リンゴ よしだたくろう 頬張れば甘く、喋れず

アルバム『元気です。』収録曲。作詞が岡本おさみさんで、祭りのあと、旅の宿など岡本さん作詞の曲を複数収録しています。

恋愛のウブなほほえましさを描いているようにも見える他方。E♭mのアコギの響きが不穏です。お前は可愛いな、りんごの汁みたいにこの恋は甘いな……との味わいを見出すも良いですが、僕の方がお金を出してお釣りは君がもらって……など、一見なんでもない表現として受け流してもしまえるかもしれませんが、恋愛によって自己の境界が曖昧になっていく鋭い真理をついて思えます。恋愛は結局、時間や労力や精神活動をスポイルする。吸い取ってしまう。個人の自由を、本人の意思かのようにみせかけて実は束縛してしまう魔法、呪いなのです。

汁を吸ったら甘い。しかし欲張って頬張ると話せなくなる。りんごのモチーフ、主題が恋愛の表裏一体のあやうさと魅力、退廃と活力の抱き合わせと飛躍・飛距離を描いていて絶妙なのです。

リンゴ よしだたくろう 曲の名義、発表の概要

作詞:岡本おさみ、作曲:吉田拓郎。よしだたくろうのアルバム『元気です。』(1972)に収録。

よしだたくろう リンゴを聴く

左右のアコギが雄弁。親指にサムピックをはめて演奏するようか、音量とスピードを両立します。

吉田さんのボーカルはダブリングの音像で、リンゴを買い求める「2人」の影を投影します。あっちの世界からの言葉を、感情を排除して代弁しているみたいな理知、冷たさのあるボーカル。ズモズモっとあやしくドライブしたベースのかろやかかつ深い息遣い、ピックのアタックなのかゴシゴシと楽曲の歩調にスピードを加えます。

ほとんどAセクションだけで成立しているような曲。短いとはいえこれだけで1分半を超える演奏時間があるのが逆に不思議。1番は14小節(12+2小節程度のはみだしもしくは歌詞の空白)、2番と3番は12小節(10+2小節程度のはみだしもしくは歌詞の空白)。文章量のみならず小節数すらフレキシブルに伸縮させる“たくろう節”といったところでしょうか。12小節が基本とするとブルースのような様式・形式をしている楽曲ともいえるかもしれません。

喫茶店のシーンが出てきますが、これも“高円寺”あたりのお店、現実にあるようなないような真実の街:高円寺のい喫茶店なのかもな、なんて思います。

君のぷくんとふくらんだほっぺは白いのかな。りんごを齧る唇やりんごは赤いかもしれません。すすけた、薄汚れた、喫茶店の脱色されたモノクロ感に恋愛や登場人物がコントラストの色彩を添えます。モチーフや主題が短い曲を彩度強い存在感に昇華します。

青沼詩郎

参考Wikipedia>元気です。

参考歌詞サイト 歌ネット>リンゴ

吉田拓郎 | FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT,INC.へのリンク

『リンゴ』を収録したよしだたくろうのアルバム『元気です。』(1972)