曲家さんだと伺えます。東京ディズニーランドのショー音楽をはじめ、アニメ、ドラマ、特撮、ミュージカル……業界のフルコースをひと通り体験なさっているのでは。私は彼の宇宙を漂う赤子の気分です。
アニメ!アニメ!>佐橋俊彦インタビュー:ミュージカル音楽を語る「テニスの王子様」は革命、「薄桜鬼」は凄い実験
2014年のインタビュー記事。芸大の1学年上にいた宮川彬良さんとのつながりからはじまったという東京ディズニーランドのお仕事。劇団四季『夢から醒めた夢』のアレンジをなさったとのこと(この演目、私が小学生だった頃に学芸会でやった記憶があります、おそらく簡易化したものを)。
““2.5次元ミュージカル創成期時代”の作品を次々と手掛けるようになる”とリンク先のサイトで形容されているように、まさしくその畑のパイオニアなのだと察します。作曲を担当された『ミュージカル・テニスの王子様』はその影響の大きさもうかがえます。音楽で、人も画面も動かす醍醐味を思います。私の想像はその端っこにも満たず、佐橋さん自身が人生で経験している量やスピードの実質が計り知れません。音楽ってすごみ。
『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』は、佐橋俊彦さんの仕事量の本当に大海の一滴のようです。
青沼詩郎
参考歌詞サイト Hoick >どこかの海の魚たち~フィナーレ
『どこかの海の魚たち~フィナーレ』を含む『音楽劇:コーラス・ミュージカル「スイミー」』(2019)。