作詞・作曲:リチャード・カーペンター(Richard Carpenter)、ジョン・ベティス(John Bettis)。カーペンターズのシングル、アルバム『A Song for You』(1972)に収録。

『Top of the World』を聴く

ヴァースで単一のボーカルトラックがリードするのですが、コーラスに入ったときに、声部ごとにトラックが分かれるのを感じます。分離がよく、各パートがよく聴き取れます。メインのボーカルパートを中心に据えて、それ以外のボーカルパートで右や左に広がりを出すのが、ホモフォニーの基本の構図だと思いますが、『Top of the World』では、コーラスに入ると複数に別れたボーカルの同時進行が主役の扱いを受けているのに気づきます。ヴァース序文や状況や設定の概説、コーラスが思想信条感情の発露。そういう、構造の区別や対比が、音楽(サウンド)の設計としてほどこされています。

主にふたつのエレクトリックギターのパートが聞き取れます。スライドプレイでぬるぬるとポルタメントするクリーンなエレキギターと、いわゆるバッキングっぽいクリーンなエレキギター。驚異的なほどに澄み渡り、なおかつサスティンの筋が通った秀逸なクリーンサウンドです。コンプで平らくならして、全体を前にビターンと張り付かせたからといって簡単にこのサウンドになるでしょうか。目を見張るほどに美しいギターのクリーンサウンド。鑑です。

伴奏のメインはリチャード(お兄さん)のエレピでしょうね。兄妹ユニットとして、たとえば二人だけでも舞台に立つことができる。ピアノのプレイはこのグループのシンボルでしょう。リズムをくいくいキュッキュと緩急つけつつ和声とオブリを効果的に出していく。お手本というかこれ以上ないというか、まさしく頂上のような鍵盤のバッキングプレイです。

この濁りのないアンサンブルをリズムのアクセントで引き締めるのがドラムトラック。カツっとリムを鳴らしたり、クローズドハイハットをウラ拍にチッと入れたりして、音像がブワつかないようにキビキビと輝きを施していきます。日本のバンド編成の大衆音楽・歌ものではスネアをラウドに鳴らしてしまいがちなアクセントの位置に、カーペンターズのレパートリでは大抵クローズドハイハットかリムショットがいるのが私のイメージ(偏見)です。

2本のクリーンなギターはカントリーミュージックの文脈が背景にみえます。鍵盤の伴奏のもと歌うカレンさんの構図が私に思わせるスタイルの本腰は必ずしもカントリーではありません。むしろ初期のカレンさんのステージパフォーマンスはパワフルで手数の多いテクニカルなドラムプレイだったりします。このユニットの音楽的な幅広さ・俯瞰ある雑食性が、「特定のジャンルを思わせる音楽的語彙(たとえばカントリーっぽい2本のクリーンギター)」をフィーチャーしても自分たちの歌である芯を通すことのできる確かな器の大きさだと思います。

歌詞

「私をブチ上げるのは愛」(雑)。究極いえばシンプルなラヴソングなんですが、語彙がスケール豊かで感覚が壮麗。シンプルに感情を語るのでも、都市を見下ろしている。感情はこの胸にあるはずなのに……まるで世界じゅうにいるリスナー一人ひとりの胸と、この歌『Top of the World』が響き合うことを予知したみたい。

たとえば私のフェイバリットアーティストのくるり、岸田繁さんのソングライティング(成果物としての作品、あるいはその生産プロセスを語るライナーノーツやインタビュー)をみても、その楽曲をこの世に顕現させたのは自分(そのソングライター)なのだけれど、世界中のどこかで誰かが、ほんの一瞬だけ(あるいは人生のなかでずっと、長いこと)その楽曲が表現しているのと通じ合う思念を持っいてもおかしくない、そんな普遍を拾い上げた……まるでイタコのように憑依させた、霊感で知覚したみたいな奇跡を思わせます。『Top of the World』も、言葉が抜きん出て流麗で綺麗ですが、雑踏や市井の私、あるいはそこでこの記事を読んでくれているあなたの思念の積層にタッチする「ありふれたこと」を歌っているに過ぎない。これはいい意味です。だから、ずっと長く聴かれているのだと。

普遍を主題として描くだけならへたなソングライターにもできるでしょう。これをブチ上げる=ワールドのトップにプッシュアップする(ルー大柴さん風)のが、サウンドの洗練、演奏、「唄」。高いところに登って全能感を味わうくらいのことは、日常で誰もが結構経験していることかと思います。それを作品にしろっつってこれができるかはさて……命がけで音楽に関わることに全霊を注ぐのがまずスタート地点に立つ最低限の資格なんでしょうね。

曲が曲だけに(“Top of the World”)、なんかエラそうな感じになってしまいゴメンなさい。

青沼詩郎

参考Wikipedia>トップ・オブ・ザ・ワールド (カーペンターズの曲)

参考Wikipedia>ジョン・ベティス

UNIVERSAL MUSIC JAPAN>カーペンターズ

参考歌詞サイト うたまっぷ>Top of the World

世界の民謡・童謡>トップ・オブ・ザ・ワールド 歌詞の意味・和訳 邦訳が概観できる記事です。

『Top of the World』を収録したCarpentersのアルバム『A Song for You』(1972)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Top of the World(Carpentersの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)