かまやつさん 私を惹いてやまない

かまやつひろしさんが私は好きでしかたありません。曲の骨子がシンプルといいますか、特定のモチーフを繰り返すことで2、3分でパッとつくってしまったみたいな傑作が多い。達人にのみなせる瞬間芸です。ユーミン(愛称で失礼)のために作ったという『楽しいバス旅行』という楽曲の存在をある松任谷正隆さんの著書で知ったときは驚愕しましたし、検索して『楽しいバス旅行』にふれてみるとやっぱり私は気に入ってしまいました。『楽しいバス旅行』との交換でユーミン(愛称で失礼)が作ったのが『中央フリーウェイ』だといいますからまた驚きです。

『なんとなく なんとなく』もそんな手指や声の純朴率直なおもむきを感じる傑作のひとつです。彼が所属したGSバンド、ザ・スパイダースの作品。サブスクにないのでかまやつさんが海辺で弾き語るおしゃれで開放的なトラックをリンクしておきます。

YouTubeでザ・スパイダース なんとなく なんとなくを検索する

かまやつひろしさんにはシンプルな瞬間芸のような作品も多いのですが、4和音や濁った和音をつかったおしゃんなジャズやファンクみたいな曲もあったり、グルーヴィーで刺激的なサウンドも数多生み出します。でもどこか根底には「いなたさ」がただよう。人懐こく、純朴。決して器用な感じはしないところに私は猛烈に惹かれ、すっかり信用してしまいます。

ザ・スパイダースやそのバンドの活動を区切って以降のソロ作品、ムッシュかまやつとして活動する時期以降が目立って思えますが、そうした時期よりも早い時期にもおひとりで作品を数多リリースしており、『ティーンエイジ・ブギ』はシングルとしてかまやつヒロシ名義で『月影のナポリ/ティーンエイジ・ブギ』(1960)としてリリースされたもののようです。

かまやつひろしさんのお父上はティーブ・釜萢さんでジャズ・ミュージシャンですから英才でもあることを思います、音楽が身近な環境でお育ちになったかと。そりぁ瞬間芸もお手のもの、と。

そうした、かまやつひろしさんのザ・スパイダース以前のキャリアも私にまた知をもたらしてくれます。海外の作品にもアンテナが及んでいます。先の『ティーンエイジ・ブギ』はウェッブ・ピアスのカバー。

Webb Pierce Teenage Boogieを聴く

作詞・作曲:Webb Pierce。Webb Pierceのシングル(1956)。

Teenage Boogie! hey hey! Teenage Boogie! Ho Ho! ゴキゲンです。若いヤツらが集ってたむろして夜通し騒いでる、混じってざわついてごみごみして盛り上がっている感じを描いた曲でしょうか。

ウェッブ・ピアスの声はパンと通って張りがあり華があります。彼がコールして、BGVが元気よくレスポンスする。良いですね。グルになって輪の中でみんなと弾いて歌いたい曲です。

呼びかけて応えるコーラスがシンプルですが、ヴァースのリズミカルな歌詞がたたみ掛ける攻めの姿勢です。こういう言葉のビート・パーカッシブな麻薬陶酔感はほんとうに英語にはかなわない。もちろん日本語でもそれに近いことができる、あるいはそれ以上にアクを出して中毒性と麻薬感が出せることを証明したのがたとえばサザンオールスターズかもしれませんが、とにかく本来はこういう英語のゴキゲンなミュージックの中から気持ちよさを見出したことにきっかけを得て日本語の音楽が豊かになった構図を思います。

あげたらきりがないサザンの言葉の麻薬。今回ここでひとつあげるなら『愛の言霊』にさせてください。

Webb PierceのTeenage Boogieの話に戻ります。

ベースがグルーブと躍動を主導。ちょっとアタックがピックっぽい感じがするのはギターのアタックと混じっているのか判然としません。スネアのバックビートもギターのカッティングもベースのアタックも全部が一体になったようなピッタリ感があります。ご機嫌で、深いイミとかいいから一緒に跳んだり跳ねたりして歌ってろよ! ってカンジの曲ではあると思うのですが、演奏が異様にウマいと思うのです。

ギターソロなんか本当にうまいですね。流暢に歌のバッキングからリードにつながってまた歌に戻っていきます。一方向へのピッキング(チョップ)でなめらかにすばやい和声的なフレーズを弾くギターソロプレイ。

前半のソロは『In The Mood』の引用でしょうか。この曲猛烈に知っている!モチーフもサウンドも記憶にあるのに曲名をちゃんと把握してなかったので曲名を調べるのにたじろぎました。

グレン・ミラー尊師(?)のイン・ザ・ムード。これです。見つかってよかった。

……と、引用、すなわちコピペの利いた雑多雑食で貪欲で……欲に正直な感じや行動に反映する短さが若い。そういう若い人の「たむろ」の雰囲気をWebb PierceのTeenage Boogieはよく映しています。 こういう引用・コピペ文化や手指のおもむきは、のちのヒップホップとかトラックメイクみたいな潮流に飛び火させて論じることもできると思うのですが私はそのあたりの学をもっと蓄えて挑戦したいところです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Webb Pierce

参考Wikipedia>かまやつひろし

参考歌詞サイト MOJIM>Teenage Boogie

『Teenage Boogie』を収録したWebb Pierceの『All Hits !』(2010)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Teenage Boogie(Webb Pierceの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)