一生記憶に焼きつく午前4時があるとすれば。

4:00A.M. 大貫妙子 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:大貫妙子、編曲:坂本龍一。大貫妙子のアルバム『MIGNONNE』(1978)に収録。

大貫妙子 4:00A.M.を聴く

圧巻のエンディングに感動します。夜が明けていき、勇ましい未来に突進していくようです。

明けていく時間の幅と未来に臨む積極性、好戦的な勇ましさを感じるエンディングに対して、本編(本文、エンディングに至るまで)の楽曲が描くのは、至極刹那的な情景に思えるのです。

表題の「4:00A.M.」というキーワードがなかったらこういう解釈や味わいに私が至ることができるのかわかりませんが、歌詞、すなわち本文がある部分、言葉の意味が描くのは、主人公の気持ち、姿勢、意思など、まさに朝4時ピッタリの瞬間のみを写真のようにカチリと記録した、一枚の絵のような鮮やかさがあります。一瞬なのに、前後の宇宙的な広がりを含有する写真とはまことに見事なものです。

D♭の長和音に解決すると、スっと腑に落ちた安心感があるのですがそれはひどく一瞬です(「闇は息をひそめて」の「めて」のあたりなど)。ずっとなんとも居所のない、枠型のない空間をフワフワと漂い焦りや不安の入り混じった響きのなかを泳いでいる気分。闇色の絵の具の溶けた海で錨と離別するような……。

「Lord, give me one more chace」は主人公の心の願いなのか祈りなのか。その割には、バックグラウンドボーカルにこのコーラスの定句を代弁させて(委ねて)メインボーカルがレスポンスするかたちです。心の声が先にものを言って、現実の自分がそれにつづく、フォロワーになる、相槌を与える形なのです。

余談ですが、私のフェイバリットソング、ロネッツの『Be My Baby』もコーラスが「Be my,……」とサビの定句を先に歌い出してからメインボーカルがあとに続く(単純に順番としての意味で)デザインになっています。

『4:00A.M』の話に戻ります。低音楽器の絡ませ方が良いですね。エレキベース、ピアノ、それに管楽器:トロンボーンなどもいるのでしょうか。キメどころは合わせますがベースは病的なくらいに闊達で多動でテクニカルです。エレキギターも玄人好きする感じですね。2本くらい絡んで呼応しあっているような印象です。ミュートがきいたトランペット、そしてフルートが洒脱で垢抜けた都市の情景を夜明けの薄闇に浮かび上がらせます。ドラムスの影のひそめかたがかえって技量を感じさせ、エンディングのシメで左右にひらいたタム類を爆発させ鑑賞者の私をカタルシスに導きます。

大貫さんのまっすぐで「未熟さ」とは別種のあどけなさ漂う……「純」「直」などの観念を思わせるボーカルが壮麗で闊達で有象無象のあわさった「都市の闇あるいは光明」そのもののオケにくっきりとした線を描きます。こんな作画タッチの漫画があったらぜひ読みたいと思わせる、鑑賞する人の身の周りの時流や環境を超越するサウンドに感動します。

青沼詩郎

参考Wikipedia>MIGNONNE

参考歌詞サイト 歌ネット>4:00A.M.

大貫妙子 公式サイトへのリンク

『4:00A.M.』を収録した大貫妙子のアルバム『MIGNONNE』(1978)