音楽鑑賞の溝
私がGS:グループサウンズを聴くようになったのは近年です。この音楽ブログサイトを立ち上げたのが2020年で、それ以降、いろんな時代の音楽をよく聴くようになりました。
1986年生まれの私が10代だったのは1996年~2006年頃で、その頃は1960年代の音楽を今日の私ほど熱心に掘るようなことはそうありませんでした(いま振り返ると怠慢だったと悔やんでいます)。10代の頃の私が愛聴した音楽と、近年の私が熱心にほじくり返している音楽のあいだに、ちょっとした溝を感じるのです。
ところでザ・スパイダースは私のお気に入りのGSバンドで、ただのGSバンド以上の存在だと敬っています。
ザ・スパイダースに『なればいい』という大変跳躍力の高いB面曲があり、それは今日の私に大変大きな衝撃をもたらしたのですが、THE BOHEMIANSというバンドが一種マニアックでもあるその楽曲『なればいい』をカバーしています。それも、まだご存命だったかまやつひろしさんと一緒に。
ところで、the pillowsは高校生~大学生くらいの頃の私が大変愛聴したバンドのひとつなのですが、THE BOHEMIANSはthe pillowsのギターボーカル・山中さわおさんが立ち上げたレーベル所属のアーティストだと知りました。こちらの記事(SPICE>THE BOHEMIANS×山中さわお(the pillows)×小沢一敬(スピードワゴン) 真面目にロックンロールをやってきたバンドへの御褒美(!?)鼎談)など読みますと、リスペクトと距離感を前提にしたアニキと弟のような関係なのかな……と想像させます。
10代頃の私と、それから20年くらい後の近頃の私の聴き漁る音楽のあいだに感じていた「ちょっとした溝」ですが、ここに来てそれがわずかに埋まった気がします。埋まったというか、本当はもともとつながっていたものを視認したのですね。「溝」はそもそも幻想だとも思います。あると思い込んでしまうと、光が落ちて悪魔のような姿なき溝があらわれるのです。
20年前からもっと幅広く音楽を深く聴いておけばよかったなと思うのはこの頃の私の常です。ホラ、後悔も「ある」と思えば「ある」ことになってしまう……今をどうするかがすべてですよね。the pillowsには、雑念にまみれた私の背中に順風を吹かせてくれる(背中をドロップキックでぶっ飛ばしてくれる)痛快な楽曲が多いです。
TRIP DANCER the pillows 曲の名義、概要など
作詞・作曲:山中さわお。the pillowsのアルバム『Please Mr. Lostman』(1997)に収録。
the pillows TRIP DANCERを聴く
ギターで和声もリズムもしっかり出す音楽スタイルと、胸を突き刺し心を感情の海に浸す言葉とメロディ。これ以上に何が要りましょう。私の音楽性、志にもっとも影響を与えたバンドのひとつがthe pillowsだと改めて思います。歌詞のセンテンスに沿ってコントロールされる和声の手綱に確かな自信と気高さを感じます。
ギターは解像度とコシの強さを両立した倍音豊かなサウンドでアルペジオのリフが気持ちよく降り注ぎます。シンフォニックなほどに厚みがあるサウンドで耳福です。
ベースはサポートメンバーかと思いますが、必要十分以上のはたらき。はずむような軽やかさで音を切ってニュアンスを出し、楽曲全体に躍動感を与える大役です。わずかな箇所ですが、拍の頭できっちり根音をとらずにちょっと非和声音を引っ掛けてから解決をはかるアプローチに味わいがあります。『FUNNY BUNNY』を弾いているベーシストと同じ人でしょうか。そちらも私のフェイバリットソングです。
サビで2・4拍目のスネアに合わせてクラッシュシンバルが炸裂し、アクセントに重みと余韻を加え熱量の高さを演出します。実直さとヤンチャな漢気を感じるドラミングです。
歌詞
“辿り着いた誰かが 残していった旗に 群がるなんて 下品なしきたりさ 来るべき時が来たら キミの立つ足元も 頂上なんだ それは間違いない”(the pillows『TRIP DANCER』より、作詞:山中さわお)
the pillowsの楽曲の魅力の一面をとらえる形容が気高さだと思います。プライド。自尊心。現実の受け入れと、現実への抵抗の重ね合わせです。
他人の到達点に構っている暇があるなら、自分だけが至れる場所をひたむきに求め進むべきだとも読めます。
10代頃の私はこういう気高さに心底打ちひしがれます。それから20年くらいくらいした今改めて聴くと、先人が残した旗にも大きな意義があると認知している自分の変化に気付きます。
先人の旗は、先行研究のようなものですね。先に誰かがそこに着いてくれた、そのことによってノウハウが人類に広く浸透することで、私やあなたはさらにその先を目指せるのです。その旗がなかったら、私はその旗に至るかそれ未満で天寿を迎えるかもしれません。
ただ、先行事例に「群がる」のも考え物です。混雑は社会問題の象徴でしょう。ほかの道を選んだほうが自分個人にとっても人類全体の未来にとっても知性や文明の発展が望めそうに思います。
私は人込みが嫌いです。流行っているものに対して、流行っているという事実だけで興味を失うほどにへそ曲がりでもあります。そういう私の「わかりみの種」を心臓からつかみ出して花を咲かせてくれるのがthe pillowsの言葉、サウンド、メロディ。生の拍動なのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Please Mr. Lostmanより、ベーシストは鹿島達也さん。サビ前などに鍵盤もののグリッサンドが効いて華やかだと思いましたが近藤和明さんが“Hammond, Piano”とあります。
『TRIP DANCER』を収録したthe pillowsのアルバム『Please Mr. Lostman』(1997)
『TRIP DANCER』を収録したthe pillowsのベストアルバム『Fool on the planet』(2001)。これ、高校生の私がさんざん聴きました。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『TRIP DANCER(the pillowsの曲)ギター弾き語り』)