表情、身振り、視線。体ぜんぶではなつ歌唱。演劇や朗読の素養もあるのでしょうか。ドラムスのグルーヴが細かく巧みです。エレクトリックピアノがじんじんと響きます。ギターのコーラスがかったサウンドがずっと風呂敷のようにアンサンブルをつつみます。男声コーラスもシュッとしたイケメンな線です。惜しいところで映像が切れます。
Carpenters『Yesterday Once More』リスニング・メモ
ピアノのストロークとともにすぐ歌。やがてハイポジでベースが入ってきます。
ドラムスもBメロ(?)でイン。ドコッと落ち着いたタムの音。歌のカレンがドラムスも担当しているそうです。歌を引き立てる申し分ないドラムスです。ハットのチッチッという音、スネアのリムのカッというのとオープンのタスッというサウンド。
カレンは、スネアを静かに打っても良さそうな場面でもクローズドハイハットを選ぶことが多いように思います(これは他の曲を聴いたことのある体験から申し上げてますが)。うるさいのと、より静かなのだったら、後者を選ぶというサウンドの落ち着きへのアプローチがあらわれているように思います。太鼓類も、ミュートがめちゃめちゃ効いていて余韻の短いタイトな音です。それでいて、コーラスが結びにむかう途中や構成がつぎの展開にうつるときなどに聴けるタカトコといったフィルイン(オカズ)はロックレジェンドのような豪快さも持ち合わせています。ウラでハーフオープンから一瞬でクローズさせるハットをオカズに交ぜるなど、目を見張ります(耳を聴き張ります?)。ボーカルとの二足のわらじなんて馬鹿にできたものでは決してなく(本当に失礼!)、この人、とんでもない耳と表現とコントロールの持ち主です(何を私風情が言えたことか!)。丁寧で繊細な歌唱で、演劇の素養でもあるのかしらと前項で思いましたが、ブラスバンドやオーケストラのような、大編成でのアンサンブル経験も持っていそうな音量や感情のコントロールを持っていると感じました。彼女のパーソナルを私はまったく知らないので想像ですが、それくらい、経験で研ぎ澄ませないとこの境地には至れないのでないかと思えるダイナミクスです。経験がなくとも耳の力と表現で彼女ならここまでやれてしまうのかもしれませんけれど。
ストリングス。コーラスと一緒にサスティン。曲想をひろげ、ロックをただのロックにとどめない広がりを与えた立役者のひとつがストリングスかもしれません。フレーズは白玉(長い音符)中心でさりげないですが、ハーモニーのボディを成す重要な存在です。雑に聴いた場合でも曲の印象の情報量をけっこう占めるのではないでしょうか。
オーボエが2コーラス目の平歌で舞います。それからサビでボーカルのラインに呼応するオブリガード。ここぞの武器が光っています。
エレピ(電気ピアノ)とピアノ(生ピアノ)。左のほうにエレピがおり、真ん中に生ピアノがいます。どちらもリズムとハーモニーを出す感じですが、前半は生ピアノに華。1コーラス目がおわって次のヒラウタが始まる前あたりに、エレピがオブリガードしてきて存在を私に知らせます。生ピアノはストロークとは別トラックで、右のほうからたまにオブリガードのフレーズを入れてくる、きらびやかできれいなトーンの奴もいるようです。
コーラス。サビから入ってきて華やぎます。左にカレンズボイス、右にお兄さんほか?男声がいますね。ストリングスと相まって、コーラスも曲の印象の情報量を多く持っていきます。こういう味付けがポップスをさらなる高みに押し上げるのですね。
ハープのようなナイロン弦系の音が2コーラス目のヒラウタでポロンポロンと8分音符でアルペジオ。柔和で器の大きい人に見守られている気分です。傍に女神がいるような。悠久の構想をちょっと添える、いい塩梅です。
感想など
ラジオでお気に入りが流れてくるのを待ったものだわ、といった感じの歌詞? でしょうか。でも、そいつらはずっと心のなかにいるんだぜと語りかけてくれている気がする、ウルっときちゃう曲です。
久しぶりに改めて聴いてみたら、この音楽の本質はロックだなと思いました。なぜでしょう、音づくりへのアプローチ、態度がロック的だとおもったのです。じぶんたちでやってやるぜという魂が奥にある。サウンドのまとめ方のせいでしょうか? ストリングスや管楽器をつかうなど、歌謡曲のような、スタンドナンバーを生産するノウハウが活きている感じもするのですが、ドラムスを中心に据えたサウンドメイクのせいでしょうか、あくまで彩りを広げる役割で良い塩梅でそれら(弦アンド管)が用いられている。
ドラムスって本当に重要。歌っている人と同一だということが、この塩梅をより素晴らしいポジショニングで成立させているのもあるかもしれません。
歌のあまりの透明度、その光陰の機微が見事すぎて……あとはやはりアレンジメント、ウワモノの洗練でしょうか、それらがこの曲を世界のポップスたらしめているし、誰もが「既知の名曲」として認識し、悪い意味でいうと日常で通り過ぎがちな曲でもあると思うのです。私が学校でつかった教科書にさえ載っているし、この曲が入ったMD(古の私の世代アイテムです笑)やらCDも私の身の回りのそこここにありもするのですが、のちの人生においてそれらに触れることはふだん全然なかったのです。
それらがそこにあることは、必要とするときにはきちんと思い出せる。こうやって久しぶりにまた触れているのは、後発の音楽サブスクリプションサービスのせいでもあるのですが、「そうそう、これこれ。あるよねぇ。名曲」と、いつでも心の中にタグがあるのは、そうやってどこかで触れてきた過去があるから。たとえ、ないがしろにしているといってもいいほどの軽微なすれ違い方だったとしても、「この人の顔(この曲のサウンド)、知っている」という刷り込みがあるのです。曲の主題はもっとこう、「青春時代に、心の中にはっきりとメモリを築いたお気に入りの曲」かもしれませんけれどね。
個人的には、最近よく聴き直している私のヒーローのひとり、チューリップや財津和夫の音作りも思い出します。ということはもちろんビートルズもね。あと、赤い鳥。カーペンターズも含め、このあたりは近い年代の活躍があります。単に同時代というのもあるかもしれませんが、それ以上の響きあいあがあるのは非当時者の私ですら想像のいたるところです。本日の結びはこうかな。ポップだと思ってたカーペンターズは、ロックでした。
青沼詩郎
ユニバーサル・ミュージック・ジャパン>カーペンターズ へのリンク
お兄さんは大学で音楽専攻だったのですね。カレンはやはりマーチングバンドの素養がありました。納得。
ロッキング・オン>カーペンターズ、17年ぶりの新作についてリチャード・カーペンター本人が語る動画を公開。12月にはプロモ来日も
近年もこんな動きがあったのですね。名曲を管弦楽のリアレンジとともに、の趣向。
塩梅、みたいなものはやはり意識するみたいですね。
『Yesterday Once More』を収録したCarpentersのアルバム『Now & Then』(1973)
『Yesterday Once More』を収録したCarpentersの2枚組ベスト
ご笑覧ください 拙演