作詞・作曲・編曲:杉真理。杉真理のシングル(1982) 、アルバム『STARGAZER』(1983)に収録。

聴く

歌詞もメロディもコードもアレンジも粒立ちが良く、本当に気が利いています。大瀧詠一さんが残した数多のポップソングの意匠に通ずるものを感じます。

クライマックスで爆破音みたいな効果が聞こえます。笑ってしまうほどに派手でコミカルな演出ですが冷静に考えて爆破じゃない。雷ですね。轟音なので爆破音と似て思えるのも無理はないと自分をフォローしておきます。

個別のパートの音が実に綺麗で、かつ接着しています。音の輪郭がはっきりしていてきれいということではスティーリー・ダンのアルバム『Aja』など思い出すのですが私の検討違いかもしれません。

もっと混沌としていて不器用な主人公の人格を感じもします。繰り返しますが、個々が立ってもいるし、心地よく接着してもいるのです。

冒頭のハーモニカからも思い出すのはやはりビートルズ。『恋する二人(I Should Have Known Better)』です。

杉真理さんがビートルズを敬愛していらっしゃるのは『バカンスはいつも雨』のハーモニカづかいをみても(私としては)明らかに思います。『Dear Beatles』というトリビュートライブを続けて2024年で20回目の開催になるといいます(執筆時、2023年。杉真理さんの公式サイトの出演情報をご参照ください)。

歌詞にも『雨に唄えば』を思わせるフレーズが登場。

息の長い名曲への視線と愛を思わせるソングラインティングです。安直な私の感覚ですが、大瀧詠一さんとの波長の合うさまなどを余計に思わせます。気が利いていて、「これぞ」な鉄板の意匠を思わせる理由でしょう。それでいて「楽しい」ことに誠実です。音楽、特にポップ・ソングは楽しくあるべきだと。頭が下がります。

歌詞

“You Ask Me Why 恋など You Ask Me Why いつでも はずれてばかりの天気予報さ”(『バカンスはいつも雨』より、作詞:杉真理)

にやりとさせます。ヒトの気持ちも、気象のようなものかもしれません。こっちがそう願ったときに晴れるとは限らない。

思うようになったりならなかったりすることが真理だと思わせるところですが、どういうわけか世の中には雨オンナ・雨オトコなる自負を唱える人が少なからずいます。逆も然り。晴れオトコ・オンナなど。

「自然のランダムさ」というのは、「偏りがない」ということです。「ランダムさ」「どうなるかわからなさ」という観念からは、つい「偏りがなく、いろいろであるさま」を思い浮かべがちですが、実際に自然現象の偶発性というのは偏りすらもあったりなかったりします。

だから、ヒトが、特定の特別な日を意識した時に限って、晴れたり雨が降ったりしがちなことに偏りを覚えること自体が真なる自然の偶発性だと私は思います。《晴れ・雨》+《オトコ・オンナ》もまさに自然の気象を象徴的に物語っているのです。

“心決めたのに雨 チャンスもないのかい 気づいておくれよ Don’t Cry ごらん君の真上にかかった Rainbow”(『バカンスはいつも雨』より、作詞:杉真理)

主人公の片想い……とまでいっていいかわかりませんが、うまくいかないことばかりだったり、願った通りにならない主人公の想いを、理想の象徴として「バカンス」、うまくいかない様子や逆境の象徴として「雨」といったモチーフを用いて描いた軽妙な作風が魅力的です。

最後のラインはRainbow、虹を登場させます。バカンスの思わせる「理想郷」みたいなものとちょっと似てもいますが、刹那の解決や浄化の象徴が虹であるようにも思えます。「君」は主人公の思い人:意中の人であるのを思わせるのは当然としてひとつありますが、最後のラインの「君」は主人公自身に対して云う「君」であるようにも思わせます。

コード進行、アレンジ、抜群に緻密で繊細で儚い歌唱や諸所の演奏の機微もばっちり。こういったところひとつひとつが「粒立ちの良さ」や「気が利いている」のを感じさせるのですが、ちょっとうまくいかない感じの主人公の境遇や心情が楽曲の「出来の良さ」と対になって、私を素直に楽しませてくれるのです。こういう唄がひとつでもふたつでも、世の中にあればいいな。虹みたいに儚いです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>杉真理

杉真理 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>バカンスはいつも雨

参考サイト タワーレコードオンライン>スターゲイザー

杉真理の『バカンスはいつも雨』を収録したアルバム『STARGAZER』(1983)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『バカンスはいつも雨(杉真理の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)