海が降る 友部正人 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:友部正人。友部正人のアルバム『夕陽は昇る』(1989)に収録。

友部正人 海が降るを聴く

ゆうれいがフェーダーを操作しているのじゃないか?! と思わせるくらいにビンビンにコンプレッサーが働いたみたいなエレアコの猛烈なストロークのオープニング。かと思えばこのアコギのサウンドを蹴散らす激烈なバンドのサウンドがイン。エレキギターのサウンド、激しい! THE BOOMのサウンドを個人的には思い出します。

ドラムとベースの16分割のリズムが緻密でグルーヴィーです。ベースのサウンドがプレーンで輪郭くっきり。ドラムスは極めて硬質で「この時代」を思わせるバンドのサウンドです。

フォークギターをがしがし鳴らして緩急をつけ詩を吐き散らすスタイルがまず友部正人さんの演奏スタイルのひとつとして思い浮かべるところですが、こんな形もあるのかと面白く痛快です。作詩のふしぎなおとぎ・寓話めいた世界をさらにゆさぶり、攪拌し、謎の濃ゆい液体を抽出してしまったマッドサイエンティストの様相。私は一体何を言っているんだ。

間奏のギターソロはただでさえ激しいのにさらに激しいリードサウンドを加えます。

ソロがあけると12弦ギターなのか、フォーキーで広がりのあるサウンドがサークルに入ってきます。“夜中に海が降り出した”あたりにさしかかると、どこかへ行っていた(と私が思った)エレアコのサウンドもサークル部屋に帰還しています。

「海が降る」と主題のフレーズをリフレインするあたり、リッチなこだま効果のボーカルが映えます。

リズムを決めて、パッと音をとめてエンディングしてしまう。すかさずアルバム内の次曲(『幕』)がはじまる演出です。

夜中に海が降りだした さっきまで海があったところに 今は天の川が流れてる

『海が降る』より、作詩:友部正人

不思議な世界。言葉の秩序を笑ったような。私が言葉だと思っていたものは、海だったり木だったりしたような。あれ? じゃあ、言葉ってなんだったかしらとそんな気にさせます。

海が降る。考えにくい現実です。高い高い波飛沫が、サーファーの頭上から崩れ、降りかかってくる。そういうシーンであれば、現実でも「海が降る」かもしれません。

思えば、星空は、海が天に浮かんでいる情景にも似ます。

天の川の歌だったんだ。そう思わせるのが、最も後半に現れる上に引用したフレーズです。ここで、音楽面でもコード進行などのパターンがそれまでと違ったものに変わってきます。ここがこの楽曲のハイライトだといっていいでしょう。

そして、主題の“海が降る”をリフレインして、パっと音を消してしまう。幻想的です。夢だったのかな。

青沼詩郎

友部正人 公式サイトへのリンク

『海が降る』を収録した友部正人のアルバム『夕陽は昇る』(1989)

参考書

友部正人詩集 (現代詩文庫 第 1期182) (2006年)。『海が降る』の詩を掲載しています。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『海が降る(友部正人の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)