作詞・作曲:Leonard Lipton、Peter Yarrow。Peter, Paul and Maryのシングル、アルバム『Moving』(1963)に収録。

聴く前に入れておきたい楽曲の概観

歌詞、楽曲の背景や影響についての参考 世界の民謡・童謡>パフ・ザ・マジック・ドラゴン 歌詞の意味・和訳 Puff, The Magic Dragon 原曲の英語の歌詞 日本語版の歌詞の比較と元ネタ・考察

ピーター、ポール・アンド・マリーの歌った英語の歌詞の内容、作曲にあたってのインスパイア元や派生した日本語版、竜と青少年が題材のほかの作品についてなど広く独自の考察がされた記事です。

聴く

時代を感じるはっきりとした定位です。左にピーター・ヤーロウのメインボーカル。ベース、スリーフィンガー奏法っぽいスチール弦ギターも左です。右にナイロン弦っぽいギターがやさしく添います。音色のキャラクターの違いと音域の違いで補完しあっている感じ。

ノエル・ストゥーキーの下ハモが右。マリー・トラヴァースの上ハモが真ん中です。ステージでの3人の立ち位置とパートを再現した感じの定位でしょうか。左右は場合によっては逆かも? 演奏者目線か客目線かによって反転します。

3人のハーモニーが印象的で、すこぶる調和しています。和音の3つの構成音をおおむね密集配置で揃え、ハーモニーの重心が安定しています。カデンツが半終止や全終止するところは特に聴きどころですし、フレーズの途中の同音連打なども精神衛生によい安定感。

最後のヴァースでダイナミクスをひそめ、寂しい感じをいっぱいに表現しています。そのままコーラスでも寂しい感じを保ち、コーラスのリフレインで朗々と力を開放し、引き伸ばしたⅡ7→Ⅴ→Ⅰの進行で強い帰結感。あなぐらに帰る寂しい竜の背中がみえるようです。寂しいのですが、音楽上の語彙は強いカタルシスでもって物語を綴じてしまいます。せつない。

パフの味わい

「パフ」「ジャッキー・ペーパー」「ホナリー」と、固有名詞が出て来ます。歌詞が物語である性格を思わせますし、それらの固有名詞の発声が音楽的な響きを露呈します。「パフ」と、破裂音の強起でバチっと歌い出しがはじまる。日本語(カタカナ語)にしてしまえば母音も「ア」で歌い出しを強く印象付けます。

物語を乗せて紡いでいく船として、音楽は平坦といいますか、コンパクトな編成で安定した伴奏をコーラス毎に繰り返すことで歌詞の物語への注意を促します。コーラスはおおむね似通った文のリフレインですが、ヴァースはそれぞれ違います。英語の豊かな子音、それらのなす複雑なリズム自体がPPMの音楽の一部でもあるのです。母音のなすハーモニーの本体こそがPPMの魅力として目立った表層の部分かもしれませんが、さわさわと風がそよいだり、パチンと何かが突如起こるような子音の豊かな印象が、PPMの歌唱の確かさとその魅力を私に強く印象づけます。

年をとらない竜(ドラゴン)と歳をとる少年というモチーフが儚い。竜は少年ありきで活動的になれるのでしょうか。

誰かの存在に依拠しない積極性や能動こそが、私が人生で重んじていることです。竜は少年がいなくたって、自律して豊かに生きる力のあるように描かれたほうが、高等で知性溢れるキャラクターとして映るでしょう。少年の来なくなってしまった際の竜の寂しい姿が想像させるのは、体はでかくて雄々しく希少な存在感あふれる竜も、中身は幼児や子供のような感じなのかなということです。

歳をとるということは、経験を増やし、知識を増やし、それらを判断の材料として、行動を変化させることでもあります。

少年は、竜のほらあなに通わないという判断にいたる知識や経験を、ほらあなや竜と駆けた海の外で、なんらか身につけたのでしょうか。あるいは不慮の事故にあって命を落としてしまったといった痛切な顛末なのかもしれません。そこまででなくても、親の都合で引っ越して通うのが難しい距離に遠く離れてしまったといったことはいくらでも考えられます。自分の意思で竜のもとに通わなくなったのか、意思の及ばない偶然や環境要因で竜に会いに来られなくなったのかは歌の内容には含められていません。想像を許す、曲の余白であり、鑑賞の楽しみでもあります。

歳をとらない不老不死の竜。不老不死であっても、知識や経験を身につけることで、己の行動を変化させることはありえると思うのですが、そもそも不老不死という設定がファンタジー。現実には考えにくいことなので、論理の妥当性を問うこと自体が陳腐でしょう。そもそも、“A dragon lives forever”とはいっていますが、単に、少年や私たち人間からしたら永遠に思えるくらいに永く生きるというだけであって、実際には竜(ドラゴン)なりに歳をとるのかもしれません。

人も、人外(人以外の生き物)も、それぞれが個のスピードで生きています。それらが接点をもつことで、世界における万遍のドラマが生まれます。スピードの違う個が奇しくも交わることが生きる喜びでもあります。交わる、すなわち関係が始まるということはいつかは終わる、別れが来ることの宣告でもあるわけです。

嘆きは大気に散ってしまうし、それは歌も同じですけれど、こうして「パフ」という楽曲があることで、その刹那を繰り返し多様に味わえることは音楽のマジックです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>パフ(曲)

ワーナーミュージック・ジャパンサイト>ピーター、ポール&マリー

参考Wikipedia>ピーター・ポール&マリー

Peter, Paul and Maryの『Puff, The Magic Dragon』を収録したアルバム『Moving』(1963)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Puff, the Magic Dragon(Peter, Paul and Maryの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)