作詞:阿久悠、作曲:森田公一、編曲:高田弘。桜田淳子のシングル(1976)。

ドタバタ劇がはじまりそうなブラスのイントロ。エンディングでも金管トーンが活躍。二分半ほどでハイライトをぎっしり積んで夏の通り雨のように去ってしまいます。

これまたとても風通しのよいアレンジが好感です。ベースが音域広く、ニュアンスに富み躍動あるプレイで雄弁。ドラムスとコンビして(楽曲の音楽性はさておき)非常にファンキーでグルーヴィーな演奏。快活です。ストリングスの16分割も非常に颯爽としておりキレ良い。

エレキギターのストローク、そしてピアノの音作りが非常に軽やかになっているところも、音の風通しの良さに直結します。各パート「俺が俺が」ではこの調和はなし得ません。サビで右側に振ったエレキギターのオブリガードが存在感あります。

こまやかなコーラス(バックグラウンドボーカル)が主役を食わず、余白を奪いすぎず、非常に小気味良いです。

種々の演奏をしっかりキメて、キレのよい勢いのあるアレンジを成立させるオケ・バンドの技量に感服します。

桜田淳子の、つたなさ・あどけなさ、素朴な発声が音楽的にも絶妙な表情をもたらします。わずかに下方向にかかるポルタメント具合など非常に気持ち良い。朗々と「歌手然」と「どうだ私が主役だ聴け!」としすぎない、身の周りに起こる平凡なドラマの登場人物として存在してもおかしくなさそうな、良い意味でのありふれた純朴な存在感が現在の私や当時(から)のファンの心を掴んだところもあるのではないかと想像します。

“誰かと不意に くちづけするかも”(中略)“すてきなひとに誘惑されそう あぶない あぶない 夏はほんとにご用心”(『夏にご用心』より、作詞:阿久悠)

歌手としての傲慢さには欠けるも、素朴な魅力を有する桜田淳子の歌唱のキャラクターをよくつかんだ楽曲ではないでしょうか。この主人公を好きになる身としてはひやひや、いえ、やきもきしてメラメラしてしまいそうですね。この夏はいかにして主人公を他の輩から遠ざけるか……と、独占欲が己を支配しそうです。みみっちい策を怠れば離れてしまうような仲であればそれまでなのですが……。

青くさいエゴを想像しては「遠いなぁ」などと嘆きたくなります。繰り返す夏とともに、用心の種もうつろいます。じじくさい……。

なるべく涼しいところでこまめに水分補給。健やかに夏をお過ごしください。

青沼詩郎

参考Wikipedia>夏にご用心

参考歌詞サイト 歌ネット>夏にご用心

ビクターエンタテイメント>桜田淳子

『夏にご用心』を収録した『GOLDEN☆BEST 桜田淳子』(2007)

夏に御用心