映像
テレビ?
オープニングからどこかを見つめるまなざしが妖しい玉置浩二。カメラがうろつくようについたり離れたりまわったり。照明や立ち位置が計算されているのでしょうか、物の少ないステージ、メンバー間の距離に作為を感じます。なんともいえない孤独な雰囲気が高まる舞台演出です。玉置浩二の背筋に頭がすっと乗ったような無駄のない立ち姿と歌唱が綺麗です。
ライブ?
曲名、アーティスト名が浮き出るステージ背景。音にライブ感があります。(アテ振りでない)生演奏でしょうか。機材がメンバーのうしろにみえます。
スポットライトがまるくメンバーの立位置を浮かび上がらせます。ワンーラス後の、横からの照明が降下する演出がかっこいい。宙にはスモークが漂います。正面からメンバー5人をとらえた構図も非常にきれいです。玉置浩二のまっすぐなまなざし、ちょっとしかめたような翳りのある表情が曲の性格を伝えます。ギターは名器:フライングVでしょうか。
井上陽水 神宮球場
舞台なのか? 都市の高層ビルの背景? ここはどこなのでしょう。イントロもあやしげです。マイク片手の井上陽水。弾き語りではないのですね。青いサングラスのむこうにのぞく眼。滑るような発音が独特です。
コーラス間を長めにとった、ゆったりしたアレンジですね。フルートが大人で都会なステージングの印象と相まって洗練を感じさせます。エンディングはピアノソロ。流麗なプレイです。場所はタイトルに神宮球場とあります。特設ステージなのですね。
安全地帯 神宮球場
先程の井上陽水と同じ機会の映像でしょうか。ツーマンライブだったのでしょうかね。
白い衣装に白いギター。玉置浩二はひげをたくわえています。まぶたにのった舞台化粧とあいまって彫りの深い顔にみえます。
オリジナルのアレンジに近い印象。ドラムの斜め後ろからステージを俯瞰するカメラ構図に大量のパーカッションやドラムが映ります。歓声からもスタジアムの規模がうかがえます。
曲について
安全地帯のシングル(1983)、アルバム『安全地帯II』(1984)に収録。作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二、編曲:安全地帯、星勝。
安全地帯『ワインレッドの心』(『安全地帯Ⅱ』収録)を聴く
エレキギターのブリッジミュート奏法。コーラスとディレイがかかった感じです。このバッキングにするどいリード・トーンが絡みます。このイントロのパターンはワンコーラスが終わったあとやエンディングにも再現しますね。サビ前やサビ折り返しなどではツイン・リードギターのトーンがフィルイン。
ドラムス。低めのチューンのスネアが太くコシがあります。ギターの音を透き通って感じさせるのはこうしたドラムスのチューンも影響しているかもしれません。ベーシックな太鼓(キック・スネア)は太いのですが、ハイタム類がトゥントゥンと抜けてアクセント。イントロやコーラス間やエンディングのパターンではカツカツとスネアのリムを効果的につかっています。強拍4つ打ちパターンで、ギターのアタック音とともにパーカッシブにリムの短く甲高い音を刻みます。
Aメロでは1拍目にキックを打ち、3拍目付近はキックをブランクにすることで浮いた感じを演出しています。このパターンはBメロで破られます。最後のサビが終わる瞬間(歌詞が ♪ゆれながら……のあとのところ)などは刻みの類を停止してキックを丸裸にするアレンジが色気漂います。1コーラス目が終わったあとも同様なのですが、エンディングでは1小節増えていてキックが裸でいる時間が長いのです。
ベース。近くクリアな音像です。イントロ・1コーラス目・エンディングでは1小節目のアタマでストロークしてズーンと伸ばしたあとに2小節目で8分音符単位で動かす2小節パターン。Aメロでは1拍目と4拍目ウラにストロークして4小節目で動かすパターン。Bメロからは2拍のまとまりで動き出しサビもこのリズムパターンをとります。
シンセ。サビでホワンとした音が厚みを与えています。空気を演出する音で、存在感は薄いですがいることを気づかせずに空間を立体にします。いなくなると寂しいでしょう。ギターのコーラスの奥行きある音と溶け合って区別がむつかしいような感じもします。私の気づかないところでも鳴っているかもしれません。サビなど「Uh」といった人の声に聴こえる瞬間もあります。コーラス(バックグラウンドボーカル)のような質感もありますがシンセの類の妙か。
といったところで、ボーカルはダブリングなどなくコーラスパートも入っていないのではないかと思います。一本道の玉置浩二の歌唱が明瞭に奥深く響きます。ホール系のリバーブでしょうか。すっとトンネルの向こう側の出口に向かって抜けるような、まとまりと貫通力のある奥行きです。
感想 玉置浩二の歌唱
玉置浩二の歌唱の完璧なコントロール、表現力、声質のずば抜けた技量、その魅力は私がどうこういうまでもなく有名でしょう。でもちょっと、努めて言葉にしてみます。
鼻に無駄に抜ける成分が少ないのでしょうか。口の中の奥のほう、奥歯のすき間から胸の内側あたりに響きの中心があるような感じ。こういう響きのポジショニングを保持すると、すこぶる歌声が安定するのかもしれません。
学校の音楽教育やほかボーカルトレーニングの先生が「のどをひらけ」という表現をするのに出会ったことがある人は少なくないのではないかと思うのですが、この助言では感覚を必ずしも共有できないと思います。「自分の歌の響きがうまくいっていると感じている人」が、自分の感覚を「のどを開く」と表現することがあるかもしれませんが、その表現で響きの位置を多くの人とは共有できない気がします。
ここで私が言っている「響きの位置」というのも非常に観念的。私も教え手としてはこれではダメかもしれませんね……ただ、少なくとも鼻腔に空気を過剰に抜けさせると玉置浩二の歌とは反対の方向性になる気がします。口腔の奥のほうから胸にかけて響くと、結果として体の中心に近い部分が十分に響くので、頭蓋骨や副鼻腔といったより遠い位置まで自然に共鳴するのではないでしょうか。
玉置浩二が映像でみせる歌唱で、眉間をちょっとすぼませ、眉尻や口角の筋肉などをやや持ち上げてみせるような表情は、曲の内容や音楽性を伝えるパフォーマンスと不可分だと思いますが、同時に、体の中心に近い部分の響きを頭蓋骨や副鼻腔のほうに導くために自然にこうなるのではないかと思います。
青沼詩郎
『ワインレッドの心』を収録した『安全地帯Ⅱ』(1984)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ワインレッドの心(安全地帯の曲)ギター弾き語り』)